第135話 始めまして国王様

朝になって憂鬱を通り過ぎてもはや溶けそうなリンです。いやだ。行きたくない。偉い人に挨拶するの苦手。国のトップと会うとか意味分かんない。


「出てきてください。国王様とのお約束からは逃げられません、諦めてください。」

「うぅぅ〜」


お布団にもぐって丸まってたらひっぺがされました。メルさんが容赦ない。そしてちょっと寒いのでお布団返してください。


「ほら、このドレスなんて素敵じゃないですか。御髪も可愛くセットして、誰もが目を引くお姫様になりましょう。」

「目立ちたくない。見なくていいです。」


と言っても意味はなく。子どもなので抱き上げられたら意味がないのです、悔しい。


イスに座らされ、髪を結んでもらう。今日はドレスなので豪華なハーフアップにするみたいです。編み込み多めで可愛い感じになったよ。


お化粧はしなくていいからそのままドレスを来て、ディアにくっつこうと思ったら止められた。ドレスで地面に座るのはダメらしい。もふもふ不足。


「可愛い顔がもったいないくらいブーたれてる。」

「だって。下に座っちゃだめなんだって。ディアに埋もれたかった。」

「終わったら美味しいケーキでも食べに行こうね」


ソファに座って小さいディアを撫でてたらみんなが入ってきた。アルダさんとケーキ食べに行く約束したので気分もちょっと復活。


みんないつもと違う服装でビシッと決めてる。騎士さんっぽいけどちょっと違うのかな。みんなお揃いでカッコイイです。


「出発するぞ、馬車に乗れ」

「リンちゃんまた後でね。」

「はーい。」


お屋敷を出たら私とナリアルさんとディアは両親と同じ馬車に、みんなは別の馬車に乗る。他のお兄さまたちはお仕事があるのでいません。


「可愛いわね、とても似合っているわ。」

「ありがとうございます。」


「緊張しなくてもいいのよ、謁見とは言ってもただお話するだけよ。陛下はお優しい方だからお作法も気にしなくて良いし、ただのんびりお茶を飲みながらお話するだけでいいの。」

「困ったらディアを通して言ってくれれば、何とかしますよ。他のメンバーも一緒にいますからね。」


お母さまにもナリアルさんにも撫でられ励まされ、なんとか気合を入れました。


「カーテンあけてみて、王城が見えるわよ。」


お母さまに言われて小窓のカーテンをあけると現れました。もうね、THE西洋風のお城。


真ん中に大きな建物があって、左右対象に小さな建物が並んでる西洋風のお城。あれだ、真ん中を倍くらいの高さにしたシャンボール城だ。似てる。


「左右にあるのが騎士棟と文官棟、中央が謁見の間や会議室、王族の暮らすエリアになっているの。」

「大きいです。」


「中もとても綺麗だから、お話が終わったら見学していいか聞いてみましょう。ダメとは言われないでしょうけれど。」

「楽しみです!」


〈お城の中見れるかもしれないって。すごいね〉

〈あぁ、だが絶対1人になるな。必ず私と他の奴と一緒に動け、嫌な気配がする。〉


〈わかった。気をつける。〉

〈ただの杞憂ならいいのだがな。〉


ディアが気をつけろと言うなら、ちゃんと気をつけるよ。野生の勘みたいなのがあるんだろうし、私には分からない何かを感じてる可能性もあるし。


お城の門では騎士さんが数人出てきてもろもろの確認。小さな丸い玉を握るように言われて、ぎゅっとしたけど何も起こらず。


不思議に思ってたら敵意があるかを確認する魔道具だと教えてもらった。原理は不明だけど、握った人が何かしらの悪意を持っているとバチッと痛くなるらしい。魔法の世界はやっぱり不思議だ。


「ディアさんは元の大きさに戻ってください。リンさんの守護者として存在を知らしめます」

〈承知した〉


入口に着いて馬車から降りようとしたら、ナリアルさんから大きくなるように言われたディア。見えないように中で大きくなったら出てきてもらう。やっぱりもふもふは大きい方がいいね。カッコイイ。


「ご案内いたします。」


「ってことはいつもの所だな」

「ですね。帯剣の許可をいただけますか?」


「はい、もちろん大丈夫ですよ。むしろすでに腰にある物だと思っていました。」


みんなと合流して歩くと、騎士さんが迎えに来てくれた。顔見知りだったのかその騎士さんを見ると苦笑いする大人たち。許可をもらうとバッグから剣を取り出して腰に着ける。


「これから行くのは騎士棟の会議室だよ。中央棟ですらないし、本当にゆるい顔合わせって感じだと思う。」


アルダさんが言う通り、向かったのは建物右側の騎士棟だった。


すれ違う騎士さんがみんな頭を下げて廊下の端に寄るから偉くなった気分になるけど、ちょっと居心地悪い。ナリアルさんに手を繋いでもらいます。


案内をしてくれた騎士さんが扉をノックして、開けてくれる。


中にいたのはいかにもな王様と、たぶん王妃様、お2人にそっくりな若い人とその後ろに騎士さん。


「頭は下げんでよいから座れ。」

「陛下、せめてご挨拶くらいはさせていただきたいのですが?」

「いらん。面倒だ。」


ってことで案内されて椅子に座ります。


「お初にお目にかかる、この国の王をやっているヴィスヘルム・フォン・シュザインブルグだ。こっちが我が妻のカロリーヌ、これが息子のアルフレッドだ。」

「お会いできて光栄です、リン・アーベンティスです。この子がスノーケーニヒのディアといいます。」


「迷い人はこちらに来る際名前が変わると伝えられている。元の名は覚えているか?」

「吉永鈴音(よしながすずね)です。吉永が姓、鈴音が名前です。」


「「えっ」」

〈名前も変わっていたのか〉

〈うん、伝えるの忘れてた。えへへ〉


そういえば年齢が変わったことはみんなに伝えたけど、名前が変わったことは言ってなかったっけ。あだ名がリンだったし違和感無かったんだよね。


「ニホンという言葉に覚えはあるか?」

「日本はわたしが生まれ育った国です。」

「そうか、質問ばかりですまない。これを。」


机に置かれたのは防御アクセサリーによく似た丸い飾り。


「これは我々王族が保護すると決めた者であるという証だ。ただし、これには特別に王族のみが入れる書庫の鍵の機能も追加してある。もし迷い人に関する書物を読みたくなったらいつでも入って良い。」


「従魔さんも一緒でいいし、ここにいる保護者たちなら誰でも連れて入って構わないわよ。みんなも同じように証を持っているの。ただ、鍵を開けられるのはリンさんだけよ。」


「我々には読めない文字で書かれた書物もある。あなたの助けになるかもしれない。」


もし日本語で書かれた物なら読める。英語とかフランス語なら無理だけど。


「ありがたく頂戴します。」


もらっていいのかな?と思って隣のナリアルを見ると頷いてくれたので、素直に受け取る。


その後は紅茶を飲みながらこれまでの冒険者活動だったり、アーベントでの生活の話をした。


拉致事件に関してはちゃんと罰を与えたと言ってもらえたし、特に気にすることでもなかったので深掘りはしなかった。


アルフレッド様は王太子さまだった。お話の後に書庫へ連れてってくれると言うので、お言葉に甘えることにします。


王様の後ろにいた騎士さまは第1部隊の隊長ライハルトさんで、案内してくれたのが副隊長のハーマンさん。とっても偉い人たちに囲まれてました。


ハーマン副隊長さんとアルフレッド様と一緒に書庫に向かいます!

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