第9話 天狗になるな

 無職になってからの4月5月6月の期間、転職活動の記憶がほとんどない。活動が日常化してしまったのかもしれないし、同じ結果しか出てこないので単に忘れている可能性もある。確実に覚えているのは、週に一回は面接を行い、友人にも一回以上は会っていたことである。

 友人Mは同じく転職を志す同志であった。彼は結局今でも同じ会社に居続けている。

彼と私とは同じ業種に就き、同じタイミングで転職を決意した。

そしたら向こうがすぐに決まりかけたのだ。軍事関係の職に内定をもらったのである。しかし、彼は納得のいっていない様子だった。

「どうしたね.めでたいじゃないか。」と私が言うと、煮え切らない声で「いやあ。」と否定する。

なんだコイツむかつくなあ、と思っているとあっという間に1ヶ月が過ぎた。そして彼は内定を取り消されてしまった。曰く、身内の経歴が引っかかったらしい。Mはやれやれといった具合に構えていたが、私はそれだけが原因じゃないだろうと思った。いくら外資で内定の返答に3ヶ月の猶予があったとて、1ヶ月も音信不通では心象が悪い。

 その後、彼に再び波がやってくるのは4ヶ月後のことだ。いつの間にか内定を2社からもらっていた。羨ましい、こっちは未だゼロでしかも無職になったのだ。

1社は他業界で年収が100万ほど下がる。もう1社は年収が1.5倍ほど上がるが同業種であり、しかも昇進の道はあまり見込まれないのだ。

そして彼はこの二つを蹴った。

何をしたいのか。

 波に乗ったまま彼は国内大手の企業へ応募を立て続けに送った。誰もが知ってる自動車会社や物流会社など、年収も20代半ばにして800万越えである。流れはうまく行っていたらしい。難関の書類選考を突破したり、面接に行けば求人内容を変更して再度応募させてもらったりといいことづくめだった。


 結果全て落ちた。

「俺は優柔不断。」らしい。

そうじゃないだろ。

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