第165話 あれから数日。

おはようございます。感覚狂ってるリンです。


探索から帰ってきて、ひたすらポーションや料理を作らまくった数日間でした。楽しかったし、とんでもなく作りたい欲が満たされた日々でした。


それはいいんだけどね。この間8の月に入ったわけですよ。日本で言えば夏真っ盛りの35度とかになる月なわけですよ。日本で言えば。日本なら。


ここは異世界だし緯度とか関係してるか分かんないけど、たぶん高緯度地域なんだと思うんだ。


何が言いたいかと言うと、寒いんです。とっても。


「暖房ってあるの?」

「ダンボー?」


「部屋を暖める道具?魔道具になるのかな」

「あ、あるある。ヒーターっていう魔道具が。」


朝の家事いろいろを終えて、温かい紅茶を飲みながらフランクさんと談笑中。ふと思ったことを聞けば答えた後に思いっきり視線をそらされました。


「ここにはない?」

「いや…あるよー…」


うん、出すの忘れてたんだろうな。もはやフランクさんがちっちゃくなって壁向いてます。みんな筋肉モリモリだしまだ全然平気な寒さなんだろう。


「すぐに出そう!」

「ありがとう!」


ってことで2階の物置部屋に向かう。ここにあったんだ。


出てきたのは一般的なパネルヒーターサイズと、クッションくらいの小型化したサイズの四角い物体。

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名前 ヒーター(魔道具)

特徴 魔石により室内を暖める。

備考 換気の必要なし!(電気ヒーターとストーブを真似た魔道具)

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おお、かなり便利な魔道具。ストーブとか燃やす系の暖房機器って、定期的に換気しないと空気悪くなって苦手なんだよね。


「あちゃー、魔石が全部だめになってる。それに小屋のヒーターも必要だよね?午後買いに行こう。」

「あ、小屋もあるのか。」


リビング用と、洗面所用、あとは2階の各個室。足らないけど、いっぱいある。


「魔道具店なら魔石に魔力交換してくれるから、ついでに全部もらって来るよ。リンちゃんも一緒に行く?」

「行きたい!」


「それじゃ午後はお買い物だね。他に行きたいとこあれば行っちゃおう。」

「はーい」


午後のお買い物が決まったので、引っ張り出したヒーターを各部屋に設置していく。個室用のは子どもの私でも持てるくらいの重さだった。助かる。


〈ディア欲しいものある?〉

〈特にはないな〉


〈全然寒くない?〉

〈むしろ快適なくらいだな〉

〈わーお〉


氷属性のディアさんは1つも寒くないらしい。猫はこたつで丸くなるって歌にもあるけど、ディアは当てはまらないね。そもそも見た目がカッコいいユキヒョウなだけで魔獣なんだけどさ。


触るとふわふわの毛はひんやりしてるんだけど、しっかりくっつけば温かいから不思議。


お昼ごはんを食べて準備をしたら、3人で出発。


「魔道具店は行くけど、他どこ行く?」

「アマンダさんのところと、武器屋のおじいちゃんのとこ行きたい。服もう少し欲しいし、ナイフのメンテナンスしばらくしてないからお願いしようと思って。」


「それじゃ先に武器屋行って、メンテナンス頼んじゃおう。買い物してる間に終わらせてくれるだろうし」

「うん、そーする。」


るんるんで歩いてると、簡素な服を着た人たちが建物から出てきてゾロゾロと馬車に乗り込むのが見えた。


みんな首に太めのチョーカーみたいなのをしてて、会話もなく元気がない。馬車も椅子はあるけど、ただの木の箱って感じで乗り心地はかなり悪そう。


「あれは奴隷だね。」

「奴隷…」


「この国も周辺国もちゃんと奴隷法があって合法だよ。他の国には違法奴隷商もあるらしいけど、この国には無いから安心して。数年前に根絶やしになってるから。」

「根絶やし。」


笑顔でとんでもないワードが飛び出てきて、思わず苦笑い。


「女性が多いから軽犯罪か借金奴隷じゃないかな?あの首にある黒いのが奴隷の首輪。契約した主の命令に逆らえなくするんだ。」

「危険はないの?」


「自傷行為とか犯罪の命令は無効になるから大丈夫だよ。奴隷法はどうしてもお金が返せない商人やら平民の、救済措置としても使われる。最終手段だけどね。」


あまりジロジロと見るのも失礼なので、フランクさんを見ながら説明を聞く。


チラッとみると、服は簡素だけど汚れが酷いわけでもないし、手足も縛られずに普通に歩いてるし、女性の長い髪はしっかりかされてるのが分かる。


「馬車に乗ってどこに行くの?」

「別の奴隷商か働く先じゃないかな。あの建物が奴隷商の店だから。」


えっ?と思って出てきた建物を見ると、パッと見は普通の大きなお屋敷かお店って感じで嫌な雰囲気は全くない。


「普通の建物だね。」

「だいたいあんな感じだよ。まぁここが冒険者の街だからってのもあるんだけどね。冒険者は依頼を失敗したり、身の丈に合わない武器やらなんやらを買って借金奴隷になるやつが多いから。その分奴隷商も多い。」


「それはどうなの…?」

「数字に弱いのが多いんだよね。しっかりした教育を受けられない人も多いから。」


「あぁ、そういうこと。」


日本に住んでたから義務教育として読み書きや計算を教えてもらえたけど、世界には学校に通えない子どもがたくさんいるって話は地球にもあった。


ここはそもそも平民への教育が浸透してないのかもしれない。それなら不利な契約にも割に合わない依頼にも気付けないし、気付いたら借金が増えてたって状況にもなると思う。


「お勉強は大事なのにね。」

「ほんとここ最近だけど、勉強推奨されてるんだよ。平民にも。」


「広がるといいね。」

「そうだねえ。」


たぶん難しいんだと思う。小さい頃から働いてれば時間はないし、勉強するにもお金はかかる。どこまで国がサポートしてくれるのか分かんないけど今まで無かったものを受け入れるには時間がかかるものだからね。



リューリーさんどうしてるんだろう。

奴隷と教育の話で、ふと思い出してしまった。


猫獣人さんで一応私を襲った冒険者。

出身の孤児院をまるっと人質にとられてしまい、逃げようとして斬られ、それでも一緒にいる間は私を気遣ってくれて、ずっと苦しそうだった人。


一緒にパンをこねてパイを作った。その時はとても優しい顔と雰囲気だった。


私は1つも恨んでないし憎んでもない。嫌ってもいない。リューリーさんが悪いとも思わない。


でも私のせいで大切な人と自分を天秤にかけ、どうしようもなくて犯罪者になってしまった。私が現れなければリューリーさんは今でも普通の生活ができてたかもしれない。


会えることはないだろうけど、次に会えたら心から謝りたい。


今考えてもしょーがない!


「買ったヒーターって抱えて持って帰るの?」

「まさかぁ、ちゃんと持って帰る用のバッグ持ってきてるよ」


「さすがフランクさん!」


にっこりいい笑顔で腰をポンポンするフランクさん。そこにはいつもはないカバンがついてた。ヒーターくらいなら軽く入るんだろうな、これ、


うん、脳内でぐるぐるするのは終わり。


お買い物楽しまなきゃね!

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