第12話【BOG実況】メインストーリー進めます!
俺はゲームを起動しているスマホ画面から目を離すと、コメント欄の向こう側にいるみんなに話しかけた。
「いやあ、なかなか混迷してきましたね。メインストーリー第一章もそろそろラストですかね? なんかどんどん不穏な気配が増してきてますけど」
・ハヅキの過去が想像以上に重かった
・ライカの内面が読めなくて怖い
・ハヅキの実家ゴミすぎない?
「分かります。ハヅキちゃんの過去編思ったより重かった。それから、僕の”嫁”ライカの動向が分からなくなってきましたね」
・おい……
・なんだぁてめえ……
・ロリと結婚したら犯罪ですよ
「いや、ライカは年齢不詳なんで! 結婚しても煙草吸ってもセーフ!」
・絵面はアウト
・世間は許してくれませんよ
・まあプロフィールですら実年齢明かされないからな……ガチでアラサーかもしれん
「そうそう。セーフの可能性があるならセーフ! ってことでね、謎めいたヒロイン、ライカの考察をしたいんですけど……まず、分かってる情報を整理しましょうか」
僕は先ほどまでじっくり読んでいたストーリーを思い出しながら話した。
「まず、ライカはハヅキと同じ部隊で過去活動していた。その後、経緯は分からないけど現在のフォックス小隊を設立した。正直者で不器用なハヅキのために、ライカは個性派だがハヅキの居場所になるような纏姫を揃えた。それが現在主人公君が指揮することになっているフォックス小隊ですね。フォックスは狐。嘘つきのライカが名付け親だとしたらかなりしっくりきます」
・そうそう
・考察の時だけIQが上がるポタクさん好き
・普段からその頭脳発揮してもろて
「本編時間軸では、長い付き合いのハヅキはライカが何か大きなことを一人でやろうとしてることを悟る。でも正直者のハヅキはライカの嘘を見抜けないから、嘘を見抜けると言う主人公君に託したって感じですね!」
・初見に優しい解説助かる
・これは主人公の見せ場ですね……
・ライカの危なっかしさを見ると急に凄いことやって勝手に死んでいきそうで怖い
・未プレイ僕、続きの実況を見るのがちょっと怖い
「分かります! 昨今のソシャゲではヒロインが死ぬ展開とか普通にありますからね。このダークな世界観から言ってバッタリ死んでハヅキが曇ってもおかしくないですからね。……ウッ、想像したら吐き気が」
・ポタクさん、しっかりするんだ!
・※彼は以前やった鬱ゲーで大ダメージを食らっています
「でも、主人公君も目に見えて頼もしくなりましたからね! デートイベントを経てライカの解像度もだいぶ高くなっただろうし! 多分助けてくれるでしょう! ……いや、デートイベも後の不穏なモノローグ見た後だと不安だな……あれはもしかしてライカの苦しみは誰も助けられないという示唆では……?」
・ポタクさん……持病が……!
・手、震えてますよ
・誰よりもバッドエンドを怖がる男
「というわけで、さっそくストーリーの続きを……と言いたいところですが、今日はヴィクトリアの個別ストーリーをやります」
・にげるな たたかえ
・メインストーリーから眼を逸らすな
・早く続きを見せろ
・コイツいつもサブストーリーやってんな
「し、仕方ないじゃないですか! 誰にだって心の準備くらい必要なんですよ! いいから中二病少女の魅力を堪能するぞ同志たち! 好感度2ストーリーだ!」
・ウオーーー!
・いくぞおおおおおお!
