第3話 お久しぶり
転職先に関することで特筆すべき点はその働き方である。日系企業から外資系へと変わり、その余裕さにド肝を抜かれた。
再就職前、知人友人に外資へ行くことにしたと報告すると皆「おめでとう、頑張ってね」と祝ってくれた。しかしその言葉の意味は大きく二つに分かれていたと思う。
一つはその世界の厳しさである。世間一般でよく言われているノルマや首切りに関しての心配と、次はないぞ、といった警告に似た言葉だった。特に飲み友社長達は「これからだぞ。上に上がるも、下に沈むも君次第だ。」といった表情でどこか一歩引いた、観察するような眼差しであった。もう一方の声は同じく外資系の人間からで「キャリアを築いて頑張れよ。」といった前向きな言葉だった。
実際に働いてみると、私の職場は後者の声が正しかった。それは先に述べた余裕さにつながる。気の持ちようは前職とは比べ物にならないほど軽かった。例えてみると、乾いた雑巾を力の限り、もう一歩先の力を込めて水を絞り出したような、無理やり出した余裕さではなく、日常のちょっとした時にポンと生まれるようなものであった。例えば、どんなに疲れていても満員電車で席を譲ろうとする気持ち、または、買い物をした時にできるお釣りを募金箱に入れようとする余力が芽生えた。
これは日系、外資に問わず職場の人間関係が大きく影響している。それに加え、新しい技術、AIの台頭を受け入れどのように使っていくか考える姿勢が今の職場にはあった。彼らの根幹には人が仕事をする限り、人と人のつながり、個人の価値、が目に見えない数値や成果につながるという、総合的な判断力があった。細かな部分には注視しすぎず、ミクロを改善するにはどのようにマクロを動かし、労働者に還元するかを常に考えている。小さな箇所を治すため、舵を大きく動かし、そのための連絡を欠かさない。報連相の実戦である。しかもこれが海を超えた地域と行うというのだから驚きだ。
そしてどんな成果も反映されるのだ。評価基準がしっかりとしている。反面人によっては一から十まできっちり計画を立てても期待より評価されないと不満を言うものもいるが、そこは会社や上司と価値観の相違で説明ができてしまう。正当な評価という部分が外資にはあって日系には足りない点、つまりは勝つことのできないポイントだとここ数ヶ月感じた。
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