第4話:林檎さんの元カレ。

今夜も林檎さんは僕んちの店に飲みに来てくれていた。

たまに女子会とかもやってるようだけど、基本マンションに帰ってもひとりだから

僕んちの店にほぼ毎日来てる。

僕は嬉しいけど、林檎さんに会えるから。


母ちゃんに言われた、


「自分で気づいてないかもしれないけど」

「こっちから見てると、あんた林檎さんと話してる時は表情も目の色も違うよ」


って言われてから、あまり林檎さんに媚を売るのは控えるようにしていた。

その代わり父ちゃんがカウンター席に座ってる林檎さんに余計なことを言っていた。


「うちのせがれ、よろしくね林檎ちゃん」


「え?・・・あ、はい、って・・・」

「お父さん、ご存知だったんですか?、新ちゃんと私のこと」


「まあね・・・親が言うのもなんだけど・・・いいやつなんだよ

新一は・・・ 」


「分かってます・・・見てたら分かりますもん」

「新ちゃんは素直でいい子ですよ」


な、会話をしている時、店のドアが開いて男性客が入ってきた。


「いらっしゃいませ〜」


父ちゃんがその男を見て建前的挨拶をした。


その男性は連れもなく一人で入ってきて、店の中をキョロキョロ物色して

店の奥のカウンター席に座ってた林檎さんを見つけると、笑顔になって

彼女に近づいてきた。


「やっぱりここだった」

「マンションを訪ねたんだけど、留守してたから、もしかしてここかなって

思って・・・ 」


そう男性に言われて林檎さんは唖然とした顔で相手を見ていた。


「なんで?」

「なんで、あなたがここにいるのよ?」


僕は林檎さんの表情を見てなにか、ただ事じゃない空気感を感じた。


「話があるんだ・・・出ないか?」


「私には用はないけど・・・」

「冷たいな・・・悪かったと思ってるよ・・・あの時は俺もどうかしてたんだ」

「ね?話、聞いてよ」


「ここで揉めたら、お店に迷惑がかかるから外で話そ」


そう言って林檎さんは男を連れて店の外に出て行った。


父ちゃんは僕を見て、顎で行けって僕に合図した。

だから僕はすぐさま二人の後を追って店を出た。


すると林檎さんとその男がなにやら言い争いをしてるふうだった。


「だから・・・ヨリを戻そうって言ってるんだよ」


「なに、言ってるの・・・私を勝手にフっといて」

「今更、よく言うわ」


「だから、あの時はどうかしてたんだって」


「私たち、もう終わったって言ったでしょ」


「な・・・頼むから・・・一度は別れたけど、やっぱり君のことが

忘れられないんだ・・・」


「いつもそうだよね、自分の都合、勝手で動くんだから」

「いいから帰って、二度と私の前に顔を見せないで」

「もう話すことないから・・・」


「そんなこと言わないでさ」


男は林檎さんを逃がさないように、彼女の腕を強く掴んだ。


「痛いっ・・・なにするの、離して」


黙ってふたりの様子を見ていた僕は、たまらなくなって声をかけた。


「あの、なにしてるんですか・・・」

「林檎さん嫌がってるじゃないですか、掴んでる腕離してあげてください」


「なんだ、おまえ?・・・ああ、店のニイちゃんか?」

「おまえには関係ないことだよ、引っ込んでろ 」


「関係なくないです」


「はあ?」


「林檎さんは・・・林檎さんは僕の彼女です」

「僕の大事な恋人です!!」


つづく。

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