古都ハルバラ:到達

『西の都<オキディス>へと向かう』


 イニティア郊外、西の門のすぐそばでクエスト表示で大体の方向を確認していると、センリが「とりあえずまっすぐ西に進めばおけだから」と言う。


「途中で受けられるサブクエストも、そんな良い報酬貰えるわけじゃないから飛ばしちゃおう」


 それに、と。彼女は続ける。


「もはや道中で苦戦するわけもないし、モンスターと遭遇エンカウントしたらそのまま轢き倒せばいいから。とにかく真っすぐ最短距離で行こーね」


「……へい」


 こんなにもワクワクしないメインストーリーが存在するだろうか……。


 センリとパーティーに加わってから一週間が経った。と言っても、その間なにをしていたかと言うとひたすらレベリング。俺もイェンカもレベルは上がり続け、最終的には「俺:Lv75」「イェンカ:84」にまで成長をした。……後半はひとつレベルを上げる為に十数体もの『修道騎士ロアの執念』を狩った…………ひじょーーーーーにツラかった。


「リンドウくんからはAoUのメインストーリーを奪ってしまって申し訳ないけども……」


 この話は前にもしたことがある。


「それよりも楽しい要素が早い者勝ち制度になってるんだからしゃーない」


 全ては俺が『古都ハルバラのメダル』を持っているが故の……否、さらに遡れば……。


 イェンカを見ながら俺は言う。


「むしろこの状況に感謝しなきゃ罰当たりだろ」


 始めて一週間のルーキーが運よくExボスへの切符を手に入れたかもしれないとか、やり込み勢が聞いたら血涙を流してもおかしくない。かと言って、センリを始めとするベテラン達に「メインストーリーとイェンカのこと優先するんでこれどうぞ」なんてメダルを渡せるほど俺は夢の無い人間ではない。


 となればそれに本気で立ち向かうのが筋であろう。


「じゃあ早速とうか。ゴーゼンとやらのおかげで、一か所に留まり過ぎるのもちょっと怖いからね」


 センリの言葉にイェンカがぎこちなく笑んだ。


「申し訳ないね。私のせいで」


「イェンカちゃんじゃなくてゴーゼンのせい! ったく、イェンカちゃんをストーキングしまくるとかほんと許せないわ」


 と、そんなこんなで。俺たちはようやく始まりの街イニティアから旅立つことができたのであった。


 旅と言ってもセンリの言う通り、前に進んで、モンスターはナイフの刃先で木っ端微塵に吹き飛ばして、道を塞いでいたレンガ造りのボスモンスターゴーレムも「時間の節約」の一言でセンリが戦闘開始の表示が出る前に吹き飛ばしてしまった。


 西の都オキディスは、王都に比べても遜色の無い程に栄えた街であった。


「一応宿をとってリスポーンを固定しよう」


 センリのオーダーに従ってオキディスを拠点にする準備を行ったが、メインクエストについては瞬殺であった。


調べたググったんだけど、オキディスでは『魔石』を巡って諍いが起こってて、プレイヤーはそれを解決するために奔走する、みたいなストーリーらしいわ」


「この街でそんなことが……。たしかにオキディスは魔石の産地として有名だけど、荒野の盗賊団が暴れてるせいで発掘が上手くいってないらしいね」


 なんて、センリとイェンカはプレイヤーとNPCとして、一見成立していそうで全く嚙み合っていない会話を繰り広げる。そして「これも時短時短」とパーティーを組んでいることの強みを活かして攻略をすることになった。


「最初の方のミッションはお使い系だったから、今のうちに二手に分かれるぞー。アタシが『荒野の坑道』に先に向かうから、リンドウくんとイェンカちゃんはオキディスでのお使いを終わらせて。荒野の盗賊一味を倒すクエストのフラグがたった瞬間にふっ飛ばすから」


 結局オキディスでの滞在時間はたったの30分程。「つぎつぎー」と目指すは三つ目の街<パジャイヤ>。……滞在時間は35分。イェンカはこのRTAもどきのような旅をどう思っているのだろうか。顔を見る限りだと何の疑問も覚えていない。「これが時短……」と感心さえしている。おい大丈夫かAI。


「で、この次が本命」


 センリが自前の地図を広げて指をさしたのは<ゴドリエ>という町。そのすぐ近くのエリアにも名称がつけられている。ここが……。


「ハルバラ……」


 古都ハルバラ。旧代にて栄えた都にして、今はもう誰も住まわないからの国。ミスィリアを支持する世界の教えとは違い、独自の信奉による宗教体系により小さな独立国家として繫栄した歴史を持つ。しかし何故滅びたのか、彼らは何を崇め祈っていたのか、全ては歴史の闇に呑まれ真実を知る者はいない。――センリ談。


 ゴドリエの小さな宿にリスポーンを固定し、少し歩くと不気味な黒レンガの廃墟群が広がっているのが見えた。古都ハルバラ上空の天気は常に黒く曇っているようだ。


「ここに『狂信の王』がね」


 イェンカも何やら実感がないかのような声で頷く。


「センリが言うには、ハルバラでは何かを崇めてたんだよね? もしかしたらそれが『狂信の王』だったりして」


 ……けっこう話の根幹を成してそうな考察してくるなぁ。


「それが合ってるかは置いておいて、そういう考察も重要なのを忘れないでね? 『吸生の王フェアネルウッズ』の時は、アイツが枯らした『クラ柳』の精霊が突破の鍵になったからね。ハルバラでも『メダル』を使った先でどうなるのか何があるのか、しっかりと頭に叩き込むよーに!」


 いえすまむYes,ma’am、そういうのはストーリー重視のオフラインゲームをやりまくった俺の微得意分野でもある。ストーリー理解せずに進めるとたまに詰むんだアレ。


 閑話休題。


 古都ハルバラの入り口は王都イニティアに劣らない程に大きな門であった。少し覗いただけで、こっちとそっちの空気の色が違うのがわかる。


 センリがすぅっと息を吸った。


「今回はあくまで調査。いきなり戦いはしないけども、意地でも有意義な情報を持ち帰るからね」


 かくして俺たちは古都ハルバラへ足を踏み入れたのであった。……この時、俺たちは誰一人としてに気づいてはいなかった。

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