第107話 一方その頃

___とある貴族たち___


「ちゃんと捕まえたんだろうな?」

「はい、明日にはこちらに着きます。しかしあの子供でよかったのですか?」


「欲しいと言われたらそれに従うだけだ、余計なことを考えるな」

「はっ。」


「数日君の屋敷に置いといてくれ、あちらとの予定が決まれば迎えを向かわせる。他にもいるんだったか?」

「はい、3人ほど。見目の良いのと魔力が多いと思われるのを集めました。」


「それも合わせて引き渡してもらおう。」

「承知いたしました。」


ここは高級料理店の個室。


長身で細身の貴族が指示を出し、その父親くらいの年齢の男が手を揉んで話を聞いていた。不思議な関係の2人は別れたあとそれぞれの屋敷に戻り、この依頼が成功して手に入る金貨の枚数を想像しては笑みを浮かべた。


それが崩壊の始まりとも知らずに。




__________________




___王都のとある貴族のお屋敷___


使用人全員が集まって朝の確認・連絡を行う時間。前に立つのはメイドのまとめ役とみられる女性と、同年代くらいの男性執事。リンの言葉を借りるなら、ダンディのイケオジ。とても喜びそうな格好いい執事である。


「本日の深夜か明日にでも旦那様とナリアル坊ちゃま、いつものメンバー皆様、加えて男性2名と養子に入られたお嬢様がいらっしゃいます。各部屋の最終確認はいつも通りに、お嬢様の専用ルームを整えますので必要なものは執事長に相談しながら進めてください。」

「お嬢様は華美かびな装飾を好まない様ですので、あまり派手にしすぎないように。」


これまでやんちゃな男児しかいなかった屋敷に少女がやってくる!と全員喜びの色でいっぱいになる。


「お嬢様の専属はつけるのでしょうか?」

「決めた方が良いでしょうね。やりたい者は?」


シュバッと6人が手を挙げる。手を挙げていないのはすでに専属として働く6人。専属に付いていない全員が立候補したことになる。


悩んだすえ、希望者によるじゃんけん大会が開催された。結果2人が勝ち残り専属が決定する。なおこの屋敷には長男とその妻が暮らしており2人にも専属のメイドはいるが、来客が増えると長男のメイドも客人対応にまわることになる。ある程度は自力でなんとかするのがアーベンティス家。リンは特別ということだ。


「何か質問はありますか?」

「はいっ!お嬢様はおいくつでしょうか?御髪おぐしと瞳の色は?」

「お名前はリン様、年齢8才で色素の薄いホワイトベージュの髪に綺麗なブルーの瞳をしているそうです。実年齢より幼く見えるそうですが、気にされているとのことですので小さい等の言葉を使わないように。」


「はーい、どの部屋を使いますかー?」

「ナリアル坊ちゃまの隣が空いておりますので、そこに。大きな従魔がいらっしゃるのでベッドは大きい物に、ラグも大きい物を2つほど準備して下さい。」


「他に質問はありますか?」

「食べられない料理や食材はありますでしょうか?」


「特にその様なお話はありませんでした。料理長の腕の見せ所ですね」

「頑張ります・・・」


料理長と呼ばれた男は熊のように大きく迫力があるが、気が小さいのか背中を丸めてしまっている。リンが飛びつきそうな男性である。


「他は?」


「奥様はいらっしゃらないのでしょうか?」

「領地から馬車で向かっているそうですので速くて5日、遅くとも1週間以内には到着予定です。」

「かしこまりました。」


「それでは各自、業務を開始してください。」


その言葉を聞いて動き出す使用人たち。伯爵邸にしては使用人の数が少ないが、少数精鋭で皆優秀。


「お嬢様が領地より先にこちらにいらっしゃるとは思いませんでしたね。まだまだ先の話かと。」

「今回は例外中の例外でしょう。事件に関わって連れてこられるのは想定外ですから。」


「とても利発な方だそうで。」

「見た目は幼く6才程度に見えるのに実年齢8才、さらに話をすれば大人びていて様々な意味で見た目通りの方では無いようですよ。」


「楽しみですね。」

「えぇ。」


使用人トップの2人はそれぞれの仕事に戻った。


その日の夕方、他に2人追加で来るとの知らせが届き大騒ぎになるのだった。常に部屋は整えているが、大勢集まるとなるとさすがに準備が必要になる。それに領地の屋敷よりも来客が少ないゆえの少人数体制なのだ、嬉しくも大変な1日になるのだった。


ちなみに、通常アーベントから王都までは馬車で最短1週間かかる。馬に乗れば3日、休憩も最小で急げば2日半で着けるのだがアーベンティス家の所有する馬は特別で最速2日で到着する。速すぎてかなりの体力が消耗されるので、乗るのは身体強化ができる者か冒険者や騎士としてかなり鍛えている者に限られる。



話は変わるが、この世界には連絡手段が複数存在する。1つ目は伝書鳩に運ばせる方法。鳩型の魔物であるターブと契約し数カ所の拠点を覚えさせれば、契約者が指示を出して運んでもらえる。空を飛ぶので人より速いが、魔物に襲われる危険もあるので要注意。


2つ目は通称『連絡板』と呼ばれる魔道具。B級ダンジョンからのレアドロップ品で見た目は家庭用のコピー機、機能はスキャンやファックスに似ている不思議な物で設置式。設定で複数の連絡板を繋げることができ、送りたい場所を指定すれば複数カ所でも1度に送れる便利仕様。ただしかなり高価なため、各ギルドの上層部や上位貴族、上級冒険者でないと手が出せない。


3つ目が最も数が少なく入手も困難なイヤーカフ型の魔道具。こちらもB級ダンジョンからのレアドロップ品で2~6個セットで出る。一緒に出たセット間での会話が可能だが、連絡板よりもさらに出にくいためとんでもなく高価。使うのはほんの一部の者のみであまり知られていない。


今回屋敷に届いたのは連絡板からが1通と伝書鳩が2通。どれも同じような内容なのだが、できればもう少し速く送って欲しいものである。


優秀な執事はほんの少しだけ頭を抱えるのだった。

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