閑話2

【BOG実況】バレンタインですね

【BOG実況】バレンタインですね




 配信を付けて開口一番、俺は視聴者たちに質問を投げかけた。


「突然ですが皆さん、チョコはもらったでしょうか?」


 ・なんでそんなこと言うの? 

 ・おい、あまり無礼るなよ

 ・ポタクさんはもらったんですか? (クロスカウンター)

 ・すまん、もらった


 ああ、やはり画面の向こうにいるのはバレンタインに涙を飲んだ同志たちだ。

 血気盛んなコメントを確認して、俺は本題に入る。


「そんなチョコを貰えない可哀想な皆さんに朗報です! なんと今、BOGをやると! チョコがもらえるぞ!」


 ・おおおおおおおお! 

 ・イエエエエエエエ! 

 ・ああ、安心した……

 ・チョコ助かる



 期間限定イベント、「甘いカオリと熱いオモイ!」

 2月14日を目途に開催されたこのイベントでは、所持している纏姫からチョコをもらうストーリーを読むことができるのだ。


「イベントストーリーの方は終わったので、今日は個別のチョコもらっていきます!」


 とりあえずゲームを起動してホーム画面に行く。

 BOGでは、ホーム画面にて所持している纏姫が待機していてくれる。

 突っつけば可愛らしいボイスが聞けるので、お気に入りの子をローテするのがプレイヤーの嗜みだ。


 今日の担当はブライダルバージョンの噓葺ライカだ。

 花嫁衣裳を着せられた彼女はデフォルトで不機嫌そうだ。

 ちんまりした体とブライダルドレスはあまりに不釣り合いで、不思議な魅力がある。


 さらに、この時期はバレンタインの特別ボイスが聞ける。

 ライカの頭をタップ。



『なんだお前。そんなに見てもチョコはやらんぞ……やらんっつってんだろ!』



「ああー、いい……」


 ・オッサンは今日もツンツンだなぁ

 ・そう言いつつも、ってやつですねこれは


 平常運行な彼女に癒されつつも続いてイベント画面へ。

 最初にチョコをもらう相手は、最近メインストーリーで活躍した希望ヶ丘ヒバリちゃんにした。



 ◇


「アンカー君、おはよー!」


 元気な彼女の声に振り返ると、満面の笑みが視界いっぱいに映った。

 彼女がニコニコしているのはいつものことだが、今日は特別上機嫌そうだ。


「アンカー君! 当然、今日が何の日か分かってるよね?」


 バレンタインデーだよね、と返すと、彼女はさらに笑顔を深める。


「ご明察! ということで、私からチョコのプレゼントだよ! 喜びたまえ!」


 彼女から渡されたチョコを見る。

 オーソドックスな手作りチョコだ。


 ハートに型取られたチョコが、透明な包装に包まれている。


 よく見れば、チョコの輪郭が少し歪んでいる。

 手作り特有の特徴から彼女の苦労が読み取れて微笑ましい気持ちになる。


 ありがとう、と素直に感謝を伝えると、彼女はすぐに頬を赤くした。


「えへへ、そんな真っ直ぐ言われると照れるね。……勝手に不安になってたのバカみたい」


 ちょっとだけ暗い顔をした彼女が小さく呟く。

 どうやら、明るい顔の下で彼女なりに緊張していたらしい。


 嬉しいよ、ありがとう。

 重ねて感謝を伝えると、紅潮していた頬がさらに赤くなってしまった。


「……あ、じゃ、じゃあ、後で味の感想教えてね! それでは、さらばだー!」


 どうやら、恥ずかしさがキャパシティーオーバーしてしまったらしい。

 ヒバリは赤くなった顔を隠すように後ろを向くと、ぴゅう、と去って行ってしまった。




 ・ヒバリの手作りチョコ

 手作りにしてはかなり完成度の高いチョコ。元から料理など得意な彼女が最高のチョコを作るためにあれこれと試行錯誤した結果。

 人に喜んでもらうのが好きな彼女にとって、バレンタインは特別気合の入る日となった。

 オーソドックスなハートマークには彼女の真っ直ぐな想いが籠められている。





「え、めっちゃいい! なんやかんやあって素直にデレてくれるヒバリいい!」


 ・いい……

 ・二章を終えた後だと尚いいよね……


「なんかこう、明るいだけじやないってこと知った後だとヒバリちゃんが普通に明るく振る舞ってるだけで安心するんですよね! 日常に戻ってきた感? とにかく、俺は幸せそうなヒバリちゃんを無事に見れて満足です!」


