第172話 お久しぶりです…。


「ほれっ挨拶!」


「グルガルだ。虎獣人でB級冒険者、リューリーの監視がてら一緒にポーション運搬をする。よろしくな!」


グルガルさんはがっしり体型で長身、暗めオレンジの髪がよく似合うお兄さん。ニカッと笑うと牙がキュートです。


そして…


「リューリーです…。ご迷惑をおかけしないよう誠心誠意働きます。」


うん、リューリーさんだ。控えめな感じがちゃんと本物だ。


うわぁだめだ、泣きそう。


「ごめんね、嫌だよね、襲ったやつが働くとかやっぱりだめだよね…」


そうじゃないけど、うまく言葉にならない。


椅子から飛び降りて近づくと、困った顔でしゃがんでくれた。リューリーさんはやっぱり優しい。優しさに甘えて飛びつくと、しっかり抱きとめてくれた。


「ごめんなさい。わたしのせいで、辛い思いさせちゃった。本当にごめんなさい。痛いことされてない?酷い扱い受けてない?」


「リンちゃんが悪いことなんて何一つないよ。僕が弱かっただけ。僕こそ、怖い思いをさせたよね、ごめんね。」


元気だから大丈夫だよ、と背中をトントンされる。


よく見ると首にチョーカーを着けている。それを見て涙が溢れた。わたしのせいで犯罪者にしてしまった。奴隷という身分にしてしまった。


罪悪感やら自分への怒りやらで喉とお腹の中がぐるぐると気持ち悪い。それでも抱きついてたら、ナリアルさんに引き剥がされた。思わず睨みそうになる。


「すみません、怒らないでください。リンさんの魔力が揺れています。少しディアさんの側で落ち着かせないとまた危なそうなので…」


ぐるぐるとした気持ち悪さは魔力の動きだったらしい。さすがにまた何日も寝込みたくないので、大人しくディアに抱きつき、気持ちを落ち着かせる。


「大丈夫そうですか?」

「ん、もう大丈夫。」


しばらく深呼吸をすると落ち着き、気持ち悪さも消えた。振り返るとみんな椅子に座ってお茶を飲んでいる。リューリーさんも大人しく座ってちっちゃくなってる。


「リューリーがこうなったのはこいつ自身の甘さと弱さゆえだ。ちゃんと理解してるし納得もしてる。嬢ちゃんが気に病むことじゃないよ。」


グルガルさんがリューリーさんをバシバシしてる。痛そうだから力弱めてあげてください。


「それに人質にとられてた人たちの無事も確認出来てるんだ。皆さんには心から感謝してるし、リンちゃんを恨んでも憎んでもないよ。」


だから泣かないで?と優しく微笑まれた。本当に心から優しいんだよリューリーさんは。


また暴走しても困るので、アルダさんの膝の上に乗せられてます。そのままクッキーを渡され食べて、お茶を出されて飲む。餌付けかな。


「リューリーは父が身柄を預かり、身の安全を保証するかわりに働いてもらうことになりました。奴隷ではありますが、ある程度の自由は与えられています。」

「重犯罪者にしては高待遇だな。」


ナリアルさんの言葉にグルガルさんも頷いてるけど、私のことはご存知で?


「グルガルはねー、リューリーの事を調べながらアーベンティス家のことを嗅ぎ回ってたから領主に捕まったんだよー」

「嗅ぎ回ってねえし、捕まってもねえよ。どういう事か聞こうと思ったら引きずり込まれたんだ。」


どゆこと?と思ってアルダさんに聞くと、グルガルさんとリューリーさんは同郷で、たまに一緒に行動してた仲良しさんだったらしい。ランクも同じだしね。


で、急にリューリーさんがパッタリ消えて不審に思ったグルガルさんは、色々調べて誘拐事件にたどり着いた。


そして重犯罪者なのに何故か王都ではなくアーベントの領主邸にいると気付いた。


また何かに巻き込まれたのかと思って調べてたら、それに気付いたお父さまが計画に引きずり込み、諸々説明、理解した上で働くことを了承した。


ってことらしい。


「リューリーの事をどうするかって決まらなくてね。そしたらリンちゃんが気にしてるってディアが教えてくれて、なら働かせちゃえってなって。そのために準備してたらグルガルさんが現れてさ。もうびっくりだよ。」


