第9話

僕に友達がいない以上はこの家は夏奈お姉ちゃんの友達しか来ないわけで、もはやたまり場となっていたが僕の家でもあって夏奈お姉ちゃんの家でもあるので文句は言わない。逆に夏奈お姉ちゃんが友達を連れて来たら僕はその人と知り合いになれるので僕にとって都合がいい。


「えっとぉ……和田お兄さんでいいんですよね?」


「そうだが、なんで夏奈の後ろに隠れてるのだ? 僕は君と仲良くなりたいんだが」


「それは和田くんが初対面であんな行動を起こすからでしょ。雪くん、少し変なところはあるかもしれないけど和田くんはいい人だから」


夏奈お姉ちゃんの友達を疑う訳では無いし夏奈お姉ちゃんと友達である以上はまともな人なんだろうけど、距離の詰め方がちょっと普通の人より早い。正直相手の方から詰めてきてくれた方が僕は助かるのだが度が過ぎたら怖いと思うだけだ。


「あんまり怖がらせちゃダメだぞ和田くん」


「大丈夫さ未来、夏奈に注意されたからな。それに僕も色々抱えてる人間だ、西園の過去は知らないが大人が怖いということはだいたい親からの虐待とかその辺だろう」


大人が怖いと言ったら大人に何かされたという理由が真っ先に思い浮かぶだろう。それで親元を離れているから和田お兄さんは親からの虐待だと判断した、確かに虐待は正解だがあの人たちは本当の親じゃないし名前も知らない。


あの人たちの中で1人だけ名前を知ってるが話したのは1度きりであの日から1度も会っていない。同じ学校というのはわかっているが何組なのかも分からないので会おうと思っても厳しいだろう。


「そういえば副生徒会長も西園って苗字だったよね。雪くんって実は姉とか居たりする?」


「西園なんて苗字は結構いると思いますよ? というか僕に家族はいませんって」


「そう? 変なこと聞いちゃってごめんね」


そうは言ったもののあの時に生徒会に入ってるから頼ってと言われたし西園で副生徒会長なら十中八九お姉ちゃんだよう。でも僕とお姉ちゃんはもう他人だし、の姉弟だったというつもりもなければそもそも関わるつもりもない。


まぁ副生徒会長という立ち位置にお姉ちゃんがいる以上はいずれ関わることにはなりそうだが意地でも他人のフリだ。


「そういえば雪くんは同学年の人で誰か友達は作れた?」


「作れてないですね、僕の友達は変わらず夏奈お姉ちゃん達だけです。まぁ話すくらいの人ならいますけど」


その人は入試1位の雨音さん、なんでかは知らないが僕がわざと点数を落としたことに気づいており、次のテストでは正々堂々勝負しようかと言われた。僕はそんな勝負に興味は無いが乗っておいたらその人と友達になれそうだったので応じておいた。


全教科95点はさすがにあからさま過ぎたかな?


「それじゃあちょっと勝負を挑まれたのでその対策をしてきます。あとは3人で楽しんでください、僕は1人で集中しておくので」


「もしかしてテスト関係?」


「そうです、学年一位だった雨音さんから挑まれたまして。僕がわざと点数を落としたことに気づいてて次は正々堂々勝負がしたいらしいです」


僕は相部屋に戻って引き出しの中に詰められているいつから使ってるか忘れた参考書を持ってきた。


「そういえば明日ってなんの予定があるの? 絶対外せないってらしいけど」


「気になるか? じゃあ少し昔の話になるが聞いてくれ、少し暗い話にはなるがな」


「うん」


「それはもう10年前の話だな、僕は一般的な家庭に生まれた。どこにでもいるようなそんか家庭だったが少し違うところは両親が共働きでほとんど家にいなかったことぐらいだ。それは僕も納得していたし月に1回は帰ってきてくれていたのでそれで十分だった」


あの人たちも共働きだったが週に一回は帰ってきていた。まぁその帰ってきた時にストレス発散で僕にあたっていたのだが。


「それで、父さんと一緒に外に出かけた時のこと、僕が父さんと久しぶりに出会えて浮かれていて父さんの前を歩いていた。それで僕が交差点に入ったのだが左から車が来ていたんだ、だが僕はその時ちゃんとこちら側が青というのを確認していた。それで僕が轢かれる直前という時に父さんが僕を庇って轢かれた、そして病院に搬送され今も目を覚まさないってところだ」


僕には親と会えない悲しみは分からないが、大切な人が入院したんだからその時の和田お兄さんはどんな気持ちだったのだろう。


夏奈お姉ちゃん達はこういう類の話に慣れていないのだろう、話を聞き終わってから口を開かない。


「なら僕も一応言っておきましょうか。簡単に言うと僕は孤児で、拾われた後に虐待されて高校に受かった暁にお金だけ渡されて追い出されました」


「ず、随分簡単にまとめるんだな……。拾われて虐待されて、西園は正直追い出されてよかったと思ってるだろう? そうじゃなかったらこんな声のトーンじゃない」


「その通りです、追い出されて時の音声は録音してますしこちらに押しかけてきたら警察に提出しようかなと思ってます。追い出されてすぐ出しても良かったんですけど顔をすら見たくないので」


こんな話を長々とするものじゃないのでとりあえず話の話題を変えて2週間後のテストの話になった。

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