第106話 速い楽しいお尻痛い

日が昇る前に寒さで起きたリンです。もぞもぞ動いてたらリューリーさんに見つかった。ご飯を取りに行くと言うので、その間に水を浮かせて顔を洗う。それにしても寒すぎないかな。日本の感覚だと6月7月って夏真っ盛りなんだけど。


タオルはカバンに入れて、浮いてる水は窓の外に投げて証拠隠滅。全身にクリーンかけたら朝の支度は完璧。ディアさん近くにいるかな、いたら良いな。


〈ディアさーん、こちらリンですーー聞こえますかーー寒いですーーディアさーーん〉

〈聞こえとる。ケガはないか?〉


〈わっ、いた!無事だよー近くにいるの?〉

〈視認できる距離にいる。双子のやかましい方とお前の兄、ギルドのひょろ長い長髪も一緒だ〉


普通に返ってきた声に驚いた、本当に近くにいてくれたんだ。一緒にいるのはカルダさんとナリアルさん?それとユシリスさんかな。ユシリスさんがギルドを離れても大丈夫なのだろうか。


〈我々も一緒に移動する。もし危険な状況だと判断したら思い切り叫ぶか魔法を使え、遠慮なくやっていい。〉

〈わかった、ありがとう。みんなにもありがとうって伝えて〉


〈伝えた。無理するなよ〉

〈うん、気をつける〉


心が暖かくなったところでリューリーさんが戻ってきた。渡されたのは葉っぱに乗せられたパンと、干し肉が2枚。これぞ冒険者ですってご飯だな。


「おはよう、食べたら移動になるんだけど乗馬の経験はある?」

「いえ、全くないです。」


「僕と一緒に乗ることになるんだけど、前向いてると風で息が出来なくなるから後ろ向きに乗ってもらって、紐で固定しようと思ってるんだ。気分が悪くなったら言ってね」

「はい。」


「君にとってはただの犯罪者だから、殴っても暴れてもいいんだけど。」


そりゃムカつくけど、リューリーさんは完全な悪者じゃないから対応に困る。困った結果その辺のお兄さん扱いに落ち着いた。


「リューリーさんはこの仕事が終わったらどうするんですか?続けますか?やめて罪を償いますか?」

「やめることが出来たらいいのにね。」


リューリーさんも人質になってる人たちも全部まるっと助けられたらいいのに。


ご飯を食べ終えて大人しくしてるとジゼルさんが入ってきた。小屋から出ると、馬が2頭いい子に水を飲んでる。子どもの体だからかな、とんでもなく大きくて感じるんだけど。筋肉ムキムキで蹴り飛ばされたら確実に終わる。


「こいつらは軍馬で、スピードを維持したまま長距離の移動が出来る。今日は1日馬の上だ。」


頷いておく。


〈ディアさん、お馬さんがいるんだけど。〉

〈もうしばらくしたら残ってた奴らが馬を届けに来る。私はこのまま追いかけ、今いる奴らも馬が届き次第追いかける。残りは先に王都へ向かうそうだ〉


〈わお、そっちもお馬さんが来るのか、徒歩じゃなくてよかった。ディアは疲れてない?大丈夫?〉

〈数日休まずとも問題ない。自分の心配をしなさい〉

〈はーい。〉


ディアと話してる間に腰に紐を巻かれ、反対側は余裕をもたせてリューリーの腰に繋がれる。抱き上げられ馬に乗ると後ろ向きに下ろされる。お尻の下にはクッションが敷かれてるけど、薄くてちょっと心許こころもとない。


「行くぞ」


すでに準備が終わってたジゼルさんが先に駆け出し、それを追うように走る。


わー、はやーい、ジェットコースターだーと思えたのも最初だけ。徐々にスピードを増していくので普通に怖い。絶対前向いてたら窒息してるよこれ、後ろ向きに抱えてくれてるリューリーさんに感謝。


〈ディアさんいますかーこちら想像以上に速くてびびってます、どうぞ。〉

〈少し離れて追ってる。遊ぶ余裕があるなら問題ないな〉


おちゃらける余裕はあるけど体力がもつか、ものすごく不安なんですけど。私魔力は多いけど体力は普通の子どもなんだよ、もしかしたら平均より少ないくらいなんだよ。


あれこれ考えても無駄だと思考停止。車並みに速く流れる景色を堪能することにする。ほぼ森だけど。


無言で進むこと3時間ほど。馬を休めるための休憩に入ったのでトイレに行きたいと言ったらその辺でしてこいと言われた。腰紐はリューリーさんが調整してくれて2メートルくらいに伸ばされたので、ズンズン草むらに入っていく。


さすがにそのままは抵抗があったので、子どもが中腰でやっと入れるくらいの箱を土魔法で作ってその中でトイレをすませる。クリーン便利。魔法ありがとう。


水分補給もして20分ほど休憩したらまた出発。あまりにも無言が続くので堪えきれず、リューリーさんに質問しまくった。


教会に併設された孤児院で育ち、院長先生にはお世話になったこと。獣人ゆえに魔力は少ないが、身体能力が他よりも高く冒険者を勧められたこと。始めたら楽して、続けてたらランクが上がり、稼げるようになったので報酬などは孤児院に寄付してること。


いい笑顔で話すのを見てると、本当にいい場所だったんだと思える。


冒険者になって失敗したことや、怖かった魔物や魔獣についてもいろいろ教えてくれた。武器は双剣で小柄、すばしっこくて敵の間をスルスル走り回るのが得意らしい。さすが猫さん。


冒険の話を聞いてたらいつの間にかお昼休憩になってた。硬いパンと干し肉、アポを渡されたのでナイフで切って食べる。


それにしてもお尻が痛い。クッションあるけど長時間はさすがにキツイ。痛み止めとかこの世にあるのかな、聞いたことないけど。ポーションがあるから痛み止めが必要ないとかありそう。


トイレに行ったすきに初級ポーションを半分だけ飲む。残りの半分は夜にとっておく。遊びで作ったペッシュ風味のポーションは飲みやすくて助かった。持ってきてよかったよ、本当に。


その後もとんでもない速さで進み続けるリンたちと、後ろから追ってきてるであろうディアたち。


索敵能力がほぼない私には、後ろの人がどこにいるか全く分からない。かろうじてディアと話せば近くにいると分かるからいいんだけど。


リンは追ってる3人が極限まで気配を消せるプロだとは知らないし、ディアが強い魔獣であることも忘れているのである。


お世話になってるフランク含め紅嵐の盾メンバー、冒険者の街アーベントにあるギルドのトップ2人は規格外なのです。


それを知る時はくるのかな。

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