第117話 守る方法

___領主 クロード視点___


リンが倒れた日の夜、この王都の屋敷で暮らす長男のオリヴァーとその妻エリンが帰ってきて一緒に食事をとり、エリンに他の子ども達を任せてリンの部屋に集まる。


ディアは決してリンから離れようとせず食事もとろうとしなかったため、ベッドのすぐ近くに用意させた。魔力で数日は生きれると言うが、リンが起きたら心配するからと周りがゴリ押しした。


全員がそろって座り、話し合いが始まる。


「夕方子どもたちの確認したけどね、体調も良さそうだったし移動も問題ないと思うよ。それと、リンちゃんに会いたいってみんな言ってたから相談すると言ってあるけど、どうする?」


「まだ寝てると説明してそれでも会いたいと言うならここに呼びましょう。起きたらいつでも手紙を送れるように準備をしておきます。」


「ありがとうリリアナ。じいさんはどうだった?ポーション作れそうか?」


「薬草を湯に通すなんておもしろいね、味に変化が出たし作りやすかったよ。ただ、味を付けるのは難しいね。錬金に慣れてて鑑定を待ってる人なら出来るだろうけど、魔力の量も感覚も違うから大変だったよ。」


一応全部作ってみたよ、と取り出した瓶には全てタグが付けてある。分かりやすいからと真似したか。


ただ茹でただけの物と味付きの物を全種類。あの短時間でよくもこの量を作ったな。


「状態の良い薬草ではないから難しかったね。あと実際に味を確かめたけどね、あの子は薬草の元の味との相性も考えてバリエーションを増やしたみたいだね。」

「どういうことだ?」


「解毒ポーションなんかは特にそうだけど、下手にアポなんかの果物を入れると味が喧嘩をするんだよ。全然美味しくなかったからね。料理も得意なんじゃないかい?」

「得意だと思う。リンの料理は全部美味い。」

「僕も教えてもらうこともありますよ。」


だから子どもに何させてんだっての。ガイトは言い切るしフランクお前はアホか。


あれも美味しいこれもいいと言い合ってるが、聞いたことのないメニューばかりだぞ。前の世界の知識なんだろうが、危険が増すから外で話すなよ。


「安定生産は可能だと思いますか?」

「可能だろうね。半月もあれば有能な弟子5人くらいをちゃちゃっと鍛えて使えるようにできるよ。」


「リリアナ、そうなった場合はどうするんだ?」

「専門店を作ってしまえばいいわ。」


「具体的には?」

「それをこれから考えるのよ。」


そこからは全員参加で様々な意見を出し合った。おおよそ考えることは皆同じだったが、娘の対応だけは意見が分かれた。


もしリンが売る用のポーションを作ったとして、それを紅嵐の盾の家から店や領主邸に運搬するとなると存在がバレる可能性が高まる。


危険が増えるなら店には出さない方がいいという意見と、どうしたって作るのは止められないし止めたくないからどうにかしたいという意見。


隠し通したい長男含めた俺とリリアナ、自由に作らせたいナリアル他メンバー達。どっちでもいいけど欲しい人材だと主張するじいさん。


「素朴な疑問なんだけど、ナリアル達が採ってくる薬草を減らしたら自然と作る量も減るんじゃないのか?作る量を減らせば売る必要もないだろ?」

「薬草は全て畑で栽培していて、外から採ってくることはありません。増えることはあっても減らすことは難しいです。」


「おい、畑の話なんか聞いてねえぞ」

「リンさんが管理していたので頭から抜けていました。」

「だから乾燥してない状態の良い薬草をこれ程使えるんだね、それはすごいなぁ。」


問題が増えたじゃねーか。納得してる場合じゃねえだろ、じいさん。薬草を栽培って不可能じゃなかったのかよ。


「あら、それなら問題解決では?」

「どういうことだ」


「ポーションの開発者は先生として広める、そちらは譲れません。ですが、我が家が経営するポーション専門店に冒険者の息子が薬草を納品する、というのは違和感がありませんよね。」

「まぁ確かにな。」


「栽培している薬草を一定数お売りいただけるのであれば、売買契約をして定期的なやりとりも可能です。リンちゃん自身が冒険者ですし、薬草採取に関わっても不思議はありませんしね。」

「どのくらい余ってるか知ってるか?」


「把握していません。」

〈かなりの量が余ってる。1人じゃ使い切れずカバンに入れてる分もあるから、起きたら聞いてみたらいい。大量に出てくるはずだ〉


「だそうです。」

「持ち歩いてんのかよ。」


「どういうことかしら?」

「かなりの量余ってて、持ってたバッグにも入ってるそうだ。起きたら聞いてみよう。」


「お話できるのは羨ましいですね。まぁいいです、それじゃあこのまま他を決めましょう。」


まず早急に王都に2店舗と、アーベントに1店舗開いて下地を作る。


王都の1店舗目は貴族向けで、解毒ポーションや上級ポーションをメインに取り扱いアレンジの相談を可能にする。2店舗目は平民街に出して初級や中級、MPをメインに出し、味は固定。希望があれば上級も出すが棚には置かず、要相談案件とする。


アーベントの店舗は大通り沿いに出し、全種類のポーションを味固定で置いて、冒険者も一般の家庭も買えるようにする。


雇う人員は商業ギルドと相談し確保、魔法契約を交わして秘密保持を徹底し、必要なら奴隷を購入して運搬等をさせる予定。


店舗と人員に関してはすぐにでも動けるため、明日から始動。錬金魔法使いに関してはじいさんに任せて、信用できる者を探してもらう。決まり次第アーベンティス家のお抱え魔導士として契約予定。


研究作業に関しては、基本的にはじいさんの個人工房で行い報告を上げてもらう。問題が発生した場合は、王都の屋敷内にある工房へ移ってもらう。何もないことを祈るしかないな。


他にもポーション瓶の定期購入や販売価格についてもギルドと相談しなければならないため、じいさんに計算してもらう。


噂が流れたら一瞬で広まるだろう。そうなる前に色々と話し合って対策を考えないといけん。


可愛い娘のためだ、なんでもする。


「僕は仕事の合間に薬草の栽培について調べてみるよ。」

「ちゃんと仕事しろよ」

「せっかく文官として王城に入れるんだから有効活用しないとね!」


深夜遅くなって解散する時に、オリヴァーが言い出した。器用なやつだから心配はないが、何故か楽しそうで怖い。


明日も忙しくなるだろうからゆっくり寝よう。

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