シェアハウスに住むことにしたけど同居人が学校1の美少女先輩なんて聞いてない
桜木紡
第1話
僕は孤児だった。それも孤児院に入れられてたわけでもなく路地裏で文字通り地べたに這いつくばって生きてきた。
まぁそんな境遇の人は僕の周りに数え切れないほどいて、同じ境遇ゆえに皆家族だと思っていた。
そんなある日、僕は裕福そうな人に引き取られた。引き取り手が来た時は幸せだった。だけどその優しい顔が嘘だったということはすぐにわかった。
「こいつとはもう養子関係を切ろう」
「っ!」
※※※
「追い出されたけど……もはや嬉しいまであるかな。追い出すならなんで拾ったんだっていう話なんだけど……」
僕はお金だけ渡されて家を追い出された。まぁ虐待を平然とするような人だったので追い出してくれて助かったけど住む場所がないっていうのは最近は困る。
渡されたお金は一人暮らしをするのには十分すぎる額だが後で返済を求められたら面倒なのでスマホで録音しておいた。別にこれを持って警察に行ってもいいけどあの人たちにはもう関わりたくないし、こちらに接触してきた時に使うことにしよう。
「家って子どもだけで借りられるものなのかな……。事情を説明して信じてくれたらいいんだけど僕もこんな見た目だからなぁ」
そんなこと言っていても野宿はしばらくしてないのでやっぱり住む場所は欲しい。とりあえず不動産屋に向かうがそもそもの問題として僕は一人暮らしができるほどの家事力がないということだ。
最近はシェアハウスなんてものがあるらしいが僕が受験した高校の近くに都合よくシェアハウスをしている物件があるとは限らない。
とりあえず僕は不動産屋の中に入って席に案内された。
「えぇっと、失礼なことは承知ですが親御さんはどうされましたか?」
「信じれないと思いますが今僕に親はいないんですよ。お金だけ渡されて一人暮らしを始めろと家を追い出されまして……」
僕の担当をしてくれた人はとても優しい人で、僕の話を疑うことなく学生に適した物件を紹介してくれた。
「そういう生い立ちなので家事ができないですよ。だからお互いに助け合えるシェアハウスがいいかなと思ってるんですが、橘高等学校に近い場所でシェアハウスってありますか?」
相当の無理を言っている自覚はある。シェアハウスってだけで珍しいのにそれも学校近くにあるシェアハウスなんて珍しいにも程がある。
無くても普通のアパートでも借りて頑張って一人暮らしを勉強して過ごすつもりだがどうだろうか?
「橘高校の近くなら学生のためのシェアハウスが何軒かありますよ。ほとんど埋まってますが、1軒だけ住人が1人だけの場所がありますね」
「そこにします! あ、契約書とかって僕の名前で大丈夫なんですか?」
「そこは安心してください、じゃあ今から住めるように手配しておきますね。ちなみに住人は同じ橘高校の生徒なので仲良くしてくださいね」
つまり僕の先輩ということになるのだろう。僕の生い立ちを聞いて受け入れてくれるか分からないが橘高校は学力が高くて優しい生徒が多いらしいので少しは安心できる。
そもそも僕は初めての学校がこの橘高校であり、小学校や中学校は通わせて貰えずに家での勉強、そして受験をして受かった暁に捨てられたわけだ。
「住人の方には同居人ができるとこちらから連絡を入れておきました。それとこちらが家の鍵と部屋の鍵です、無くさないでくださいね?」
「はい、ありがとうございます」
この時僕は勝手に同居人が男性だと勘違いをしていた、同居人が女性だとわかるのはちょっと先の話である。
そんなこんなで最低限の生活に必要なものを購入してから例のシェアハウスに足を運んだ。僕のことが伝わってるとはいえ急に扉が開けるのは不審者扱いされかねないのでインターフォンを押した。
中から返事が帰ってこないが良く考えればまだ1月下旬で今の時刻は15時、まだ普通に学校の時間だ。僕は中学校に通っていないし学校がが始まるまで2ヶ月あるのでこれからしばらくは暇ということである。
「これから住人になるわけだし部屋の掃除でもした方がいいですかね?相部屋らしいけど知らない間に片付いてたら怖いかな?」
僕はとりあえず中に入って相部屋の空いている場所に買ってきた物を置く。
元からベットとテーブルとクローゼットは置いてあるのはありがたい。買ってきた服をクローゼットの中にしまう。
「ベットは枠だけだから後で買ってこよう。入学する前に生活するための物は全て揃えておかないと」
