第2話 大内城攻め

空想時代小説


 小斎城の1里(2km)ほど東に大内城がある。ここは小高い山全体が城になっており、鉄壁の守りをほこっていた。ここまでが政宗の曽祖父稙宗が領有していた旧領で、今は相馬勢が占拠している。山が急峻なので小斎城のように裏から攻め上がることは不可能である。輝宗勢は、小斎に仮本陣を置き、評定を行っていた。面々は、かつての6人に加え、小十郎が末席に座っている。慎重派の政景が口火をきった。

「小斎攻めは、政宗様の策でうまくいきましたが、今度の大内攻めは手ごわいですぞ」

「それは皆知っておること。だからこうやって頭を寄せ合っているのではないですか」

また政景と良直の言い合いが始まりそうだった。先のない言い合いになっては意味がないので、輝宗は小十郎に話しかけた。

「小十郎、そなたには策があるのだろう。申してみよ」

早速の問いかけに小十郎は返事を窮した。お歴々の表情が険しかったからである。特に、政景と良直の目つきはきつかった。一呼吸おいてから小十郎は話を切り出した。

「私めが申すことは虎哉和尚の話を私なりに解釈して話すものであります。私めのような若輩者が皆さまのような経験あるお方に申し上げることは毛頭ありませぬ。ただ、虎哉和尚から2つの策を授かってまいりました」

「何なのだ。さっさと申せ」

短気な良直がせかした。

「されば、一つ目は、相馬勢の中心である騎兵の牙をぬくこと。もうひとつは、内なるものを崩せということでした」

「騎兵の牙をぬくとは?」

「相馬の中心は騎兵です。騎兵の力をそげば、相馬勢の士気は下がりまする。かと言って、正面きって騎馬隊と戦うのは愚の骨頂」

「なに! 今までの戦い方をバカにするのか!」

良直の顔が赤くなった。

「虎哉和尚の言葉でござりまする」

小十郎は続けて言った。

「次に、内なるものを崩せですが、大内城はもともと大内氏の城。それを相馬勢が占拠し、大内氏は降ったのち、末席に置かれているとのこと。その大内氏に本領安堵を約せば、わが方に味方するのは必須。大内氏に馬を放つことをさせれば、こちらの勝ちが見えてまいります」

「だれが説得するのだ?」

「殿の書状があれば、黒はばき組の者に持たせます」

「よしわかった。早速、文をしたためよう」

文はその日のうちに大内氏に届けられた。返書はなかったが、使いの者の話では、受けるとのことであった。ただ、馬番の目をかすめなければならず、2・3日待ってほしいとのこと。小十郎は輝宗に、

「この2・3日があぶのうございまする。こちらが、待ちの姿勢だということが分かっていますから、大内氏が翻意して相馬勢に話をすれば奇襲をしてくるでしょう」

「防備を万全にせねばならぬな」

「いかにも」

政宗は陣の見回りをこまめに行い、兵の士気が下がっていないかを確かめた。輝宗は鷹揚とした性格なので、そういうことはしない。そこが凡庸と言われるところなのもかもしれない。幸いにも、相馬勢の奇襲はなく、2日が過ぎた。

 3日目の夜半、黒はばき組の者から連絡が入った。

「相馬勢の馬が放たれました。馬小屋に火がつき、大内氏の家臣がのった馬につられて、多くの馬が逃げ出しました」

「よし、総攻めじゃ。かねてよりの策にて攻め上がれ!」

輝宗勢は三方から攻め上がった。正面は実元・政景のおよそ2000。右手からは良直の1000。左手からは宗実の1000。輝宗と政宗の1000は後詰めである。小十郎は政宗に問いかけをした。

「なぜ、三方からの攻撃なのかわかりますか?」

「簡単なことだ。敵の逃げ道を確保することだ。逃げ道がなければ敵は必死になる。さすれば、味方の損失も大きくなる」

「虎哉和尚の教えのとおりですな」

「そなたといっしょに教わった兵法ではないか。寝てたわけではない」

「さすが若殿、おみそれいたしました」

 輝宗勢は火矢で館に火をかけ、じわじわと攻め上がる。相馬勢は当初、弓矢で応戦していたが、頼みの騎兵の助けがなければ勝ちは見えてこない。徐々に裏手から逃げ出す兵が多くなった。朝には決着がついていた。

 輝宗は、功のあった大内良清を呼び出した。

「良清殿、よくぞ味方してくれた」

「ははっ、我ら大内は元々は稙宗公の臣下でござりました。相馬勢に攻められ、じくじくしておりました」

「よくぞ耐えられた。これからは、大内だけでなく小斎の地も頼むぞ」

「小斎もですか。ありがたき幸せにございまする」

大内氏にとっては、本領安堵にとどまらず、倍の領土を得ることになったのである。小斎は相馬勢にすれば、大内の奥なので、攻めにくい土地である。臣下の数が多くない輝宗にとっては功が少ない臣下に領地を与えるより効果的だと言えた。

「隣の丸山城には宗実をおく。二人で相馬勢に備えよ」

「ははっ!」

白石宗実は白石城に本拠を置いている。今回は丸山城を得たことで加増となったが、相馬勢に備えるためには、相当の数を丸山城に置かなければならず、単純に喜べるわっけではなかった。

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