第7話

とうとう入学式の日で、僕達は制服を身につけながら学校に向かっていた。このシェアハウスは学校に近いこともあって準備する時間は十分に取れた。


「なんだか色んな人の視線がこっちに向いてる気がするんですが気のせいでしょうか?」


「あはは……それは多分私のせいだね。話しかけてこないだけマシだとでも思っておいて」


どういうことか分からないので少し耳をすまして周りの人の声でも聞いてみよう。


『おい、隣に歩いてるの誰だよ。彼氏がいたなんて聞いたことないぞ』


『学年一の美少女なんだから彼氏ぐらい居てもおかしくないでしょ。それにしては小さすぎるし今日入学式だし弟なんじゃない?』


なるほど、話の内容的に夏奈お姉ちゃんが学年一の美少女ということで有名、つまりそんな有名人の隣に僕がいるからこんなに見られているということか。


「僕はそんな話聞いてませんでしたよ? どうするんですか、周りの人は既に弟だと思い込んじゃってますよ」


「まぁ勝手に思い込んでるだけだしそれは放置しておけばいいんだけど……。多分今日はお互いに大変だよ」


この後に人が押しかけてくる可能性はおそらく9割以上。夏奈お姉ちゃんは噂されてきて長いと思うけど僕なんかは学生と関わること自体が初めてなのでまともに対応出来る気がしない。


「入学式の後は説明があって終わりだけど、なるべく早く雪くんのところに行くね」


「そうしてくれると助かります。僕はあんまり人と話したことがないので」


一旦夏奈お姉ちゃんと別れて自分の教室に向かう、一年のところまで夏奈お姉ちゃんの噂が流れていたらと思ったがさすがに流れてなくて安心した。僕より大きい人がいっぱい居たがとりあえず自分の席に座ることにした。


正直なところ隣は女子がいい、男子よりかは女子の方が話しやすいし怖いってこともない。隣の席の人はまだ来ていないが名簿順の席はすぐに変えられるのであんまり気にしない方がいいのかもしれない。



※※※



こうなる覚悟はしてきたつもりだったけどやっぱり大勢と人があのことを聞きに来るよね。


「天海さんの弟くん可愛いね。というか天海さんに弟がいたなんて知らなかったなぁ」


「弟じゃないよ、シェアハウスの同居人で最近であったばかり。まぁ可愛いっていうのは同意だけどね」


『おいおい、あの子弟じゃなかったのかよ。天海さんと同居してるなんて羨ましい……俺もそのシェアハウスに住もうかな』


『諦めとけただでさえない居場所がさらに無くなるだけだぞ』


男子たちは私に話しかけてくることは無いがコソコソと話してるのでいい気分では無い。それを考えればグイグイ来るけどしっかり会話してくれる和田くんの方が好ましい。


そんな和田くんでも今みたいに女子たちで会話している中には入ってこない。そこら辺の常識をもちあわせているので男子の中では1番仲がいいだろう。


「夏奈、やっぱり噂になっちゃったな。これも学年一の美少女だからしかたないか」


「その名前を出さないで、私だってそんなのになりたくてなってるわけじゃないし勝手に作られただけじゃん」


「僕だって夏奈を怒らす気は無いんだよ。で、今週はいつになったら一緒に遊んでくれるのかな?」


和田くんと話すと必ずこう聞かれるのだが前なら私1人だけだし誘われたら承諾していたけど今は雪くんもいるので雪くんの許可も取らないと行けないだろう。


「同居人ができたからその子にも許可を取らないと遊べないかなぁ。どうせ一緒に帰るしその時に聞いてみるよ」


「その子は朝一緒に来ていた子だろう? 後で挨拶でもしておこう」


「その子、過去が複雑で大人を怖がってるから対応に気をつけてね」


雪くんは学生なら大丈夫とは言っているが今まで出会ってきた学生の人は全員女性なのだ。和田くんは別に怖い人でもないしむしろ優しいので大丈夫だと思うが私と付き合いたい人がもしかしたら雪くんを利用しようとする人も出てくるかもしれない。


私たちは入学式を見に体育館に移動して代表の言葉を後ろの席から聞いていた。


雪くんはこんな大勢の前で話すことが出来ないと判断したからわざと二位になるように点数を落としたのだろう。私が学年一位を取れるほど頭が良くても全生徒の前では話したくない。


何も代わり映えのない入学式を終えて、雪くんが来るのを待っているのだが一向にやってくる気配がない。


中に確認しに行こうかなと思った時に多くの人に囲まれた雪くんがやってきた。その群衆の中には和田くんもいた……後で怒っておこう。


「あ、夏奈さん助けてください! 特に僕の隣にいる人を何とかして欲しいです!」


「和田くん、とりあえず雪くんから離れようか。さっき言ったよね?」


「すまないね、好奇心が抑えられなかったものでな」


周りの人を雪くんから離れさせてとりあえず私の後ろに隠しておく。そうすれば噂を知っている人は近づかないし知らなくても近寄りづらいだろう。


「やっぱり学生でも怖い人は怖いです。特に詰め寄ってくる女子たちが……夏奈さん、助けてくれてありがとうございます」


「私の役目みたいなものだし。それでちょっとたった今用事ができたから雪くんは未来と先に帰ってて」


「任されたー。それじゃあ雪くん、先に帰っておこうか」


雪くんは帰り始めたところで少しこの人たちもお話をしよう。


「雪くんは詰め寄られるのが苦手だから今後はそんなことないようにね。1人でゆっくり接してれば大丈夫だから、雪くんは優しいし」


1年生達はこれでいいとして問題は和田くん。


「1年生たちは仕方ないかもしれないけど、和田くんにはちゃんと言ったはずだよね? 遊ぶ話は一旦白紙にして、ちょっと説教だね」


「勘弁して欲しいな、僕だって暇じゃな……がっ!?」


「言い訳なら後で聞くからねー」

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