第105話 戦力総動員?

___ガイト視点___


「入るぞ、事件発生だ」


ノックせずギルマスの部屋に入れば2人セットで仕事をしている。好都合だ。


「リンが攫われた。ディアは『貴族の家で幸せに暮らすから心配するな』と伝言を頼まれたそうだ。魔力暴走対策用の腕輪を着けられ、体内魔力の半分を封じられてる。遠く離れてしまうと会話が出来なくなる可能性がある」


「追跡リングには魔力が通されたから追えるよ。マジックバッグに入れたのか少し反応が薄いけど今ならハッキリ場所が分かる」


「カルダとユシリス、ディア、あとはナリアルが先行して追跡。ユシリスは連絡係で逐一報告、ディアはリンに変化がないか確認してくれ。カルダとナリアルは見つからないように2人を上手く隠せ」


「「「了解」」」

〈リンの魔力が薄くて分かりにくい。近くまではそれで追ってくれ〉

「分かった。」


「半刻後に出発するので、それまでに必要な物を持ってきてください」

「「必要な物なら全部ある(あります)」」


「なら今すぐに行きましょうか。」

「「はい。」」


先行の3人と1匹が出ていった部屋は空気がヒリつく。魔力制御とは名ばかりの吸収のブレスレットは特別な理由がない限り使用できない決まりになってたはず。これで罪が1つ増えたな。


「領主様への連絡は?」

「ナルがしてたはずだ。」

「この短時間でどうやって?」

「ちょいと便利な通信系の魔道具があってね。」


ちょいとのレベルが違うとかブツブツ言ってるけど知ったこっちゃない。入手したのは領主様だし俺達はナルから聞いただけで深くは知らない。知らないほうがいいこともある。


ちなみにフランクもここにいる。普段は感じの良い兄さんを装ってるが元冒険者でさらに前は、とあるお方のお抱え暗殺者。腕は俺なんかよりも上。リンには言えねーけど。


今後の予定を話し合っているとドアがノックされた。一瞬で警戒態勢に入ったが、現れたのは見覚えのある騎士。アーベンティス家の者だ。


「領主様より、至急の要件とのことです。手紙を預かっておりますので、ご確認いただき可能であればお返事を頂きたく。」


ギルマスが封を開けた手紙を読み、眉間にシワを寄せ頭を抱える。返事を書くからと渡された手紙の内容は、要約すると『今すぐ王都に向かう。兵士は集めたから使うなら使ってくれ。馬も数頭いるからご自由にどうぞ。私は王に喧嘩ふっかけてくる。王都に来たら家の屋敷を使ってくれ、歓迎する』。


「さすが領主様…」

「…コクッ」

「ふふっ」


アルダのつぶやきにレイは頷きフランクは不気味に笑う。いや、王に喧嘩ふっかけてくるとか要約しなくても書いてあるんですけど。不敬罪で首飛ぶぞ。


「とりあえずお心遣いには感謝するが動くのはここにいるメンバーだけだ。スノーケーニヒがいるのに兵士まで追加したら国が滅ぶ。クーデターかよ」


このメンバーだけというのは賛成だが、クーデターではない。立派な仕返し、報復だ。


領主邸にいる馬はスレイプニルとの混血種、普通の馬なら3日かかる道のりでも2日で着けるはずだ。俺等が乗れるなら助かるし、先に行って準備をしてもらえるならありがたい。


「お前らも今すぐ行きたいだろうが、明日までは待ってくれ。すまんな」

「最初から分かってたことだ。帰りは王都の観光もするから少し時間がかかると思う。土産いるか?」


「いらねーよ、と言いたいが。いい知らせなら大歓迎だ。」

「楽しみにしててくれ。俺等は戻って準備する。」


「あぁ、やりすぎるなよ」

「…聞こえないね」


ギルドを出たら日が傾いて空が暗くなり始めてた。そろそろ冬の準備をしなきゃならん。リンは寒くないだろうか。


「リンちゃんの服も持たなきゃね。」

「王都でも買おうじゃないか。冬用のはまだ無いしあっちの方が選べそうじゃない?」


「それアマンダに聞かれたら首飛ぶぞ、フランク」

「うん、アマンダのところでも買おう。絶対に」


手のひらクルクルだな。


「明日は馬での移動だ。体力も相当減るだろうからしっかり休め。リンのポーションはいくらでも本数関係なく持って良い。早朝5時に出発、向かう先は王都。」

「「「了解」」」


ダノリア男爵がいるのは王都か男爵領。男爵領は王都から近くてすぐにいける距離だから、まず向かうは王都のアーベンティス伯爵邸だな。


明日からの移動と王都での数日を考えて準備しなきゃならんのか。食事はフランクがいるしなんとかなるとして、着替えと予備の武器その他もろもろ。テント類はアルが持ってるし大丈夫か。


「ガイト、作りためておいた料理も持って行くがいいか?片手でつまめる程度のものばかりだから」

「あぁ、助かる。バッグの容量足りるのか?」


「最近買い足したから問題ない。ディア用の肉もあるから大きいのが欲しくなってね」

「金は後でグループカードから出す。必要な物があるなら言えっての。」


「いつもは買い物に使ってるから出番が少なかったんだよー」


真面目な雰囲気かと思えばポヤポヤしやがって。これに騙されるんだよなー怖い怖い。


「アルは大丈夫そうか?」

「僕は大丈夫。いつでも動けるようにまとめてあるから。」


「レイは?」

「俺もまとめてある。」


仕事のできるやつ等で助かるよ。


飯を食ってシャワーを浴びて談笑してたら門のベルが鳴らされた。警戒しつつ見に行くとサリアとロレンがギルマスの遣いで手紙を持ってきたらしい。


中を確認すると、リンは明日から馬で移動するらしいから、先行隊の分の馬も一緒に連れて行けとのこと。馬車移動だと思ってたから計画には1週間ほどを考えていた。こりゃ早まるな。


了解と予定が早まる旨伝えてもらう。


「みんな、予定が変わった。恐らく明後日には動くだろうからそっちの準備もしておけ。」

「早いね、何かあった?」


「明日からリンたちが馬で移動するらしい。馬車移動と考えていたが予定が早まった。」


「了解。リンちゃん馬に乗れるのかな?」

「無理だろ。」

「どうやって運ばれるんだろうな…」

「楽しんでそうな気もする。」


うわーありそうだわーと全員の気持ちが一致したところで就寝だ。


どうかリンが痛み苦しみなく過ごせていますように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る