第113話 思惑とお金

「子の代金を確認に来てみれば、これはどういったことかね。フォルターノ侯爵?」

「どうと言われましても。売る子どもですよ、あなたが情報をくれた者もいますし。それが何か?」


「あのおじさんの方、あたしの町の領主様だと思う。大きい町じゃないし殆ど来ることも見たこともないけど似てる気がする」

「名前は分かりますか?」


「ナナリー男爵」

「ありがとうございます」


アイラさんがこっそり教えてくれた。入ってきたのがナナリー男爵で、彼が売れるであろう子どもの情報を流していた可能性があると報告。これは貴族が3人捕まることになるのでは。


会話から若い貴族がフォルターノさんだと判明。言葉からだと公爵なのか侯爵なのか分からないけど、爵位名で呼ばれるってことは若くても当主なんだと思う。そしてこのお屋敷の主。主犯のご登場です。わーお。


「それにあれには手を出さないように言ったはずだが。」

「そうでしたかな。」


「どうなっても知らんぞ。今すぐ金を用意しろ、取引は今回きりで終わりだ。巻き込まれでもしたら、たまったもんじゃない。」

「代金は用意してありますよ、部屋でお待ちください。」


「金の亡者が。こんな不気味な子どもに何ができると言うのか理解出来ん。ただの迷子の小娘だろう」


言い合いをしていたけど、男爵が出て行って終わった。そしてぼそっとつぶやく屋敷の主。不気味とはなんだ、失礼な。そして迷子ではあるけど異世界から来た迷子ですよ。その辺の子どもだと思ったのかな、この人。


〈ナナリー男爵がお金を受け取りにきただけみたい。私には手を出さないように言ってたみたいだよ、ここのお屋敷の主はただの迷子だと思ってるみたいだけど。〉

〈ただの迷子のために国から指示が出るわけ無かろう〉


〈そっか、情報伝わってるんだっけ?〉

〈容姿と年齢、保護先についての情報は全貴族に伝わっているそうだ。絶対に手を出すなと忠告付きでな。〉


〈そんな危険人物みたいなことに。でもそっか、男爵がすぐ私だと分かったのも髪色とか知ってたからなのか。〉

〈リンの色は珍しい。その髪と瞳の色をセットで持つのはリンくらいだろう〉

〈わお、そうなんだ〉


知らなかった。結構いろんな色の人がいるからちょっと珍しいくらいなんだと思ってた。だから不気味なのかな、なんか悪の色とか言われてたら嫌だな。


特に何もされなかったので、このまま商人との取引まで待つことになった。ナナリー男爵については別の人に動いてもらうらしい。お疲れ様です。


「ねえ、やっぱり貴族の娘だったりするの?領主さまがリンちゃんのこと知ったよね。どういうこと?」


どうしよう。


〈ディアさーーん、アイラちゃんに貴族の娘なのかって聞かれた。男爵が私を知ってるのがおかしいと思ったみたい。どう答えたら良い?〉

〈訳あって保護対象になってると説明しろ、幼くても大体は察するだろ。貴族の養子に入ってることは説明して良いそうだ。〉


ありがとうディアさん、そして保護者のみなさん。


「いろいろとありまして、保護対象になっています。貴族家の養子に入ってはいますが、養父母とは別々に暮らしてて冒険者をやってます。元は庶民ですし一緒に暮らしているのも冒険者です。」

「自分のことあまり話さないから何かあるとは思ってたけど。」

「じゃあやっぱりあのポーションも家からの支給品か?」


「いえ、ポーションは関係ないです。販売するとなったら義両親が力をかしてくれると思いますが、作成者は無関係です。」

「なんか。お前も大変だな。」


えへへ、と苦笑いしておく。ポーションに関しては興味本位で作りまくったのは私で、大変なのは保護者のみんななので。今回この子たちに使ったから、早めに売る方法を考えなきゃいけないと思う。人の口に戸は立てられないので。ご迷惑をおかけします。


そんなこんなで貴族襲来から1時間くらい経ちすっかり目が覚めてしまったので、またみんなでお喋りしたり絵を書いたりしながら暇を潰す。


「紙やペンを持ち歩く冒険者はいないと思うの」


はい、ローナちゃんにも指摘されてしまいました。ポーション作る時に買ってずっと持ち歩いてるし、いつものメンバーといるとよく使うから何の違和感も無く出しちゃったけど、普通は持ち歩かなし庶民がポンポンと使える物でもないらしい。


そして文房具屋さんで普通に売ってたから買ったけど、まず買いに行くこともないらしいです。前の世界の感覚だとノートとか筆記用具って必需品だしその辺で買える物だったから価値の違いを覚えないと。


〈押しかけ貴族が帰った。このまま夜明けまで起きてられるか?〉

〈大丈夫だよ、みんなで遊んでるし。〉


〈今近くにいるのは赤髪だけで、他の面々は各自屋敷を見張れる場所にいる。〉

〈みんなバラバラなんだね。〉


〈全体を全て確認出来るよう配置している。助っ人も私と仮契約をしたのだぞ、契約者が無駄に増えた。なんの強制力もないが。〉

〈みんな信用してる人なんだね〉


〈ちゃんとリンにも紹介すると言っていた。どんなカタチになるかは不明だがな〉

〈カタチも何もはじめましてってするだけでしょ〉


〈どうだかな〉


どうだかなってなんだ、含みのある言い方が気になるんですけど。


でも、ディアが焦ってる感じはしないし今はゆっくりしてて良さそう。


あと数時間後には作戦開始で、やっと帰れる。長かったなぁこんなにお家に帰れない事が嫌だと思わなかった。あそこが私の帰る場所なんだな。


あれ、そういえば畑ってどうなってるんだろう。ドタバタしすぎてて忘れてたけど、全員ここにいるし手入れ出来てないよね。帰ったら大変なことになってそう。


妖精さんたちがいなくなってないといいな。またちゃんとお手入れするしクッキーも準備するから、あの畑にいてね。


〈帰ったら畑のお世話しなきゃね。〉

〈問題ないだろ〉

〈だれかやってくれてるの?妖精さんいるのに大丈夫なの?〉

〈その妖精がなんとかしてるはずだ。〉


なんとかって何だ、なんとかって。やっぱり帰ったらクッキーとお水いっぱい出そう。


色々あるけど楽しまなきゃ損だもん、攫われたことも含めて初体験、全部まるっと楽しんでやる。

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