・勢いで誤魔化したな
〈TIPS〉ヴィクトリア・フォン・レオノーラはカッコつけるためだけに哲学、神話、民俗学などについて良く調べています。
僕が放課後ヴィクトリアに呼び出されたのは屋上だった。
屋上へと続く扉を開けると、フェンス越しに風景を眺める彼女の姿が映った。
屋上にはヴィクトリアの他に誰もいないらしい。
眼帯に隠れていない片目は憂いを帯びている。見事な金髪がサラサラと風に揺れていた。
「お待たせ、ヴィクトリア。今日は一人?」
「ええ。これは
謎めいた笑みで応えると、彼女はまた校舎の下を見下ろした。
「見える?」
「……えっと、何が?」
彼女と同じように下を見るが、普通に幻想高校が見えるだけだった。
「背徳の香り。虚偽の煙。月夜に浮かぶ灯。それらが私の五感を刺激するせいで、胸騒ぎが止まらないの。いい加減、出所をハッキリさせたい」
「あー、うん、分かるよ。本当それね」
いや、何も分からない……。
彼女はいったい何が言いたいんだろう。ヒバリの通訳が切実に欲しい。
「──単刀直入に言うわ」
「うん」
最初からそうしてくれ。
「今宵、月が満ちる。煌々と夜を照らす光は隠された真実を照らし出す。たとえ全てを覆い隠す闇であっても、唯一無二の衛星から放たれる輝きからは逃れられないの」
「うん、結局何が言いたいの?」
いつになったら本題に入るんだ。
「──単刀直入に言うわ」
「それはさっきも聞いたね」
「
「……えっ、夜中の2時に出かけるの?」
僕が聞き返すと、ヴィクトリアは「ようやく分かったか」と満足げな表情で頷いた。
◇
ヴィクトリアの言う通り、今日は本当に満月だった。
午前二時の空に輝く月は綺麗だが、できればベッドに帰りたかった。
「来たわね、
ヴィクトリアの不敵な笑みが映った。彼女は午前二時でも元気らしい。むしろ昼間より元気に見える。
「風が私に教えてくれるの。今日こそ真実を詳らかにできる。さあ、行くわよ」
彼女はそう言って身を翻すと、校舎裏へとゆっくりと歩いて行った。
辛うじて電灯のあった表通りと違い、校舎裏は真っ暗だった。いくら満月と言っても、ほとんど何も見えない。
そんな中にあっても、ヴィクトリアは堂々とした足取りで進んでいた。
「何をしているの
「ヴィクトリア、足元とか見えてるの?」
「フフ、肉眼で捉えるかどうかがそれほど重要かしら。貴方も"イデア"を捉えられれば、私と同じ位階まで来れるかもね」
こちらを振り返り、暗闇でもよくわかる綺麗なドヤ顔を見せてくれたヴィクトリア。
彼女はまた前を向いて歩き出すと、足元の石に躓いた。
「ヒァ!?」
「言わんこっちゃない……」
なんとなく予想していた僕は、彼女の手を取って体を支える。柔らかい手の感触にちょっと鼓動が早くなる。
「あ、ありがとう……」
「……」
素直に礼を言うヴィクトリアが珍しくて動揺してしまう。
気まずい空気が流れる。ヴィクトリアといる時にこんな感じになることはあまりないので、なんと言ったらいいか分からない。
「……あ! 観測者あれよ! 月夜に蠢く謎の影!」
何やら興奮した様子で彼女が指さした方を見ると、確かに闇の向こうで何かが動いているのが感じ取れた。おそらく、誰かいる。
「邪眼姫の名において、真実を暴いてやるわ!」
「ちょ、ヴィクトリア! 走ったりしたらまた転ぶって!」
慌てて制止すると、彼女は慎重に足元を確認しながら早足で歩きだした。
それを見ながら僕は、先ほど見た光景に思考を巡らした。
深夜二時に人気のない校舎裏に来る人間は、いったい何をしようとしているのだろう。
そう思いながら闇の先を見ていると、一瞬月明かりの先の景色が見えた。
その影は小学生か中学生くらいの背丈で、白髪で、死んだ目をしてポケットをゴソゴソしていた。
「クソ、ダメだ眠れねえ……吸わないと……吸わないとダメだ……!」
噓葺ライカが深夜二時の校舎裏で煙草を吸おうとしていた。
白髪をガシガシ掻いてポケットを探っているが、手が震えてなかなか目的のものを出せないらしい。
一瞬見えただけでも、かなりヤバい奴だった。
「あ、ヴィクトリア、やっぱりやめよう。なしなし! 帰ろう!」
後ろからヴィクトリアの手をがっしり掴むと、僕はまくしたてた。
こんな光景を、ニコチン中毒者の哀しい末路を純朴な彼女に見せるわけにはいかない……!
「観測者、何を言っているの! せっかくの真実を暴くチャンスだと言うのに、みすみす見逃すの!?」
「あ、あれ? ヴィクトリアにはまさか、"視えて"ないの?」
「……なに?」
僕は恥ずかしさを押し殺して、己の中の中二を解放した。
「イデアを観測するヴィクトリアなら、もう全部分かっていると思っていたけど。──ねえ、肉眼で視るのってそんなに大事かな」
ヴィクトリアは片目を大きく目を開くと、すかさず虚勢を張り出した。
「い、いいえ! もちろん邪眼を持つ私にはすべて分かっていたわ! ただ
目論見通り、ヴィクトリアは部屋に帰ることにしたようだ。
僕はライカの秘密を守り通せたことに胸をなでおろすと、彼女の背中を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます