第118話 裏の仕事

___ガイト視点___


リンが倒れた次の日の早朝、朝食をとったら自然とリンの部屋に集まる。真っ白な頬を突っつくが反応はない。


「王命が出たぞー、さっさと捕まえて来い」

「どっちですか?」


「両方。二手に分かれて同時にやってくれ」

「了解です」


「騎士団の第1部隊から数名派遣されるらしいから、仲良くやれよ」

「第1なんですか?珍しいですね。」


「狙われたのが迷い人なんでな。娘の扱いは王族並みかそれ以上だ。」

「賢王でよかったですよ」


クロードさんが書状を持って部屋に入ってきた。内容はダノリア男爵とナナリー男爵の捕縛、および家宅捜索の許可の合計4通。


騎士団は第4まであり、第1は王族の警護や重大事件の捜査を行う最高部隊。第2が通常の捜査や貴族対応をする部隊で、第3は魔物討伐隊、第4は各詰め所で巡回や揉め事対応をする街の監視役。


第1が動くということは、今回の件はそれだけ重大事件であり、犯罪者は全員重罪に処される可能性があるということ。王の判断に感謝する。


リンには言ってないが、紅嵐の盾は裏の仕事を受けることがある。それが今回リンも巻き込まれた帝国関連の誘拐事件の捜査だ。


数年前アーベント周辺で子どもの誘拐事件が多発、そのほとんどが孤児院の子と冒険者として活動し始めたばかりの子だった。


お世話になった孤児院の様子がおかしいと双子に相談され、領主やギルドと連携しながら調べた結果、食料を届ける者になりすました間者が子どもを攫っていた。


その時の事件は帝国が関係していると分かったのに確固たる証拠が集められず、誰かさんの妨害もあって間者が主犯として裁かれ終わってしまった。その捜査を今も続けているのが俺達と領主と国王。


通常貴族を調べるのは騎士団が担当するが、悪徳貴族の息がかかった者がいたり金や権力に負けて正確な調査が出来ない者がいたりもする。


それを疑問視した国王が裏組織を作り、能力ある冒険者をまとめて作ったのが裏部隊。所属している俺達でさえグループメンバーとフランク以外の仲間は知らない。フランクは領主と国王が絶対的信頼を寄せる人物として紹介されたが、何者なのかはよく分からない。


俺達はそのまま帝国関連の事件に関する捜査、捕縛、尋問の権限が与えられた。拒否したかったが出来なかった。王命に背くなんてできっこなかった。


通常はS級がスカウトされるらしいが、当時の俺達はB級だった。ギルドに呼び出されたと思ったらA級にされ、組織の仲間入り。さすがにビビった。


当時の尋問で迷わせの森の中で取引が行われていたと分かり、俺達の仕事に森の定期的な巡回が追加されたんだが。さすがにその流れで迷い人のリンを保護するとは思わなかった。孤児院や下手な貴族に預けるより数倍安全だと保証するが、不安がなかったわけではない。


アマンダにも手伝ってもらおうと思っていたが、リンは1人で立てるだけの強さを持っていた。無理しすぎるし別の心配は絶えないが、育児に関しては気にすることもなく安心したってのが本音。


2ヶ月ほど前の出会いを思い出しながら服装を整える。普段の冒険者用ではなく騎士団に近い服を身にまとい、刻印の彫られた身分証を持つ。貴族ならひと目見て分かる、王族関係者であると証明するためのバッジ。


「どっち行きたい?希望がなければ俺が決める」

「ダノリア」

「ダノリアですね」

「俺もダノリアー」

「僕もダノリア」


「僕も行っていい?どっちでもいいよ」


全員ダノリア男爵を捕まえたいのは分かった。コイントスで決めさせるとして、フランクは大丈夫なのか?


「権限は?」

「あるよー、そこに関しては問題なし。」


「ならいいか。どっちがいい?」

「どっちでもいいよ、どうせ尋問できるしね」


ってことで全員でコイントス。表のダノリア班はレイとカルとフランク、裏のナナリー捜索班は俺とナルとアル。


喜ぶやつと悔しがるやつの反応がおもしろいが、フランクはマイペース。


「どっちも王都?」

「いや、領地だ。どっちもここからそう遠くないから可能なら午前中で片付けてくれ。あとこれ、王様から預かった。使え」


「へぇー珍しい、6個セットのやつ?ありがたく使わせてもらおうよ、ガイト」

「詳しい使い方知らないんだが?」


「魔力を流せばON/OFFできる。捜査中は着けっぱなしの方がいいけど、うるさかったら切っても良いと思うよ。」

「フランクは使い慣れてるのな」

「僕も久しぶりだけどねー」


フランクから渡され、全員でイヤーカフを耳につける。ギルマス達が使ってるのを見たことはあるが、今まで別行動はあまりなかったし必要性を感じなかった通信魔道具。今回の件で持つべきかもしれないと感じた。また報奨金がでるなら、これをねだるのもありかもな。


「8時くらいを目安に行ってくれ。あ、フォルターノのバカはやっと目覚めたそうだが、うるさくてまた眠らされたらしい。そっちも貴族だがうるさかったら大人しくさせていいぞ。」

「言質はとった。僕も魔法使わせてもらうよ。」


「あんまやりすぎるなよ」

「大丈夫だって。」


フランクが足首を触り何かをすると魔力が揺れた。いつもは感じないピリッとした空気感をまとわせたフランクがそこにいる。別人かと思ったらその雰囲気を周りに馴染ませた。本物の暗部の人間かよ、と思ったが口には出さない。空気を読める大人なので。


「これね、魔力を半分に抑える魔道具の改良品。減らす量を調節できるし、着脱も自分で出来る便利品なんだ。普段は減らしてるの。」

「怖え奴だな」

「それ、褒め言葉だよー」


とんでもなく機嫌がいい。不気味すぎるほどに。何かしら秘密があるのは知ってたが、やべぇ奴だと再認識したわ。


「お前たちは馬車で移動しろ、あんま顔知られるわけにはいかないんでな。バカ共運ぶ用のもろもろは騎士団が用意してくれるらしいから、そのまま突っ込めばいい。」

「りょーかい」


「久しぶりだね、ちゃんとした仕事」

「暴走するなよ?資料もちゃんと持って来い。」


「わかってるよ!」

「レイ、お前がこいつの手綱握っとけよ」

「無茶言うな」

「無茶じゃねーよ!ってお前も暴走しそうだな…」

「そんなことはない。」


レイとカルダが心配だが、そこにフランクが加わるともうどうにもならない。まぁなるようになるだろ。


「悪夢を見せたいですね。そんな魔法ないのが惜しいです」

「眠らせない方がよっぽど悪夢かもしれないよ、ナリアルさん」


「それもそうですね。楽しみですね」

「楽しみだね」


こっちもこっちで冷静に見えて恐ろしいことを考えてる。リンを狙われたことに相当怒ってるのは分かる、俺もそうだから。やりすぎないように気をつけなきゃならんな。

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