第120話 味気ない日

___フランク視点___


強制捜査から2日、リンちゃんが寝てから3日目の今日は特にやることもなく暇。


囮になると決めた時、王都に着いたら観光をしながら目新しい物を探して買い物したり、新しい料理を作ったりしようと約束していた。他の面々もリンちゃんに似合う服や小物を買いたいと言っていた。


それなのに、今はその主役がお休み中。クリーン魔法が効かないからメイドが手作業でキレイにして、服も毎日着せ替えてもらってるらしい。今は薄いピンクのシンプルな長袖の寝間着を着ている。寝てても可愛いのは分かる。


毎日じいさんに見てもらって少しずつポーションを飲ませている。体に異変は無いとは言うが、生きるための最低限の機能しか動いていないらしい。それは異常だと思うんだけど。


「今日どーする?」


相変わらずこの屋敷に着てからほぼリンちゃんの部屋にいるメンバーたち。ただ、今日は珍しく双子がいない。


「本屋に行くつもり。ガイト達は?」


「俺とナルとレイは取り調べに参加してくる。」

「おー行ってらっしゃい。双子は?いないけど」


「リンの寝間着を見に行くって出ていった。いつまでこのままか分からんが、起きてたら着ないだろう派手な女の子用のを着せたいんだと。」

「リンちゃんで遊ばないように言うべきかな?」


「カルがちょっとヘコんでて、アルが気分転換の口実にな。魔法でいろいろ解決してきた奴が、急に魔法が無力な状況に直面したんだ。」

「初めての挫折ってことか。まぁ僕たち全員無力なんだけどねー」


「そんな感じだろうな。修羅場の経験数の問題だろうしすぐ復活するだろ。医者の先生ですらどうにもならん現象なんか、悩むだけ無駄だ。ただ起きてくれることを祈り、今後どう守るかを考える方が優先だと気付けるはずだろ。」

「頭はいいからね。」


「そゆこと。んじゃ、行ってくるな。ディア、リンを任せたぞ」

〈…〉

「行ってらっしゃーい」


ディアは殆ど話さなくなった。何かあれば答えることもあるが、基本的にはリンちゃんの横にいるだけで置物化している。


僕も本屋に行こうかな。リンちゃんのいた場所では本も紙類も普通に買える値段でどこにでも売ってたらしいけど、ここじゃ庶民はあまり買わないし店も少ない。王都ならいろいろ集まってるし買うならここなんだよね。


「ディア、僕も行ってくるね。」

〈…〉


返事は無いけどこっちを見たから聞いてはいる。それを確認して、使用人にお昼はいらないと伝えてから屋敷を出る。


運動不足だし時間に余裕もあるから歩いていく。距離はあるけど往復3時間くらいなら軽い運動になるしちょうどいい。


のんびり気になる店を見ていく。調味料の店とか粉の専門店とか調理魔道具店とかいろいろあって、リンちゃんが行きたいと言ったらすぐ行けるようにと頭の中でリスト化する。


目当ての本屋に着いたら早速見て回る。欲しいのは魔法付与の本と、魔物・魔獣についての本、この国の地図とか世界全体が分かるような本。あとは普通の物語系のを何冊か。


リンちゃんは本をよく読んでたって言ってたし、何かを知ることも学ぶことも好きっぽい。もし明日にでも起きたとして、数日はベッドでの生活になるだろうし本でもプレゼントしようと思いまして。


あとは僕が読む用の魔法研究の本やら堅苦しい系の物語とかを数冊買ってカフェに入る。


ゆっくり買った本を読みながら軽食をとり、紅茶を飲みながら午後の時間をすごす。3時過ぎにカフェを出て歩いて帰る。


屋敷に着いたらその足でリンちゃんの部屋に向かい、扉を開けてベットを見て…数秒固まった。


「なにそれ???」

「んー…妖精団子?」

「なんだそれ」

「これ。」

「説明しろ」

「アルダ頼んだ」

「えぇーー」


妖精団子って。カルダのワードセンスがおかしい。


ベッドの上には朝と変わらず寝ているリンちゃんとその隣にディア。なぜかそれにプラスして妖精が10人ほどリンちゃんのお腹辺りに座ってクッキーを食べたりわいわいしてる。そしてそれを遠くのソファから眺める双子。なんだこの空間は。


「アルダ、説明」

「服屋の帰りに妖精1人がカルダの顔面に突進してきて、話を聞いたらリンちゃんの存在感?が薄くなったとかで探しに来たと。」


「うん。」

「で、とりあえず連れてきたらどっからともなくこの量集まって、リンちゃんの状態を話したらこうなった。」


「何故カルダの所に来た?」

「リンちゃんの魔力を追いきれなくて、畑の結界張ってるカルダの魔力なら分かるからってそっちを探したらしい。」


「頭いいな。というか、全部アーベントから来たのか?」

「いや、半分だって。もう半分はここらにいた妖精らしい。あと畑は妖精が手入れしてるから問題ないってさ」


「そりゃ助かるな。うん。」

「うん。あと収穫した薬草持ってきたって言うから預かった。それでクッキー作ってほしいってさ」


「うん。後でね。……なんて?薬草持ってきた?」

「妖精には妖精にしか使えない収納系の魔法があって、それに入れてきたらしいよ。」


「あ、そうなんだ。」


ちょっとごめん、理解するのは後でいいかな。事実は事実としてあればいい、うん、おっけー大丈夫。…なわけあるか?


「えーっと、僕たち以外に妖精が見える人はいるの?クロードとかは?」

〈今のところはいない。理由がなければ見えないのが普通だ〉


「そっか、それなら一応は安心かな。見えなければ触ることも出来ないんだよね?」

〈出来ないし、触れられる距離からは逃げる。〉


「おっけ。」


珍しくディアが喋ったなーとか、カルダは現実逃避するなとかアルダは諦めるなとか色々とある。あるが、今は一旦おっけー。


とりあえず買ってきた物をベッド近くのサイドテーブルに置き、双子が買ってきた可愛らしい寝間着を見せてもらった。薄い長袖と厚手の物と、シンプルで使いやすそうなガウン1枚ずつ。


本の話をしているとガイト達が帰ってきて、同じように固まった後同じ説明をアルダがした。


どうするか話し合った結果、医者とクロードとリリアナには話してしまおう、ということになった。


理由の1つは薬草。どうせなら先生に使ってみてもらおうと意見が一致。


理由の2つ目は勘の良い2人ならここにいる僕たちの視線がおかしいことに気付くだろうし、なにかあったことはバレると思ったから。あとは単純にこちら側へ巻き込みたかった。後半が本音です。


妖精専用の収納魔法って何だろね?ほんとに。聞いたこと無かったよ。色々と資料とか読める立場だったのに。


1日の終わりにとんでもない特大魔法が降ってきたみたいだった。面白いから大歓迎だけどね。


ぜひクロードとリリアナには驚いてもらおう。


リンちゃん、起きないと2人のびっくり顔見れないよー。

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