第5話

シェアハウスを始めてからしばらくたってあと3週間も経てば僕も入学することになる。


正直に言うとあの人たちがどうしてこの高校を受験させたのかが分からない、別に飛び抜けて頭がいいところでもなければスポーツの名門という訳でもない。まぁそんなことを考える意味なんて無いかな。


「もうすぐ雪くんも私たちと同じ学校だね、先生も優しいし変な人は少ないから雪くんでも安心できるよ」


「別に学生は怖くないですよ? そうじゃなかったら今頃僕は夏奈お姉ちゃんから離れていますって。怖い学生がいることぐらい理解していますけどその時は僕に近寄らないでくださいね?」


僕だってあの人たちにずっとやられ続けていたわけじゃない。時には反抗もしていたし、物を壊したことだってあった、あの時の名残が残ってしまっているんだ。


実際未来お姉ちゃんにあの時と同じ感じで言ってしまったし、あの時のことは忘れていかないといけないと思った。


まぁそれ以前に学生があの人たちを超えるようなことができるわけが無い、殴られたり蹴られたりすることなんか慣れているし学校には対応してくれる大人がいる。


「夏奈お姉ちゃん達はそろそろ春休みなんですよね。誰かと遊びに行ったりするんですか?」


「うん、クラスの人達で進学パーティー的なことをやるらしいよ? 雪くんも一緒に来るんだったら連絡しておくけど。同じ高校の知り合いなら連れてきていいらしいし」


「僕まだ入学してませんよ?」


「大丈夫だって、新一年生なんだから。先輩と話せるようになっていた方が後に楽だよ?」


それは確かにそうかもしれないが夏奈お姉ちゃん達のクラスの中にまだ入学してすらない僕が入って大丈夫なのだろうか。


「お誘いは嬉しいですが、僕は行かなくていいです、僕は完全なる部外者なので。クラスの人達と存分に楽しんで来てください、その間の家は僕に任せて貰えれば」


「そう? じゃあ雪くんを呼ぶのはまた来年だね。来年も同じことをするかなんて分からないけど」


「僕は誘われただけでも十分ですよ。今まで誘ってくれるに出会わなかったので」


来年も今と同じように過ごせているかなんて分からないが、それでも約束をしてくれただけでも僕は嬉しい。


何も取り柄がない僕は勉強以外にすることがない、学年一位とまでは行かなくてもそこそこ頭がいいと認められる順位に入れればそれでいい。効率的には夏奈お姉ちゃんに勉強を教えてもらった方がいいと思うけど夏奈お姉ちゃんも休みたいだろうしいつも通り勉強を始めることにした。



※※※



このシェアハウスは相部屋なので雪くんの机が私の机の向かい側にあった。それで雪くんは勉強してる途中にそのまま机で寝落ちしていたので起こさないように抱えて近くにあるベットに移動させた。


その時に私は雪くんの机の上にあった1枚の紙を落としてしまったので拾い上げるのと同時にこれが何の紙の凄さを理解した。


「西園雪……。それにしても学年2位か、1位だったら代表で入学の時に挨拶があるからわざと2位以下になるように点数を調整してるね」


代表挨拶をしたくない人達からしたら入試の順位は2位が一番上、まぁ2位と一位の差は数点なのでさほど変わらない。ただ、入試で高い順位を取った人に待っているのが中間考査などでも高順位だろうという周りからのプレッシャー。


全くそれに影響されない人もいればそれに影響されて順位が大きく落ちてしまう人もいる。私はそもそも100位以内に入るか入らないかの点数なのでそんなことを気にしたこと無かった。


雪くんの点数がわざとだとして、学校にも行かず、遊びにも行かないで勉強しかしていない雪くんはこのあとも一桁順位を取り続けるだろう。


「私ももっと真剣に勉強してみようかなぁ。雪くんも入試じゃなければ何の調整をしないと思うし私も雪くんになるべく近づけるようにしないと」


一年の問題と二年の問題は違うかもしれないが二年でも最初の中間考査はほとんど一年の復習のようなものらしいが一年生は別に小学校の復習をするわけではなかった。


「それより、西園……私が入学した時の代表挨拶の人も西園って名前だったなぁ」


まぁ苗字が被ることなんて特に珍しい話では無いし私の考えすぎだろう。


「まさかね……」



※※※



「やっぱりあの人たちは親とは言えまないね、高校だってお金がかからない場所でなるべくあたしたちにお金を使わないようにしてるし……。迷惑だと思うなら産まなければよかったのにね」


別に今の学校に不満があるわけではないしあの親たちの仕事が終わらない限りは楽しく暮らせるので現状が続けば何も問題は無い。


それはそうとして3週間後の入学式が楽しみである。あの日の1回しか会話したことがないとはいえ、数ヶ月間会えなかった元義弟おとうとと再会できるのだから。




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