第115話 終わりと始まり

___アルダ視点___



「迷い人だか何だか知らねえが少しは役に立てって思うだろ!なぁ!?売っても誰も困らねえよっ…」

「黙れ」


「ごめんナリアルさん、反応遅れた。」

「大丈夫です。そっちはそれで終わりですか?」

「うん、こいつで終わり。」


うるさい喚き声が聞こえて焦ってたらナリアルさんが黙らせてくれた。助かった、あと少しふざけた事を聞かされてたら本気で手を出してた。


〈リン?聞こえるか?リン!?おい、リン!?〉

「リン!」


転がしてた雇われ冒険者どもと商人を馬車に入れてたら、ディアの声が頭に響いた。念話をリンちゃんだけに切り替える余裕がないのか、それともわざとなのか、全員が聞こえらしく一斉にそちらを向く。


「リンちゃんどうしたの?」

「大丈夫?」

「魔法使いすぎか?」


「疲れが溜まってたんだと思う。大丈夫だよ、馬車で待っててね。」


声が聞こえたらしく、別の馬車に乗る3人の子どもたちが窓を開けて顔を出した。彼らを落ち着かせてリンちゃんの元へ駆け寄ると、真っ青な顔で眠る少女がリーダーの腕の中に抱かれていた。そして感じたのは微かな違和感。


「何があったの?」

「分からん、魔力が揺れたと思ったらディアが慌てだして、気付いたらリンが倒れてた」


〈魔力回復のポーションをリンに飲ませてくれ、このままじゃ危ない〉

「分かった。アル、リンの作ったやつ」

「はい、1本で足りる?」


〈…いや、足りない。もう2本〉

「あんまり一気に飲まない方が良いんだがな」


「緊急時だからしょうがない。屋敷に専属医を呼んであるんだ、すぐ彼に診てもらおう。子ども達の体調確認に呼んどいて良かった」


クロードさんが医者を呼んでおいてくれたらしい。さすが領主様。焦らずゆっくり3本を飲ませ終わるとディアの雰囲気が落ち着いた。全員で動き出すが、やっぱり何か違和感がある。


「ねぇディア、リンちゃんの魔力変じゃない?」

〈リンは今、自分で作った魔力の殻に閉じこもってる。持ってる魔力の殆どを使い切って危険な状態だったから魔力を渡そうと思ったが、入らなかった。〉


全員に聞こえるように言うと、それっきり話さなくなった。魔力の殻が何かは分からないけど、何となく感じることはできる。どこか冷たくて無機質に感じる魔力の膜。普段のリンちゃんの温かい魔力とは正反対で、寂しい印象を受ける。


心配する子ども達には寝てるだけだと説明して、王都のアーベンティス邸へ急ぐ。その途中で事前に知らせていた騎士団の詰め所へ貴族達を預け、作戦終了と別の問題発生の旨を城に報告してもらう。


屋敷に着いた時には空もすっかり明るくなっていた。眠そうな子ども達をメイドに任せ、リンちゃんを部屋に運ぶと急いで先生に診てもらう。


「うん、見事な魔力操作だね、これはすごい。寝てるだけで特に体に異常はないよ。魔力が少しずつ減ってるみたいだからポーションを飲ませたいんだけど、ちゃんと効くかどうか。どうしたものかねぇ。」

「ポーションに効き目なんてあるのか?先生のポーションなんて最高品質だろ?」


「あまり知られてないけどあるんだよ。ポーションを作る時に魔力を込めるでしょう?他のポーションは錬金で消されるんだけど、MPポーションだけは少しだけ作成者の魔力が残ってしまうんだよ。だから他の魔力を受け付けない体質の人なんかは効き目が下がってしまうことがあるんだよ。」

「一気に大量に飲んだらいけないのはそれでか」


「そうだね。少しとはいえ他人の魔力を体に入れるから、何かしらの影響が出てしまうこともあるからね。あとは純粋に作った者の腕の差もあるけどね。」

「そんなに差が出るものなのか?」


「出るよ。MPポーションは特に難しくて、一定の魔力を流せてると思っても実際は少し波があってね。その波が大きければ体に吸収されにくくなってしまうんだよ。」


おっとりしたおじいさん先生とクロードさんの話を聞いて、なるほどと思った。それと同時にリンちゃんが作ったポーションはどうなのか疑問に思う。


「ディアさん、彼に見せても良いでしょうか?」

〈好きにしろ。リンに危険がなければどうでも良い。〉


ナリアルさんがディアに確認したのは間違いなくポーションについて。ここでポーションの存在を知らないのは領主のクロードさんと先生だけ。


「ありがとうございます。父上、先生、こちらを。」

「MPポーションだね。…鑑定してもいいかい?」

「はい。できたら先生のご意見を聞いてみたいです。」


「そうか、うん、言いたいことは分かったよ。ははっ、この年になってもまだまだ驚くことはあるね。椅子に座ってゆっくり話そうかね。」


先生は受け取ったポーションをじっくり見て頷き、ゆったりとした動きでソファーに移動する。専門家から見た評価はありがたいし、誰に話すか悩んでいたからそれも解決。クロードさんは瓶に着いたタグを見て、眉間にシワを寄せたまま固まっているけど。


固まった父を正気に戻し移動させるのはナリアルさんの役目。さすがに領主の背中を思い切り叩くことは僕でもできない。カルダならやりそうだけど。


今回の事件でリンちゃんが子ども達に味付きポーションを飲ませたいと言い、それを了承したと聞いた。秘密だと言ってもどこかから話が漏れるのは避けられないということで、事件が解決したらクロードさんに話を通して対応を相談しようと決めていた。


2人が持ってるのは「250、紅茶」のタグが付いたMPポーション。味が付いてるのはまぁいいとして、なぜか回復量が50上がったリンちゃん開発品。


領主は鑑定スキルはないけど元冒険者の勘でどんなポーションなのか理解した感じかな。元々大きくて怖いのにとんでもないオーラが出てる。知らない人なら絶対逃げてる。


ディアは元の大きさのままリンちゃんの横にピッタリくっついて寝てる。何かあれば呼んでくれるでしょ。


難しい話し合いはお任せしたいなー。

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