大型新人?
エジソンのような発明家にとって欠くことのできない資質の一つが好奇心ではないかと思う。そこを原点に粘り強く試行錯誤を繰り返し、我々の暮らしをより豊かで、便利なものへと導いてくれる。しかし、その一方で市井の人の好奇心はどうか。
あるとき、後輩の女性社員と雑談をしていた。大学を卒業したばかりのうら若い新入社員と言いたいところだが、とてつもなくアクが強かった。
「私、子どもの頃から気になりだすとどうしても確かめないと気が済まなくなるんですよね。」
「ふーん。」
あまり強い関心は持たなかったが、彼女は一人話しつづけた。
「父がヘビースモーカーで、年中ライターで煙草に火をつけるのを見てたら、急に火ってどんな匂いがするんだろうって思ったんです。で、一人のときに何度か試そうとしたんですけど、顔に近づけると熱いじゃないですか。だからさすがにためらっちゃって。でも、気になって気になってどうしようもなくなっちゃって、それでついに思い切って吸ってみたんです。」
「ほう、それで?」
俄然興味が湧いてきた。
「チリチリって。」
「チリチリ?」
「鼻の奥で鼻毛が燃えたんです。」
「危ねえな。それで、肝心の匂いは?」
「熱いだけでよくわかんなかったですよ。でも、火って危ないから吸っちゃいけないんだなってことだけはよくわかりました。」
これで終わるのかと思ったら、
「実は中学の時にもっとやらかしてて。」
もう話したくてうずうずしているのが伝わってきた。
彼女が所属していたソフトボール部は関東大会出場の常連チーム。だから、雨が降ってグランドで練習ができなくても休みにはならない。校舎の中を走ったり、筋力トレーニングで汗を流したりしていた。
そんなある日、ちょうど素振りを終えたところで部長の号令で休憩になった。そのとき持っていた金属バットを何気なく床に置くと立ったのだそうだ。
「それを見てたら、急にこのバット、飛び越せるかなって思ったんですよ。」
「どういうこと?」
「どうもこうも自分でもわかりません。でも、そうなるともう確かめてみないと気が済まないんですよ。相手がバットだから中途半端にやったら怪我をするじゃないですか。だから、全力で助走して思い切り踏み切ったんです。そうしたら……」
オチは予想した通りだった。あまりの痛みにうずくまって呻いていると、先輩が血相を変えて駆け寄ってきた。
「大丈夫、どうしたの?」
チームメイトがどんどん集まってきて、あっという間に人だかりができた。まさかの中心で、
「金属バットを飛び越し損ねて、肛門を強打しました。」とは口が裂けても言えない。
その日は練習をそれで切り上げて帰宅した。痛みをこらえてどうにかこうにか家にたどり着いたのはいいが、座ってなどいられない。タイの涅槃像のように患部に体重がかからないように体を横たえているしかなかった。そうやって一時間、二時間と過ごすうちに痛みは少しずつ治まっていく。そうなると今度は傷口がどうなっているか気になってしかたない。
「でも、見ようと思ってもじかには見られないじゃないですか。だから、手鏡を持ってきて確かめたんですよ。そうしたら、スタンプを押したみたいにグリップエンドの形のきれいな痣がポーンと……。」
何を聞かされてんだ?
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