第119話 突入、捕縛

___ガイト視点___


屋敷から出ると用意された馬車の近くには騎士が8人並んでた。会ったことのあるメンバーがほとんどだし連携は問題無さそうだな。


とりあえず軽く作戦会議。突入は騎士団に任せて俺等は屋敷の捜索と何かあった時の戦闘要因。あまり貴族に顔を知られない方が良いのと、たぶん見たらぶん殴りたい衝動を抑えられないと判断。


決行の合図は俺とレイ、引き上げは各々でいいが、何か問題があった場合は速やかに報告してもらうようお願いする。


「何か質問はありますか?」

「ありません。こちらからの連絡事項ですが、王都にある各領主の屋敷には第1の別の班が突入します。踏み込むタイミングを合わせたいので、各リーダーと連携をお願いします。」


「了解。レイ、頼んだぞ」

「任された。」


やることは分かったし装備の確認をして出発。騎士は馬に乗り、俺達は馬車で移動する。そこまで遠くはないが、少しだけ速度を上げて走る。


男爵領に入ると雰囲気がガラッと変わった。大きな通りのはずなのに活気が無く人も少ないし、一番の違和感は子どもが外に1人もいないことだ。


[聞こえるか?]

[あぁ、聞こえてる。どうした?]


[そっち領内の様子はどうだ]

[良くて辺境の小さな村って感じだ。知らなきゃ廃村だと思うくらいボロボロ]


[予想はしてたが当たりだな。違法取引以外にも不正の証拠はあるはずだ、絶対に探し出せ]

[[[了解]]]


「ってことだから、こっちも書類は慎重に見ていくぞ。」

「「了解です」」


この国では男爵以上には小さくても領地が与えられ、管理を任される。表向きの理由は管理能力の向上のためと言われているが、実際は能無しの洗い出し目的。


小さくても自領をよく治める者は王城での地位が上がり国王からも信頼され、反対に能力がないと判断されたらそれ相応の仕事しか出来なくなる。仕事が少なくなれば暇になり、バカをする者も現れる。それを調べて捕まえるのが俺達のような組織の仕事らしい。


今回の件で男爵2名の領地は近くに領地を持つ子爵あたりに吸収されるだろう。問題はフォルターノ侯爵家。前当主は能力こそ平均だが領民に優しく人気だったと記憶している。そこそこの広さを持ってるし次は誰が治めることになるのか少し気になる。


無駄なことを考えてると屋敷近くに到着した。見つからないギリギリの位置で待機するが、門番の姿は見えない。現在の時刻は7時45分。


[そっちはどうだ?]

[あと数分で着く。]


[了解。すぐに動けそうか?]

[いける]


「イザークさん、7時55分に突入したいんだけど王都の方は大丈夫ですか?」

「確認します」


イザークさんは第1部隊の副隊長補佐。ハーマン副隊長はレイ達とダノリア男爵領に行ってて、隊長は全体の指揮を取るために王都に残ってるそうだ。


「王都の方はいつでも突入可能だそうです。55分でいいですか?」

「はい。カウントダウンお願いしていいですか?」


「わかりました。もし中から扉を開けずに抵抗した場合は強制的に入りますので、突入後は捕縛の手伝いをお願いします。大人しくしてる場合は私達で対応するので書類の方を優先してください。」

「了解です」


今回は魔法の使用を全て許可されている。何かあってもナル・フランク・カルの魔法特化組が瞬殺するだろ。あぁ、殺しちゃダメか。めんどくせえな。


[そっちはどうだ]

[着いた、特に問題はない]

[55分に突入、カウントダウンはイザークさんとハーマンさんにお願いする]

[[[了解]]]


「ってことで、手加減無用。アルはどっちにしても書類優先でいい。とにかく調べ上げろ」

「承知」

「おっけー」


「中の人数分かるか?」

「6人程かと」


「領主邸にしては少ないな」

「あまり良い話は聞かないですからね」


雑談して時間を潰すと、突入間近になった。歩いて近付き、その時を待つ。


[準備]

「開始1分前です」

「……3、2、1、行動開始」


門まで行くが鍵がかかっておらず、そのまま入れた。何かの罠かと思うくらい人の気配がない。


騎士団の面々が屋敷の扉を叩き出てくるよう呼びかける。扉が開いた瞬間騎士4人が素早く入り、捕縛指示書と捜査許可証を見せながら近くの者たちを縛り上げていく。


彼らの後に続いて入ると2階から怒鳴り声が聞こえてきた。何故どいつもこいつも馬鹿みたいにデカい声を出すのかね。


すでに縛り上げられたナナリー男爵はひたすら騎士に向かって怒鳴り散らしている。ナルに視線を向けると一瞬で眠らせてくれた。ついでに隙を狙ってた執事も一緒におやすみなさい。


静かになったし書斎含めた全室を調べ上げる。出てくる出てくるわんさかあった、不正と犯罪に関する数々の証拠。バカなのかアホなのかたぶんどっちもだが、ご丁寧に全て同じ所に隠していた。


一応魔力による鍵は掛かっていたが、そこはナルにお任せ。死体のように眠ってるバカの魔力を上手く操って開けさせた。これが出来るのはほんの少数なんだが、なぜかカルとフランクも出来る。魔法特化型の奴らはぶっ飛んでる。理解できん。


必要な証拠を集めるためパラパラと軽く内容を読んでいたら、リンに関する調査書が出てきた。内容は容姿や背格好、関係者、養子先と魔法や魔力量に関する物。


魔力に関しては詳しくは調べきれなかった様だが、ディアがリンの契約獣である可能性ありと書かれていた。常に一緒におり、会話が成立している様子が確認されたとある。


その紙には手書きで『手出し禁止』と書かれている。誰が書いた文字か分からんが、怒鳴り込んだ時の会話から考えて男爵本人も理解していたんだと思う。


というか、この内容が知られているならもう貴族全体に知らせてしまった方がいいんじゃないか?後で相談せにゃならんな。


[こっちは全員が抵抗したからいい子に眠ってもらったよー]

[使用人もか?]


[うん、子どもが無理矢理連れてこられてるの知ってて世話してたんだし。一応罪を犯してる認識はあったんじゃない?]

[証拠はどうだ]


[金庫に大量に詰まってた。読むのめんどいから全部持ってくねー、どうせ必要だろうからさ]

[読めよ。]


フランクとカルが呑気な声で報告してきた。あっちは大変だったみたいだが声が元気すぎる。


屋敷を調べたが書斎以外からは何も出てこなかった。いつもこのくらい楽ならいいのに…と騎士がボヤいていた。こんなバカはそういないと思うぞ。


捜索を終えたら王都へ向けて出発し、ダノリア捜索班と合流したら一緒に王城へ行って報告。捕縛した奴らは騎士団に任せ、俺達は通信魔道具を返却したらアーベンティス邸に帰る。


シャワーを浴びてスッキリしたらその足でリンの部屋に向かう。相変わらず人形みたいな綺麗な顔をして寝ているリンを撫で、全員集まったら酒で乾杯。


食事も運んでもらって、ここで宴会。ディアも肉をもらったらしく、食ってからまたリンの隣で丸くなる。


こういう日の夜くらいは嫌な話抜きで飲み明かす。


早く起きてくれよ、リン。


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