 ・わかる

 ・出たわねポタクの早口

 ・高速詠唱A

 ・ポタクさん二章の回想にキレ散らかしてたからな……


「よし、どんどんいきましょう! 俺にチョコをあげたい女の子がまだいっぱい待っている! いやあ、モテる男はつらいぜ!」


「は?」というコメントが連続して流れてくるのはスルー。

 うるせえ、俺だって世迷言だって分かってんだよ! 


 画面をスワイプして次のストーリーを再生する。


「じゃあ次はライカの番ですね! さて、ツンデレなのかツンツンなのか分からないコイツはまともなチョコをくれるんでしょうか?」



 ◇



 ライカからいつものごとく校舎裏に呼び出された。きっと例の場所で煙草をふかして待っていることだろう。

 校内はバレンタインの浮ついた空気が充満していたが、校舎裏は人気がなく寂しい。


「よう、モテモテだったな」


 例の如く煙草を吸っているライカが声をかけてくる。

 からかうような言葉。

 どうやらチョコをもらっているところを見られたらしい。


「チョコ1つでキャッキャッできるのは若者の特権だ。今のうちに楽しんでおけよ」


 大人ぶった言葉を吐いた彼女は煙草を灰皿に押し付けてから捨てる。

 残った煙がツンと鼻についた。


 両手を自由にしたライカは、カバンから何かを取り出した。


「ほら、くれてやる」


 差し出されたのは大人びたデザインの紙袋だった。

 チョコが入っているにしてはやや大きいそれを両手で受け取る。

 これは何、と問いかけると、彼女はまた新しい煙草に火を付けながら笑った。


「中を開けてみろ。日頃の感謝ってやつだ。お前にはそれなりに世話になったし迷惑もかけた。……それに、こうやって高いもの渡しておけばホワイトデーに高いもの返してくれるだろ?」


 にやりと笑いながら言った言葉が照れ隠しなのか、判別はつかなかった。

 紙袋の中を見る。

 高そうな包装紙に包まれたチョコらしきもの。

 そしてもう1つはワイン、に見えた。


「ノンアルコールワインだ。チョコとワインは結構合う。将来の勉強ってやつだよ」


 ありがとう、と口にすると、彼女は煙草を咥えたままモゴモゴと言った。


「なに、大人の嗜みを教えてやるのも大人の役目だからな。ま、本物が飲みに行けるようになったら良いバーでも誘ってやるよ」


 そう言って、彼女はこちらから顔を背けて煙を吐き出した。



 ・ライカのチョコとワイン

 洒落た紙袋の中に、ノンアルコールの赤ワインとダークチョコレートが入っている。

 チョコレートは既製品のシンプルなものだが、値段はそれなりにする。

 ちょっとオトナになったような気分に浸れるセット。




「ら、ライカがデレたーっ!?」


 ・もちつけ、そいつ煙草吸ってただけだぞ

 ・ありがとう……

 ・大人ぶったプレゼントすき


「てかさっきしれっと飲みの約束しましたよね? 大人になってからも当たり前のように一緒にいる気でいやがる……」


 ・卑しかオッサンばい……

 ・もうこれ告白だろ

 ・おい、お前はバーに入れるのか? 


「いやあ、称賛するべきは声優さんの演技だと思うんですけどね、ライカのデレてるようなデレてないような微妙な反応がめちゃくちゃいいんですよね! 煙草咥えたままちょっとモゴモゴ喋るの、聞きました!? 照れてるんだか口塞がってるんだかよく分からない塩梅! これぞプロの技といいますか、忙しい中バレンタインボイスの収録のために時間を取ってくれた中の人に感謝しかないというか……いやあ、最高です!」


 ・高速詠唱(二度目)

 ・熱高くて好き

 ・製作者への感謝を忘れないポタクの鑑


「クソッ、待ってろよBOG運営! お前らが魅力的なヒロインを生み出す限り、俺は課金をやめないからなーっ!」


 ・サ終したらゆるさない……! 

 ・ATM宣言


 楽しくなってきた俺は、それから次々とエピソードを再生しはじめた。

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