第108話 最低ですね、嫌いです

おとり捜査が始まって、初めて危機感を覚えているリンです。馬から下りた瞬間ジゼルさんに抱えられました、肩に担がれる状態で。


今は移動2日目の深夜、目の前には大きめのお屋敷があるのに向かっているのはその裏にある小さな道具小屋。農作業の道具が置いてあって、奥に進むと木製の扉がある。鍵を開けて入れば、地下に続く階段があるだけの殺風景な場所が出現した。


「そこで待ってろ、目を離すんじゃねーぞ」


ジゼルさんは私を降ろすと、リューリーさんを見張りに残して出て行ってしまった。鍵を閉められてるし今さら逃げませんよーだ。


〈ディア、聞こえる?近くにいる?〉

〈近くにいるし聞こえるが、リンの魔力が探しにくい。その場所には何か細工がされてる可能性があるな〉


〈結界かな?多分このまま地下に連れて行かれると思う。〉

〈地下か・・・危険を感じたらすぐに言え〉

〈うん〉


しばらくして入ってきたのは、ジゼルさんとこれぞ貴族という見た目の派手な男性。服は派手だけどお腹は出てるし頭は寂しいし、かなり残念な感じ。


「これがそうなのか?」

「間違いないです。」


「どれだけ綺麗な顔をしているのかと思ったが、不気味だな。こんなのが売れるなんて信じられん。まあいい、地下に入れておけ」

「了解」


気持ち悪い視線で全身見られたと思ったら、失礼なことを言って去って行った。何だあいつムカつく。誰が不気味だこのやろう。


心の中で悪態あくたいついてるとまた担がれて階段を降りていく。下は照明がついてて真っ暗ではないけど、風が通らないからなのかジメジメしてて気持ち悪い。厳重に鍵のかかった部屋に入るとほん投げられる。ベッドがなければ確実に怪我してた。


「暴れるなよ。」


ひとこと言って出ていってしまった。リューリーさんは終始無言。


「君も捕まったの?」


急に声がかけられたので驚いて振り向くと、私と同い年くらいの兄妹?と少し年上の子が1人いた。ベッドが6つ並べられてて、私が投げられたのは手前。3人は1番奥のベッドにかたまってた。


「はい。みんなも?」

「私は2日前に」

「俺達は3日前」


警戒を解いてくれたのか、みんなが近寄ってきてくれたので私も真ん中に移動する。「うっっ」と聞こえたので見ると、男の子が腕を抑えて痛そうにしてた。


「ケガ?」

「ローナを守ろうとして殴られた」

「少し痛いだけだ。」


聞けば、食事もまともに出ないのでポーションなんて貰えるわけがないと。最悪だな。


〈ディア聞こえる?私の他に子どもが3人いて、1人は怪我してるの。どのポーションあげればいいか聞いて、あと食事が少ないらしいからクッキーも食べてもらいたいんだけど薬草クッキーも一緒にあげていいか聞いて、あと水を…〉

〈3つ数えて待て〉


焦りすぎたと反省してると魔力がグッと減った。


〈リンさん聞こえますか?ご無事ですか?〉

〈おーい無事かー〉

〈んえ??〉


ディアとしか話せないはずなのに、なぜかナリアルさんとカルダさんの声が聞こえる。聞こえるというか頭に響くというか、どゆこと?


〈ディアさんが一時的に繋げてくれています。ただ時間をかけるほどリンさんの負担も増えるので手短に、状況を教えてください〉


さっきディアにしたのと同じような説明をすると、痛みのある部分だけを鑑定するよう言われた。人の鑑定はルール違反だと思ってたしなかったんだけど、部位だけ見れば怪我の状況が分かるらしい。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−

部位 腕

状態 骨折(中級ポーションで完治可能)

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見えた結果を伝えると、今手持ちにあるポーションを教えて欲しいと言われたのでカバンを確認する。


〈味のないポーションが全種類各3本ずつ、味のあるポーション初級が1本、MPが2本、その他3本ずつあります〉

〈魔力と体力がどのくらい減ってるか聞いてみて割合でいいよ〉


「あの、わたしポーション持ってて、体力と魔力が残りどのくらいか教えてもらえますか?半分とか、もう少ないとか、ざっくりでいいので、あ、わたしリンです」


会話下手か?と自分にツッコむくらい変な喋り方になった。同年代の子と話す機会が少ないからしょうがないと思う。うん。


少し悩んだあと、みんなステータスを確認して答えてくれた。


「体力は30減ったくらいでほとんど残ってるけど、魔力が残り10もない。最大で350くらいあるんだけど、この不気味なの着けられる前に使っちゃって回復出来てないの。あたしはアイラよ」


年上の子は私と同じ腕輪をつけてた。魔力が封じられてるから減ってから回復しきらないのかな。


「俺はロイ、双子の兄だ。最初から魔力が少ないから変わらないけど、体力は180から40くらいに減ってる。食ってないし回復が遅い。」

「ローナはローナ、双子の妹です。魔力も体力もそこまで減ってないかな、動いてないから…」


素直に教えてくれて助かったので、結果を伝える。誰に何を飲ませていいかの指示が飛んでくるので、カバンからあれこれ出していく。


〈味あるのをあげていい?秘密ならしょうがないけど、でも辛い思いしただろうし少しでも美味しい方がいいかなって〉

〈いいですよ。後のことは任せてください〉


よし、許可がでた。近くのテーブルにお皿とコップが置いてあるので使わせてもらおう。水を出して洗って、5回クリーンをかけたらポーションを入れていく。


アイラさんにはMPポーションを半分出して、足りなければちびちび飲んでもらうので一緒に置いておく。ロイくんは中級の味なしをぶっかけて味ありを飲んでもらって、ローナちゃんは一応初級ポーションを半分だけ飲んでもらう。1人だけ飲めないのもなんだかなーと思ってしまったので。


薬草クッキーも許可が降りたので、1人2枚だけ出すことにして、しっとりクッキーとジャムクッキー、スコーン2種類をいっぱい出す。準備をしながら2人にお礼。


〈ありがとうございました〉

〈ディアがキツそうだからここまでだね、絶対に助けるからな!〉

〈全部終わったら王都観光を楽しみましょうね〉


優しい2人とお別れしたらディアが戻ってきた。人同士を繋げるのは細かい魔力操作が必要になるらしく、かなり疲れるらしい。ごめんね、ありがとう。


準備ができたらお食事タイムです。いろいろ神様カバンに詰め込んできててよかった、本当に。

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