今日からしばらくはリビングに置いてあったソファーで寝るとして、それ以外特に困る部分はない。生活するのに必要な家電は既にあって、こっちはガス代や電気代を払うといったシステムだ。
「僕なんかを受け入れてくれるかな……。元孤児で拾われた
僕の生い立ちは異常だ。一般人とは言えない、”人間”というものからかけ離れた生活を送っていたんだ。そんな僕をまともな生活を送っている一般人が認めるだろうか? 人間というのは変わった奴を同じ奴らで虐めるような生き物だ。
たとえそれが礼儀正しいと噂の橘高校の生徒だとしても心の内にはそういう心があるだろう。話したこともないのにそう決めつけるのは良くないと理解してるつもりだが僕が今まで出会った人達は根っからのクズだった。
「そんな人達育てられて、思想が歪まないわけが無いんだよねぇ」
……そういえば今日の朝に追い出されて、服などを買ってから不動産に行ったから何も食べてないんだった。
「冷蔵庫の中を勝手に見るのも悪いと思うし、初めて外で食べに行ってみようかな」
余り物しか食べてこなかった僕からしたら何を食べても美味しいと感じると思うが正直外食というもの興味がある。
「まぁちょっと遅いけど、昼ごはんにしようかな」
外食と言っても今までしたことないのでどこの店がいいかなんて分からない。とりあえずパッと見空いているラーメン屋に入った。
「ウチにお客さんが来るなんて珍しいこともあるんだな。兄ちゃん、1人か?」
「あ、はい1人です」
僕が異常な雰囲気に気づいたのは中に入ってからで、このお店の中には僕と店主の人しかいなかった。
「兄ちゃんは中学生ぐらいだろう、1人で来るなんて親と何かあったのか?」
「あーいや、僕に親はいなくて孤児なんですよ。それに拾ってくれた人がいたんですが今日捨てらればかりでして」
僕がそう言うと店主さんは僕のことをバカにすることもなく同情してくれた。そんな人に出会ったのは初めてだ。
「ウチは潰れかけなんだが、兄ちゃんの話を聞いたらこんな事で諦めちゃいけないって思えたわ。ウチも頑張るからよ、兄ちゃんも人生を諦めたりすんなよ」
「大丈夫ですよ、僕が諦めることなんてないですから。今までのこと以上のことがない限りは……」
今までの事を超えるようなことが起こるなんてことがあるとは思わないが、もしあるとしたら店主のような優しい人が社会に飲み込まれて消えてしまうことだろう。
ここのチャーハンは本当に美味しく、なんで人がいないのか不思議なくらいだった。
「ご馳走様でした。受験が始まるまでしばらくあるのでその間に昼ごはんはここに来ますね」
「チャーハンを毎日食べてたら体調が悪くなるぞ? 1週間に一回来てくれるだけで十分さ」
「僕が初めての常連さんですね、じゃあまた来ます」
ご飯を食べて特にやることも無くなったのでネットで布団を購入しておいた。有難いことにあの人達は金だけは持っていたので通帳ごと渡された僕の手元にはたんまりとお金がある。
それでもこのお金でずっと過ごしていくのには無理があるのでバイトをするつもりだし無駄遣いをするつもりもない。
「何日後かに布団が届くからそれまではやっぱりソファーかな。まぁ地べたよりマシかな」
家の中に戻れば知らない靴が一つあって、同居人がもう帰ってきたのだと察する。
「もしかして君が今日から一緒に住むことになる雪くんかな?」
「そうです、今日からよろしくお願いします。家事とかは出来ないので色々任せてしまうかもしれませんが僕も覚えていくので」
まず驚いたのが同居人が男性ではなく女性だったこと、それは僕が男性だと思い込んでいたからだろう。そして何より驚いたのが先輩がどこかでモデルをやってそうなくらいの美少女だったからだ。
真っ直ぐ伸びた茶髪、水色の瞳を持っていた。
「雪くんはさ、今何年生なの?」
「今は中学3年生なので来年から1年生ですね、夏奈さんは今1年生ですよね?」
「そうだよー、じゃあ後輩くんだ」
絡みやすそうな人で安心した。距離の詰めるスピードは早いが別に不快では無いし仲良くなりたいというのが伝わってくる。
「僕は4月になるまで学校が無いので家の掃除とかは任せてください。料理は出来ませんが……」
「すごい助かるよ! 料理は私に任せてくれていいからね。私弟が欲しかったんだけど、今弟が居る気分!」
「2人きりの時は呼び方も夏奈お姉ちゃんの方がいいですか? じゃあこれからよろしくお願いしますね夏奈お姉ちゃん」
「うんうん! 最高だよ!」
そして僕と夏奈お姉ちゃんとの同居生活が始まった。
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