第104話 動く影
いつ来るんだ刺客、いつでもこい!と意気込んでいたものの、気付けば5日が経ちました。平和な生活が続いているリンです。
おとり捜査が始まった初日、オークが森の浅いところに現れてドタバタしたけど調査の結果ただの迷子と判明。知能はあっても方向音痴には勝てないらしい。
〈そっちに行ったぞ〉
〈はーい、よっと〉
今は森でディアとベアラット狩り中。急激に増えたラットをちまちまと減らすお仕事。私が巣に水を噴射して離れて、ディアが追いかけて私の方に誘導。まとまったところを水で一気に包んで倒す、血も出ないし安全に楽しく追い込み猟やってます。
〈もういいか?〉
〈うん、今ので32匹だから目標達成!〉
〈じゃあ帰るか〉
早めに帰ってギルドで鑑定のお仕事する予定。毎回ラットもラビも全部血抜きまでやってたんだけど、面倒くさいし血が出ない倒し方してるならそのまま納品でいいと言われたからそうしてる。
門を抜けるとどこからか甘い匂いがしてきた。おやつ作ってるのかな。屋台には丸くて硬めのドーナツも売ってる。サーターアンダギーな近いと思う。
ギルドに行って納品したら、お部屋に入って鑑定のお仕事。慣れたものでディアもくつろいでるし、集中してやれば2時間ほどでノルマ分は終了。挨拶をしてギルドを出ると、お肉の焼けるいい匂いがしてきた。今日のご飯何かな。
〈リン、つけられてる。前に会った犬と猫のセットだ〉
〈ジゼルさんは狼なんだけど。まあいいや、こっち来る?〉
〈一定の距離をあけてついて来ている。〉
〈わかった。〉
被ってるフードの中でバレないように防御系アクセサリーを外す。腰に着けてるナイフも一緒に冒険者用カバンに入れて、カバンを神様カバンに入れたらもう私以外は取り出せない。ピアスはそのまま、リングは片手でも魔力を込められるように石を内側にして手を握る。
〈動いた、猫が横から、犬が前から来る。〉
〈おっけー〉
ディアは街中なので小さくなってもらって私の右側にいる。このサイズだと可愛いペット感がすごい。可愛い。
〈もうすぐ犬が横を通る。〉
〈はーい〉
少しは怖いけど、これが終われば落ち着いた生活が出来るようになるんだもん頑張る。
〈3…2…1…!?〉
「おわっ!」
予想外すぎてとんでもなく驚いた。左横を通り過ぎると思われたジゼルさんのローブに包まれた、と思った瞬間そのまま細い路地に向かってほん投げられた。普通に投げられたんですけど?扱い雑なんですけど?
路地にはリューリーさんが待ってて、これまた
「お前の主に伝えろ、子供は貴族の家で幸せに暮らせるから心配するなと。主となら会話が出来るんだろ?俺の言葉も理解できてるな?」
ガイトさんたちが契約してると思ってるから、彼らのもとに帰そうとしてるのか。残念契約者は私です。
〈リン、無事か〉
〈大丈夫だよ。猫なら大喜びするようなクッション付きの箱に入れられたけど。あと綺麗な腕輪着けられた。ディアは1回ガイトさんたちのところに戻ってから来てね。リングに魔力は通したから伝わってると思う〉
ローブに包まれた瞬間リングに魔力を通した。右手だったから力が入りすぎてしまった。ちょっと反省。
〈腕輪の鑑定をしろ〉
そっか、鑑定かんてい。
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名前 制御ブレスレット
特徴 魔力暴走の対策用ブレスレット。体内魔力を半分にまで減らす
備考 指定者以外の解除は不可能(自力じゃ取れないのよね)
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〈おーのー、体内の魔力を半分にするブレスレットらしい。自力じゃ取れない仕様だって。魔力暴走の対策ブレスレット着けられたってガイトさんたちに伝えて〉
〈くそが、絶対に助けるからな〉
〈お口が悪いですよ、ディアさん。落ち着いて〉
「おい、聞こえてるよな?主に伝えられるな?」
〈次はたっぷり遊んでやる。〉
「ほら、行け」
〈いい子に待ってろよ。〉
〈はーい。暴れちゃだめだよー〉
ディアが走ってお家に帰るのが何となく分かった。このやりとり、ほんの十数秒。拉致の仕事に慣れすぎてる。
「ごめんね、怖い思いさせちゃって。しばらく移動するから寝てた方がいいよ。小屋に着くまで少しだけ我慢してね」
リューリーさんが外から話しかけてくれる。木箱には隙間が空いてるけど外は見えない。空気があるから死ぬことはないけど。
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名前 魔道木箱(特別製)
特徴 認識阻害、音漏れ防止、魔法耐性の付与された高性能な木箱
備考 外からのみ開閉可能(内側からだと蓋が石のように重く感じる不思議仕様)
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うわぁなんだこれ。拉致専用の木箱じゃん、誰だよこんなん作ったやつ。どうせならトイレつけてくれたらよかったのに。
神様カバンから美味しいMPポーションを取り出して飲む。森で魔法を使って減ってたから、MAXまで回復させておきたい。といってもブレスレットのおかげで半分しか使えないけどね。あとはリングをカバンにしまって、箱の中全部にクリーンをかけて横になる。
「近くの街まで配達の依頼だ。中身は肉や果物、確認してくれ」
ガタゴトと近くで箱を開ける音がする。ここで声を出しても聞こえないんだよね、魔法付与ゴリゴリにされた木箱のせいで。普通の子どもだったら号泣すると思う。
「問題ない。行っていいぞ」
「どーも」
荷馬車に乗せられてるんだと思うんだけど、絶対に街道から外れたところ走ってる。ガッタンゴットンたまに体が浮くしぶつかって痛い。
その後もガタゴトと進むこと約3時間。時計に感謝しつつ箱から出されたのは、どこかの森の奥の小さな小屋だった。
「ここで休憩だ。明日の早朝に出発するから食ったら寝ろ」
ジゼルさんは小屋から出ていき、リューリーさんからパンとアポとオレンジをもらった。クリーンをかけたナイフで食べやすい大きさに切って食べていく。
「僕はここの見張りなんだけど、何もしないから少しでも寝てほしい。安心なんてできないと思うけど移動は疲れるから…。」
私がナイフで襲いかかるとか考えないのかな?なんでカバンもナイフも没収されないんだろう。
助かるから思考を放棄してリューリーさんと食べられるだけ食べ、横になる。彼はドアの前に座って目を閉じてる。
ディアがいない夜ってさみしい。
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