第8話
僕は未来お姉ちゃんと先に帰って欲しいと言われたので帰路に着いている。
「ねぇ雪くん、今日初めて学校に来て夏奈が有名人だったことに驚いてる?」
「そのせいで一緒に登校した僕も結構被害を負いましたからね……。事前に言っておいてくれたら1人で登校したんですけどね、まぁ1回一緒に来てしまったので手遅れだと思いますけど」
一度一緒に来ているのに次から別々で来るのは喧嘩でもしていない限りおかしいだろう。僕も夏奈お姉ちゃんと一緒に行っていた方が安心できるのでそれはそれでいいのだがその度に噂されるのだけは避けたい。
「雪くんに伝えたらそう言うと思ったから言わなかったんじゃない? それと被害を負ったのは夏奈のせいでもあるけど雪くん自身のせいでもあるかもね」
「別に学年一位で入った訳でもないですしモテるってわけじゃないですよ僕は」
「確かにモテるのとは違うと思うけど、可愛いから愛されキャラ的な? まぁそれでも夏奈と一緒に登校したことがでかいと思うけど。今頃夏奈のクラス以外では弟が彼氏だと思われてるところじゃない?」
「そりは困りますね……」
夏奈お姉ちゃんにはもっと僕なんかよりも優れた人の方が合っている。僕はいつも守られてばかりで誰かを守ることは出来ないし彼氏というものに向いていないと自覚している。
「今頃夏奈が色々説教してると思うし明日からは今日みたいなことはなくなると思うよ。逆に一人で話しかけて来る人が多くなるのかな? それと1人だけ上級生がいたと思うんだけど、夏奈が唯一作った男友達だから悪く思わないであげてね」
「唯一ってどういうことですか?」
「噂もあってほとんどの男子は近づかないんだけど、そもそも近づく人も付き合うことが目当てだから基本的に夏奈も無視してたんだよね。それで話しかけてきた男子の中で唯一容姿以外を褒めたのがさっきの和田くん、だから夏奈は和田くんが少しグイグイ来ても友達でいるのかな?」
僕も夏奈お姉ちゃんと初めて出会った時に美人だと思ったしやはり付き合うたい人は沢山いるらしい。夏奈お姉ちゃんは今までの男子が欲望丸出しだったので初めてそうじゃない人と出会えたから友達なんじゃないか。
「僕もそういう特別な友達が欲しいですね。今日は友達を作るどころじゃなかったので」
「ひとつ聞くけど私たちは友達?」
「友達と言えば友達かもしれませんが、先輩ですし僕のお姉ちゃん的な存在です。僕は生粋の弟気質ってことを理解したので」
夏奈お姉ちゃんに弟ができたみたいと言われたので僕は結構年下に見られるのだろう。別に可愛がられて悪い気はしないし夏奈お姉ちゃん達の要望でもあるので僕はこのままでい続けようと思う。
※※※
「僕はただ仲良くなりたかっただけなんだがな。夏奈の同居しているのなら僕が夏奈と遊ぶ時も必然的に会うじゃないか、その時に初対面の方が気まずいと思うのだが?」
「確かにそれはそうだね、でも雪くんは過去に色々あって大人、もしかしたら人間自体に恐怖を覚えてるかもしれない。だから仲良くなりたいならゆっくりとね」
「夏奈はその色々の部分を知っているようだな。まぁ人が抱える過去はあまり探るものじゃない、夏奈の言う通りにしよう」
和田くんはこういう所は物分かりがいい、他の人ならもっと聞いてきそうな話だが和田くんだけは聞いてこない、自分も過去にそういう経験したかのような、そんな対応だった。
「勘なんだけどさ、和田くんも過去に何かあったりした? だから雪くんのことも聞かないんじゃないの?」
「夏奈は鋭いな、確かに僕もそういう経験した人間だ。忘れたいことだが、僕はこのことを忘れてはいけないんだ、忘れたら何もかも失ってしまう」
私や未来のように昔から今まで何もなく、平和に過ごせてきていることを感謝しないといけない。雪くんみたいに家を追い出されたりしてる人も居て、和田くんもそういう経験をしている。
そんな経験をしても今も強く生きてる、だから私たちのように何事もなく過ごせている人は簡単に死にたいなんて言ってはいけないのかもしれない。
「それで、結局いつ私の家に来るの? 雪くんはもちろんのように許可してくれたから」
「明後日以外ならいつでもいいさ。明後日は絶対に外せない予定があるのでな」
「じゃあ明日で。多分未来も来ちゃうけどそれでいいよね」
「ああ、異議は無い」
和田くんとは家が真逆なので一緒に帰ることはないが、たまには一緒に帰ってみたいと思ったりもする。唯一の男友達だし色々話したいことがあるのだ。
※※※
「明後日か、僕がお見舞いに行く日は。今思えばあれは誰が悪かったんだろうな、僕なのかそれとも……」
あの時の信号はちゃんとこちら側が青だったしあの運転手はちゃんと前を見ていなかった。でも時々思ってしまうんだ、僕があの時に走って交差点の中に入らなかったら父さんが僕の代わりに轢かれることはなかったんじゃないかって。
せめて一緒に歩いていたのなら、2人とも怪我で済んでいたかもしれないのに。唯一の救いはまだ生きているということのみだ。
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