第6話 明けない夜の心地よさ
無職になった最初の週末、正確にはまだ有休消化中だったが、私は高校時代の友人たち6人誘われ焼肉の食べ放題に来ていた。少しガタが外れたおバカな行為は、仕事と私生活を分ける上で必要な要素らしく、はっちゃけられる人ほどストレスに耐え、将来有望だと感じた。
悪友Eは皆が肉を焼いている最中にサンデーを5人前頼み、適当に配っていた。ケラケラと歯にかみながら「おいちいおいちい」と頬張っている。人数分頼め。
イケメンYはその中性的な顔立ちとは裏腹に、眼光鋭き周囲を見ている。そして食べきれないほどの炭水化物を頼み、気の弱そうな奴に押し付ける食えハラを日常的に行っていた。
国際人Aはのほほんとしながらも自らの性癖を茶化しながら、間接表現を用いて皆を笑わせた。高速で舌を出し入れするのが特技だ。
皆、それぞれ奇行に走りやすい。
食事を終え、夜の片田舎を車3台で走る。行き先は母校だ。途中、長い信号に捕まると先頭を走っていたEが車から降りてすぐ後ろにいた私たちに煽り運転の加害者のようなモノマネをし出した。声を出さずに無音で行うところが芸が細かい。車内にいた私たち3人は「シラフでこれかよ。」と笑い合った。
高校は私の原点である。そこに行く時はいつも何かに悩んでいるのだ。前回は休日に、今回は誰もいなくなった深夜に。
敷地へは入れないので外観を舐め回すようにグルリと何周かする。集団登下校のようだ。増設された校舎を見て自分たちが在籍していた時にこれがあったらどんなによかったか、文句を言いながら明かりのない暗闇を酔っ払いのように歩いた。
気が済んで再びドライブし、近くのコンビニへと立ち寄った。駐車場に集まり一台に全員が乗り込んで時間をただただ潰すのだ。一時間、二時間が平気で過ぎ去った。
イケメンYは私が会社を辞めたことについて触れた。
「おめでとう。よく踏み切ったね。」
普通の楽しみがここにはあった。ようやくその普通を噛み締められるところまで自分は来たのだと感じた。
来週は面接が3件もある。真面目に取り組まなければならないが、まずは夜を楽しみかたった。明けてほしくない夜がまた一つ増えたのだ。
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