第2話

夏奈お姉ちゃんとの同居生活が始まったとはいえ僕は4月になるまで学校は無いわけだし朝ごはんを作ってあげたり出来たら良かったんだけどやっぱり僕は料理ができないみたいだ。


「すみません忙しいのに僕の分まで作ってもらって」


「大丈夫だって、来月から材料費は互いに出すし雪くんは朝起こしたり掃除してくれるだけで十分だからさ。別にいつも作ってたし1人分増えると言っても雪がだいぶ少食だからほとんど変わらないよ」


「それでも学校のない僕がやるべきだと思うので……。料理は後々教えてください」


料理以外の家事なら散々やらされてきたので大丈夫だが料理だけは絶対に今のままでは今後過ごしていけなくなるかもしれない。だからこそシェアハウスを選んだわけであってそうじゃなかったら僕は昨日ソファーじゃなくて冷たい床で寝ていたところだ。


「留守番よろしくねー! あと宅急便の人が来るかもしれないからそのときは出てもらっていいかな?」


「わかりました、そういえば宅急便だったらサインかハンコがいると思うんですけど養子関係を切られたので苗字ないんですよ」


生まれてる時点で養子になる前の苗字は存在していたとは思うが本当の親の顔は見た事ないし名前も聞いたことがない。


「でも受験の時はその苗字を使ってたわけだし学校でもその苗字なんだからサインはそれでいいんじゃない? それだったらお姉ちゃん呼びがおかしくなっちゃうかぁ」


「夏奈お姉ちゃんがそう呼んで欲しいって言って呼んでるだけなら何もおかしくないと思いますけど……。僕だってお姉ちゃんは欲しかったので」


「そうじゃないんだよ雪くん、家族でもないのに雪くんに私のことを『お姉ちゃん』って呼ばせてたら私が変人みたいになっちゃうじゃん」


「? 僕は別に夏奈お姉ちゃんと呼ばせても変人とは思いませんけど……。お互いに認めた上で呼んでるんですし、僕もそう呼びたいですから」


夏奈の言っていることはそういうことでは無いのだ。雪くんの見た目は身長低めで言ってしまえば身長高めの小学生と間違われてもおかしくないくらいなのでそんな雪くんに夏奈がお姉ちゃんと呼ばせてると知られたら‪”‬ショタコン‪”‬と呼ばれることだろう。


「じゃあ行ってくるね……さむっ!」


「学校の制服って案外薄いですからね。僕は外に出ることないのでマフラーどうぞ」


「ありがとう雪くん、改めて行ってきます」


僕は夏奈お姉ちゃんを見送って部屋の掃除を始めた。



※※※


「あったかい……分かってはいたけど雪くんのだから私からしたら少し小さいなぁ」


「おはよ夏奈。それで雪くんって誰? もしかして彼氏なの!?」


「違うよ、雪くんは弟!」


私は何を言っているのだろう、反射的に弟って答えちゃったけど雪くんとは出会って数日、夏奈お姉ちゃんと呼ばれていても苗字は違うしお互いにお互いのことをまだまだ知らない。雪くんなら弟の振りをしてくれそうだけどそれもいずれバレてしまう。


「で、その雪くんは何歳下なの?」


「中学三年生で来年から私たちと同じ高校に入学する予定。弟っていうのは反射的に言っちゃっただけで本当はただの同居人だよ」


「なーんだ、弟だったら夏奈に呼んでもらって色々遊ぼうと思ったのに。というか中学生なのに親元を離れるなんてすごいね」


「弟だとしても向こうの同意がないとダメだよ!? そもそも未来みくには絶対会わせられないよ」


未来は超が付くほどのショタコンで、年齢はさほど変わらなくても雪くんのような見た目は未来の好みにどストライクだろう。それを考えたら雪にお姉ちゃんと呼ばせてる私も未来と同類なのかもしれない……。


でも弟が欲しかったんだから仕方ないでしょ。(開き直り)


「雪くんはどこの中学校に通ってるの? ここら辺だと霞ヶ丘かすみがおか中とか?」


「詳しい事情は私も知らないけど、これは雪にとって言わない方がいいことだと思うから。あんまり良い話じゃないからね……」


雪くんはもう少しはしゃいでいてもいい歳だと思うけどやっぱり生い立ちによって人は変わってしまうんだなと思う。雪くんは隠してたつもりかもしれないけど身体の至る所にあった痣は引き取った人がそういう人だったのだろう。


「そういえば同居してるってことは雪くんと一緒に登校するってことだよね? それって周りの反応大丈夫なの?」


「まぁ雪くんの見た目なら大丈夫だと思うよ? 女子たちから人気になるだろうねー、可愛いから」


「そんなこと言われたらよほど見たくなってきたんだけど。何もしないから今度家に行っていい?」


今までイラストなので興奮してる未来しか見てこなかったが現実で興奮どころで済むのだろうか……? 流石に雪くんとは初対面だしそこら辺の常識は持ち合わせてると信じたい。


学校についてもいつもとやることは変わらない、4月になってほしいところだ。


「雪くんが別に暇なので今日来てもいいですよだってさ。私たちより言葉遣い丁寧なんだよね……」


「もちろん断る理由がないので行きます! なんかしたら容赦なくひっぱたいていいよ、そうじゃないと暴走した私は止まらないよ?」


「やっぱり今日遊ぶのやめようか」


「冗談ですごめんなさいまじで」


未来が言うと冗談に聞こえない。私だって出会って数日しか経ってないのに変な友達がいると認識されるのは非常にまずい。弟が欲しいと初日言った時点で私も変かもしれないけど重度のショタコンよりマシだと思いたい。


「雪くんも4月からここに通うことになるんだし知り合いの先輩は多い方がいいと思うけど、悪い印象与えたら終わりってことは理解した方がいいよ?」


「流石に私も限度は分かってるよ。そもそもショタコンだってことは夏奈にしか言ってないんだから他の人たちの前では装うって」


「私にも秘密にしておいて欲しかったなー。もう慣れたけど興奮するのは1人の時にしといてね」


私は何回か興奮している現場に居合わせているが本当に友達の私でも近寄りたくないレベルなのでもう二度と人の前でそういうイラストを見るのはやめて欲しい。


そして今日も授業じごくが始まるのだった。

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