第116話 取り扱い注意

___領主 クロード視点___


息子に背中を叩かれ正気に戻ったのだが、野郎どもが次から次へとポーション瓶を出している。嫌な予感しかしないんだが。


「これだけなわけないよね、そうだよね。全部鑑定するのも大変だから、紙に書いてもらえるかい?タグが付いてないのもあるみたいだからね。」


じいさんが出した紙に次々と書き込んでいく我が息子。最初はよかった。


「どっちですか?」

「全部ノーマル」


「こちらは?」

「上級ミックスとMPの200と250でどっちも紅茶」

「200持ってきたんですか?」

「使わないと減らないじゃん。それに2つあると便利だよ。使い分けできるし」


おかしな質問が増える。紅茶が何を意味するのか想像は出来るが考えたくはない。それを普通に話すこいつらの感覚はどーなっちまったんだ。


「それは?」

「上級のアポ、こっちはペッシュでこれがグレープ」

「グレープなんてありましたっけ?」

「作ってもらった。ほしいのがあれば材料持ってきてって言われたから、持っていった」


子どもに何させてんだよ。


「アルダ、初級も持ってきたんですか?」

「うん、いっぱいあったし念の為ね。ノーマルとアポとよくわかんないミックス」


よくわかんないミックスとは何だ。意味が分からん、脳が情報をシャットアウトして全く頭に入ってこんぞ。


「今持ってるのはひと通り終わりです。あとは作業の方法と結果をまとめた資料があるので、こちらを読んでいただいた方が分かりやすいかと」

「なんだ、持ってきてたのか?」


「せっかく王都に来るんです、信用できる専門家が見つかれば相談しようと思いまして。」

「さすがだな」


ガイトの言葉からすると、すでに作成済みの資料だったようだ。息子が出した資料をじいさんが読み、じっくり目を通す。でかいため息が隣から聞こえてきて、資料を渡された。読みたくないと思ってしまうからやめてくれ。


読んだ。読んだが、理解が追いつかない。大きく息をして思わず天を見上げてしまう。こういうのは俺には無理だ。


「リリアナを呼んできていいか?あいつの方が俺よか話が通じる」

「ぜひお願いします。」

「それじゃあ一旦落ち着こうかね。ほらこれ全部しまってしまって」


外で待つモリーンに飲み物となにか軽く食べるものを持ってくるよう指示し、別のメイドにリリアナを呼んでくるよう頼む。


じいさんの指示でキレイになった机に飲み物とスープやサンドイッチなどの軽食が置かれていく。気が立って気づかなかったが、かなり腹が減ってる。これは助かるな。


「失礼いたします。お呼びと伺いました。」


ノックと共に入ってきた妻を隣に座らせ少女の現状を含めたもろもろをざっくりと説明し、資料を読んでもらう。


「ねぇ、あなた。私まだリンちゃんに会ったことすらないのよ。」


こっわ。ナリアル頼む。


「はいはい。ディアさん、母にリンさんを紹介しても良いでしょうか?」

〈好きにしろ〉


「母上こちらに」

「あら、噂通り会話が出来るのね。始めまして、ナリアルの母でリンちゃんの養母になったリリアナと申します。ディアさんでいいのよね?以後お見知りおきを。」

〈…お前は母親似か〉


「リンちゃんに触れても良いかしら?」

〈好きにしろ〉


ディアの言葉が聞こえていないリリアナはマイペースに話を進める。苦笑いの息子を放置してディアが頷いたことを確認し、壊れ物を扱うかのように、優しく少女に触れる。


「始めましてリンちゃん、リリアナよ。きれいな髪ね。…こんな小さな体で見知らぬ土地で、これまでいっぱい頑張ってきたのよね。少し休みたくなっちゃったのよね。起きたらあなたのお話たくさん聞かせてね。」


頭を撫でるとおでこに軽くキスをして戻って来るリリアナ、その顔は母親そのもの。


「そうそう、一緒に捕まっていた子ども達はお風呂に入れて大きな怪我がないことは確認しました。今は客室で3人仲良く寝ています。それで、この話はどこまで進んでいらっしゃるの?」

「資料を確認しただけだ。」


「そう。とても素朴な疑問なのだけれど、何故今まで誰もポーションの味を改善しようと思わなかったのかしら。先生はご存知?」


「単純だよ、そんな余裕がないから。一人前になるには数年、作れるようになったら販売用をひたすら作り、余った時間は後輩の指導に使う。集中力を切らせば失敗するから他のことを気にする余裕はないんだ。」

「その大変な作業をあんな小さな子が完璧にこなせるって、信じられるものかしら?」


「無理だね。」

「そうよねぇ、先生はこれ作れるのかしら?」

「正直ちょっと自信ないよ、でもとても興味がある。今すぐ工房に引きこもりたい気分だよ。」


「リンちゃんはどのくらい失敗したのかしら?成功率は?」

「100%です。」


「うん、なんて?」

「成功率100%ですよ。作った物すべて効果のある使えるポーションでした。ちなみに魔法も数日でほぼ完璧に使えるようになりました。」


素が出たリリアナはふーーと長いため息をついて黙った。魔法の天才と呼ばれた彼女は大量の魔力を操作できるようになるまで数年かかったと聞いている。娘がそれを数日でこなすとは理解しがたいんだろう。


「他にも色々と作ったのは分かったよ。このMPポーションならあの子にも確実に効く。なんせ込められたのが自分の魔力だからね。これを1日2本、数回に分けて飲ませたら良いよ。不安なら坊っちゃんが確認してあげて。」

「わかりました、ありがとうございます。」


「それじゃ、工房に行くからね。何かあれば呼んでおくれ。これを作れる人間が増えた方が安心だろう?」

「えぇ、お願いします。」


任された!と素早い動きて出ていくじいさん。彼の希望で屋敷の中に錬金専用部屋を作ったのは正解だったのか、失敗だったのか。


今後の方針はじいさんが少女と同じポーションを作れるかどうかによって変わると判断し、今は解散となった。数日働き詰めだった野郎どもは風呂に入り休むことになった。


少女はメイドたちによって身を清められ、寝間着に着替えさせられ、寝かされている。報告によるとクリーンが効かなかったそうだ。あの魔力の殻は外からの魔法をすべて弾くように作られてるらしい。


リリアナはすでに複数の可能性を考えて動き始めている。頼れる妻がいて本当によかった。


じいさん、がんばってくれよ。


久々に脳の疲労が限界をこえたらしい。少し休ませてもらおう。






リンちゃん、冬眠のはじまり。

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