第5話 ニートの虚無
時は飛んで無職生活がスタートした。毎朝連続テレビ小説を最後まで見ることができるし何より晴天を目一杯拝めた。不思議なことにいくらでも寝ていいはずなのに、朝寝てしまうことが惜しく感じた。
ふと、この時自分は何者でもない存在なのだと思った。何者にもなれない虚無感、大企業の企業戦士という肩書きをなくし、中途半端に残した自我のせいで、何色にも染まっていない自由人ができ上がってしまった。
友達もいない。いや、いるにはいるが、会話には大きく踏み込めないのだ。心を開き切っていないのだろうか。下ネタに反応しないからだろうか。
本来人というのは、日常的に人と接し、課題を持ち悩み、解決することで人間力が養われるものだと私は思っている。学生ならば、残念ながら学業以外の事柄で成長し、社会人なら仕事がその大半を占める。社会人は学生よりも簡単かもしれない。仕事という課題が常に身近にあるからだ。
問題は、峠を越した時の変化というものは本人には一切わからない点である。自ら変化を求め貪欲に動けば、自分は変わったと錯覚してしまう。なのでこればっかりは第三者が判断してくれるのを機が熟すまで待たなければならない。今変わろう、今日変わろうではないのだ。それには大きな下準備が必要であり、下処理をせずに人は成長できないと、改めて思った。
私は求人サイトを見ながら近所のハローワークへ足を運んだ。
川底の小石がゆっくりと流れに身を任せて動き出したような、そんな小さな心の変化が起こったような気がした。
これは錯覚ではない。体験録だから。
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