第114話 事件終わる?

〈商人が来た、準備しろ。箱を出してるから先に入れられる可能性がある。〉

〈りょーかい〉


のんびり遊んだり横になったりしながら時間をつぶしていると、ディアから指示がとんできた。みんなと後片付けをして小さくつけてた灯りを消して布団にもぐり込み、寝たフリをしてその時を待つ。


「なんでだろう、なんかちょっと楽しい」

「俺もなんでかワクワクしてる。」

「ローナも怖くないよ」


みんなが楽しそうで何よりだけど、私は思いっきり緊張してます。


〈男が1人屋敷に入った。接触があれば報告を〉

〈りょーかい。子どもたちはみんな楽しんでるよ。落ち着いてるし問題なさそう〉

〈暴れるよりはましか〉


パニックになって騒いじゃうよりはいいと思う。たぶん。ディアと苦笑いしてたら部屋の鍵が開けられ、人が入ってくるのが分かった。会話をそのまま報告する。


「灯りをつけて起こせ。顔を確認させろ」

「承知しました。メル、布団をはがして座らせろ。」


最初のは知らない声だからたぶん商人、誰かに指示したのは当主だと思う。


照明を最大の明るさにされて眩しくて、偶然だけど寝起きの顔になった。見えたのは食事を運んできてくれるメイドさんとここの当主、40代くらいのシンプルな服装の男性。


知らない男にひとりひとり、気持ち悪い視線で頭のてっぺんからつま先までじっくり見られた。あまりの気持ち悪さに鳥肌が立ったけど大人しくしておく。捕まってなかったら思いっきり水ぶっかけてた、あぶない。


「良い取引が出来そうだ、書類を作成しよう。運び出せ」

「お待ち下さい、お渡しするのは書類と金銭をいただいた後です。お部屋にご案内いたしますのでまずはそちらに。」


「チッ。お前らは部屋の外で待機。さっさと終わらせようか、フォルターノ侯爵。」

「ありがとうございます。メル、先にご案内を。」

「承知いたしました。こちらへどうぞ」


ちらっと部屋の外に見えたのは冒険者っぽい男の人3人。箱が近くにあるから力仕事と護衛担当って感じかな。


当主が鍵をしめてくれたので、しばらくは落ち着ける。


〈貴族が金にがめつくて良かったな。リン、そのまま部屋に立てこもれ、扉を土で固めて開かないようにしろ。〉

〈わかった。〉


「立てこもり作戦開始になります。扉を塞ぐのでちょっと離れててくださいね」


一応みんなに伝えてから塞ぐ。ナイフ兼ワンドを手に持ち土魔法を使ってまずはドアノブを動かないように扉にくっ付け、その後扉の全体を塗りつぶすように土で覆ったら石の様に硬くさせて開かないようにする。


コンコンと軽く叩いて確認。ポロポロ崩れることもないし大丈夫そう。これなら扉が外されても少しは足止めになると思う。


「お前すげぇんだな。」

「あたしも魔法使える方だけど、同じ子どもとは思えないね。」

「(頷くローナ)」


そんな呆れた顔をしないで欲しい。教えてくれた先生が良かっただけなんです。私はただ楽しく使いまくっただけなんです。


〈ディア、塞いだよ。〉

〈指示があるまではそのままで。〉

〈りょーかい。〉


とりあえずは待機なので遊ぶことにしました。ボウリングで。魔力を回復するのにポーションを飲もうと思ったんだけど、もう少し余裕あるしどうせなら何か作ろうと思って。


ピンは10本で中を空洞にして、ボールは使いやすいように小さめ。指を入れる穴があったと思うんだけど省略して、重さを変えて3個作った。ルールは簡単、1人1回投げて、それを何回か繰り返して倒した数で競います。ボウリングという遊びがあることは知ってるけど、実際やるのは私も初めてなので難しいルールは知りません。


説明をしたら興味を持ってくれたので一安心。順番決めでワイワイやってるすきにポーションで魔力を回復させる。


順番も決まったのでボウリング開始。1人がボールを投げたら見てる人たちで倒れた本数を数えてピンを並べ直し、紙に書いていく。2回目以降は足していくんだけど、双子が計算できないというので私とアイラさんで教えながら書いた。遊びながらだと勉強も楽しいよね。


〈楽しそうだがもうすぐ終わるぞ。小窓あたりを吹き飛ばすから離れたら言え。〉

〈吹き飛ばす!?〉


遊んでたらいきなりディアに吹き飛ばす宣言された。怖すぎませんかね。ちなみにボウリングの結果は全員7回投げてロイくんが1位でアイラさんとローナちゃんが同着2位、私が最下位。悔しいけど楽しかった。


急いでボウリングセットを片付けて洗面所に避難し、ディアに伝える。


ドンッバゴッガラガラガラ…と音がして、騒がしい声が聞こえる。そっと扉を開けて覗いてみると、爆笑してるガイトさんとカルダさん、苦笑いとナリアルさんと素知らぬ顔のディア。


驚いてる子どもメンバーに仲間だと伝え、みんなで出て行くとディアが駆け寄ってきた。久しぶりのもふもふです。ありがとうね。


「本当に白くて大きいのね。」

「はい、ディアといいます。優しいんですよ」


恐怖より好奇心が勝ったらしい子どもたちにモフられるディア。あとでいっぱい抱きつくから、今は頑張ったみんなにもふもふのおすそ分け。


「お久しぶりです、ご無事で良かった。こんな所はやく出ましょう。」

「あの穴から出るの?」

「はい。上にレイがいるのでヒョイッと。」


ナリアルさんにしては説明が雑では?と思ってたら、ロイくんの笑い声が聞こえてきた。見るとガイトさんがローナちゃんを抱き上げ、レイさんに投げてるところだった。うん、説明通りだ。


ディアに乗るかと聞かれたんだけど、私もガイトさんに投げられた。楽しかったです。レイさんもありがとう。


外に出ると知らない冒険者さんが近づいてきて、腕輪を外してくれた。身体がガッチリしてる助っ人さんだ。お礼を言うと頭をわしゃっとされた。久しぶりだな、この感覚。


馬車があると言うので歩いて向かうと、縄で縛られ馬車に乗せられた貴族がものすごい勢いで叫ぶのが聞こえてきた。


「あんなの誰も必要としてねーだろうが!なぁ、お前らが保護したんだろ?邪魔な小娘1人押し付けられて大変だな!迷い人だか何だか知らねえが少しは役に立てって思うだろ!なぁ!?売っても誰も困らねえよっ……」


聞こえてきた声に思わず立ち止まった。ナリアルさんが走って行き貴族に何かしたみたいで、倒れ込むのが見えた。


一瞬で嫌な記憶がフラッシュバックしてくる。ここ数日考えないように、思い出さないように閉じ込めてた記憶。家族に無視され続け、死ねば良いと言われ、必死に1人で生きていた時の記憶。たった数ヶ月前の日本の記憶。




周りの音が聞こえない。ディアが目の前でウロウロしてるけど、声が聞こえない。




なんか、すごく眠い…。

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