カルダさんが若干呆れて言うと、グルガルさんはニカッと笑った。仲間思いの優しいお兄さんなんだね。


ちょっと調べれば迷い人がアーベンティス家で保護されてることは分かるし、誘拐事件もそれ関連だと分かる。


その子どもを誘拐したなら重犯罪者、極刑でもおかしくはないのに、生かされて、さらにアーベンティス家にいる。そりゃ不気味だよね。


「嬢ちゃんの事も店の事も魔法契約で縛ってるし、心配しなくていいぞ。色々調べてたら嬢ちゃんの事も少し知っちゃってな、ごめんな。」

「いえいえ。問題ないです。」


「2人には王都から家、家から店へのポーション運搬を任せることになります。」

「2人だけ?大変じゃない?」


「獣人は体力があるから問題ねーよ。それに休みもある。強制労働の何千倍も楽な仕事だし金ももらえるんだ。文句が出るわけねえよ。」


リューリーさんも納得してる?って意味を込めて見ると、頷いてるので大丈夫そう。辛かったら言ってね。


「じゃあ挨拶も終わったしギルドに行くよ。」

「いってらっしゃーい」


「またな!」

「またね。」


ピリエナさんが立つとそれに続いて2人もお部屋を出ていった。ばいばーいと手をふってお見送りしました。


これから下で待ってる従業員さんもみんな一緒にギルドで手続きをするんだって。お店で働く

時は絶対に商業ギルドで登録しなきゃいけないらしい。


「わたしがポーション作ってるけど、登録してないよ?いいの?」

「実際に売るのは別の人だし、お店で働いてお給料もらうわけじゃないからいい。」


ガイトさんから適当な返事が返ってきた。それでいいのか。


「商業ギルドで登録するとカード型の身分証が発行されるんだ。そのカードに給料が入る仕組みになってるから、従業員として働く者は基本登録してる。」

「登録しない場合は?」


「給料が手渡しの場合か?あとは家族経営で給料がないとか。今どきあんまないけどな。経営者は登録必須だし。」


よくわかんないけど、登録いらないって事は分かった。


あとグルガルさんが情報知ってごめんねって言ったのは、私がポーションを作ってるって知ったことに対してだったらしい。


色々調べ回ってたら、どうやっても私が開発したか作ったかしないと時期がおかしいと気付いたんだって。


確信してるなら隠しても意味ないし、どうせなら引き込んで一緒にサポートしてくれってことでお父さまが雇うと決めた。


その流れで、どうせ魔法契約をするんだからって事でリューリーさんにもポーションの制作者が私だと説明済みなんだそうだ。


瓶の箱を小屋に直接入れてもらえるなら楽でいいね。


「妖精に関しては話してません。畑で薬草を育てていることも同様に話していないので、畑の中を聞かれたら花やハーブを育てていると答えてください。」


「見えないのにただの花やハーブしかないって言って信じる?調べるの得意な人でしょ?」


「詳細を聞かれたら困った顔でにっこりして、秘密にしろと言われているから、と答えてください。子ども相手に質問しまくるバカではないと思うので。恐らく。」


子どもという立場をこれでもかと使う作戦だった。


〈みんなに伝えてくれてありがとう。〉

〈言っといてなんだが、いいのか?あいつが近くにいて〉


〈うん。どんな生活してるか気にしなくていいし、たまに会えるのは嬉しい。〉

〈ならよかった。何かあれば言うんだよ〉


〈ありがとね、ディア〉


優しいもふもふはやっぱり優しかったです。


〈幸せだぁ〉

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