第6話

とある日、一人っ子だったあたしに義弟ができた。路地裏で眠っていたその子を保護したと話を聞いたがあの人たちがそんなお人好しなことをするわけが無いことは既にわかっていた。


最初は優しくしていても成長していくにつれ対応が適当になる、それはあたしも体験したことだがさらに成長していくにつれ暴力など、段々とエスカレートしていった。でもあの子は拾ってもらって、今まで過ごさせてもらってる恩を感じているのかあの人たちの前では何も反抗はしなかった。


あたしたちは顔を合わせることはあっても話したことは無いしお互いの部屋に入ることもなかった。だけど部屋は隣なので深夜に泣き声が聞こえてきていた。


「あたしたちは世間体から見てまだまだ知らないことが多い子ども、あの人たちにどんな事情があってこんなことになってしまったかは分からない」


あの人たちだって元からあんなことをしていたわけじゃないだろう。あたしが一夜の過ちで産まれたことは知ってる、だからあの人たちはあたしに素っ気なくする。子どもが要らなかったのだとしたらあの時に拾う必要なんてなかった。


仕事でのストレスなのかまた別の理由なのか、それをあたしたちが知ることは無い。


1月に入った頃、珍しくあたしたち全員が集められた。


「こいつとは養子関係を切ろう」


「っ!」


「何を驚いてるんだ、娘だったら親としての責任があるがこいつはただの養子関係、切ればそれで終わりだ。安心しろ、追い出すにしても訴えられるわけにないかないからな、こいつが受かってからお金を渡して追い出すさ」


今の発言さえ録音できていれば訴えることも出来たがそんなことをさせるほどこの人たちも頭は悪くない。スマホは持っているがこんな話をするなんて思っていなかったので部屋に置いてきてしまった。


受かった高校はあたしと同じところらしい、まぁお金をかけたくないと思ってるんだから当然の話ではある。一緒の学校になるならあたしが支えてあげないと、大人に恐怖を覚えちゃってると思うし。


「そうだ、俺たちはこいつが受かったら仕事で海外に行く。しばらく帰ってこないと思うが家は任せたぞ、もちろん1人でな」


高校入試は数日後、受からないということはないと思うがその日が過ぎればこの家から追い出されてしまう。お金を渡されてるとはいえ急に生活できるようなものなのか。


あたしが一緒に行ってあげたいがあたしの生活はあの人たちに支配されているので勝手な行動はできない。


あの人たちが外に行ったあと、私たちは初めて話をした。


「話をするのは今日が初めてだね? それで、1人で生活することになっても大丈夫?」


「……あの人たちから離れられるのなら一人暮らしなんて喜んでしますよ。僕は学校に入っても迷惑をかけたくないのでなるべく1人で居るようにします、その方が僕にとっていいので」


あたしと関わればあの人たちとも接触する可能性が高くなる。確かにあたしと関わらない方がトラウマを掘り返すこともないので最善と言えるだろう。


関われなくてもあたしは元気に過ごしている姿を見れたらそれで十分だ。他人のフリをすると言われてもいじめられてたり孤立していたりしているところを見たのならあたしは‪”‬友達‪”‬になるために関わるだろう。


「初めて話したのにすぐにお別れってなんだが寂しいね。さっきも言ってたけどあの人たちはしばらく居ないし学校であたしと関わっても大丈夫なんじゃないかな?」


「僕は義弟じゃなくなるんですよ。関わるとしても良くて友達、委員会なので一緒になって多少話す程度の関係が妥当じゃないですか?」


でも受験する時は同じ西園だから義弟だと通そうと思えば通せる。あの人たちはいないわけだし、事実として私たちは義理の姉弟だったんだから。


「学年一位の義弟はどんな人かなんだろうってなるのでやっぱり僕のことは知り合い程度に留めておいてください。僕を頼ってもいいですし、逆に僕が頼ることもあるかもしれませんが」


「それでいいんじゃない? 完全に他人になるよりはマシだから。一応あたしは生徒会に入ってるし色々頼るんだよ?」


「はい、ありがとうございます。今だけは結衣お姉ちゃんと呼ばせてください」


あたし達の会話は今日始まって今日で終わった。今日初めて話して、お姉ちゃんと呼ばれて……自分に義弟が居たということを実感できた。


もうすぐ家族じゃなくなるけど学校で友達としてやり直せばいいだけの話。


「そういえばお互いに名前知らなかったよね? あたしは結衣ゆい、君は?」


「僕の名前は雪、僕と同じところで生活していた人からつけてもらったんですよ。僕が見つけられた時に雪の上で寝ていたかららしいですよ?」


想像したら可愛い姿だが普通に寒くて凍え死ぬ可能性もある。ちゃんと防寒着を来ていたのなら少しくらい大丈夫だと思うけどその時は薄着だったのだろう。


「じゃあ雪、また学校でね」


「結衣お姉ちゃんも学校頑張ってくださいね。二度とお姉ちゃんと呼ぶことは無いかもしれませんが僕は結衣お姉ちゃんがお姉ちゃんだったことを忘れませんよ」


「別に学校でもお姉ちゃんって呼んでくれていいんだけどなー」


「なら僕は違和感を覚えられないためにも学校で呼ぶとしたら年上の人は全員そう呼びましょう。もちろん知り合いだけで許可を取った人だけですけど」


そして数日後、雪は入試を受け二位で合格し、この家から追い出されてしまった。


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