第4話 甘い誘惑

私の転職活動期間は一年とちょっとという少し長めだった。この期間は自身の暗黒時代とも受け取れ、自身の弱さを認識した今思えば貴重な時期だったと思う。


 転職サイトによればそのソースには多少の差異はあれど、転職に費やす期間は平均で3から6ヶ月らしい。そう考えると私の期間は結構長い。一年以上活動する人間は多くなく、ほとんどは諦めてしまうそうだ。なぜ自分はそんなに時間がかかってしまうのか、当時はすごく考えた。改善すべき点は多々あった。しかしそれにしても長すぎる。

最後の3ヶ月は無職になっていたわけだし。

もしかしたら天が私に授けた自分探しの期間だったのかもしれない。

 話を戻して一年に及ぶ転職期間は客観的に見てどうか。単純な話だが、期間は長ければ長いほど良いというわけではない。人によっては数日で決まり、決まった知人は即東南アジアへ渡った。私の数十分で決まるところであった。

行き先はタイ。

給料はドル払いで当時のレートで月収約60万円以上。下手したら英中国語しか取り柄のない私でも年収1000万プレイヤーになれるところだった。

支払いはビットコインである。

この時ついていったら酒池肉林に溺れ、人格を破綻させていたかもしれない。

一日置いて断った。周りからは英断だと言われた。

 この時期に私は就職先を本格的に外資系へとシフトした。前職、日経大手物流企業での経験から、裁量を持ち、海外へ踏み込んだ仕事をするには企業は同程度の規模でないと難しいと思った。しかし、それには中途採用は狭き門だった。社内文化や人間関係、不透明な評価など弊害もある。また、総合職でプロパーな人材がまだ好まれていた時だったため、途中から入るには厳しいものがあった。日系でも上記に当たらない企業は存在する。その場合、ピンポイントでその企業攻めねばならない。そうするには実力もさることながら、人脈も必須だった。

そんなものなど持ち合わせていなかった。親や知り合いに頼らず自分なりに人脈を構成していくには今までとは違う自分を作らなければなければならない。SNSやデジタル媒体を駆使し、受動的になりすぎないように、自分を売り込む術を少しづつ学んでいくしか方法がなかった。それはゴールの見えない営業のようなものだったが、結果的にそれはいい方向へ自分を導いたのかもしれない。

 

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