第40話 凡才
放課後。体育館裏の桜の
まずは俺、
そして
灰色髪の少女、
以上の三人であった。
俺は、辻さんに読んでもらった、その短編小説を、現在美冬に読んでもらっている。
内心には、いろいろな気持ちがあった。
どんな心境で読んでいるのだろうか?
この小説を書いた
美冬は、今この物語に目を通して、どのような感情を抱いているのだろうか?
この作品に込められたメッセージを、どのような視点から、受け取るのだろうか?
美冬のお姉さんの人物像と、
そんな主人公が、筆を握り続けた事で幸せになるお話。
そんな物語を読んで、美冬は何を思うのだろうか?
――自分の姉の現状と比較して、現実的に考えて、こんな
――テーマや内容が、明らかに美冬に向けられ過ぎていて、
――大好きな姉の不幸話が、物語の材料にされたと感じて、怒りを抱くのかもしれない。
そういう、負の感情が生まれる可能性も、
でも、別の可能性だってある。
ポジティブな感情を生み出す可能性も、あるわけだ。
当然美冬には、この小説を読み終わった後に、そんなポジティブな感情に包まれて欲しい。
それは、ただの理想かもしれない。
でも、理想を形に変えれるのが、創作だと思っている。
美冬が最終的に、どのような感想を持とうが、それは本人の自由なのだから、俺はそれを受け止めるしかない。
受け止める感情が、俺の狙い通りであることを祈る。それしかできないのだった。
それが天才に限った話ではないと、彼女に理解してほしい。
「…………」
しかし、その目的が果たせれるかどうかは、美冬の受け取り方によって、大きく左右される。読者の抱く感想は、その時の読者の気分によっても、変化するものだ。
運が悪ければ、残念な結果になるし。
運が良ければ、今日はハッピーエンドになるかもしれないし。
そもそもが運がどうこう以前に、美冬が純粋に
「…………」
辻さんに読んでもらっていた時もそうだったが、沈黙が非常に
てか――と思う。
――美冬にしては、読む時間が長い気がする。
違和感を感じた。
彼女は、
実際に、300ページのライトノベルを1時間で
そんな彼女が、たかが1万6500文字の短編小説の原稿に目を通して、もう25分の時間が経っていた。
もしかしてだが、と思う。
――繰り返しで、読んでいるのか……?
だとしたら、それはなぜだろうか? と疑問が浮かぶ。
彼女なりに、この小説の内容を
……
美冬が小説を読んで、35分が
彼女は、ようやく顔を上げる。
そして、俺に言った。
「小説の感想になるけどね」
「あ、ああ」
「まずは、文字数。2万文字の割には、文字数が少ない気がする。たぶんだけど、1万6000文字くらいだよね?」
「…………」
パソコンのディスプレイみたく文字数が表示されている訳でも無いのに、なぜ彼女は正確な文字数が分かるのだろう?
だいたい当たっていた。
その能力は純粋に凄いな、と思った。
「……その通りだ」
「次、文章が
「…………は、はい」
「あと、流れも不自然が過ぎる。前の展開と次の展開がくっついているだけで、つなぎ目が無いからか、
「な、なるほど……です」
「うん」
「…………」
何とも……低評価の連続なのだった。
まあ、それは当然の話なのかもしれない。
主人公のモデル・テーマの内容こそは、
そもそもが、スランプ状態で書いた、ぐちゃぐちゃ
小説としての形が成り立っているのかすらも、あやしいレベルの作品。
そのような小説モドキを、美冬が認めるのかと言われれば……。
認めないと言われても、不思議では無いのだった。
「ねえ、
「……なんだ?」
「一つ、聞きたいことがあるんだけど」
「聞きたいこと?」
やはり、この小説の題材についてだろうか?
主人公の人物像が自分のお姉ちゃんその者なのだ。気になるのは、当たり前だった。
そう俺は予想していたものの、彼女の質問内容は全く違っていた。
「ラノベ研究部? ……の部員は、何人必要だって、言っていたっけ?」
「それは……」
なぜ、今更そんなことを聞くのだろう?
一応、答えはするが……。
「三人だ」
「そ、三人……」
そして、彼女は言った。
「そしたら、早く先生に報告しに行った方が良いんじゃないの?」
「…………」
…………え?
俺は、美冬に聞いた。
「それは、つまり……」
美冬は、
「航大の作家の命が
「…………そうか」
俺は、美冬に言った。
「ありがとう」
と。
美冬は、声を発する。
「それと」
「それと?」
「航大の小説をゴミって言ったこと、ごめんなさい……」
「そういえば……」
それは、辻さんが美冬にお願いしていた事だった。
俺の小説を面白いと思えた時は、今まで俺の小説をゴミと呼んでいた事を
俺は、辻さんへ顔を向ける。
辻さんは、
「板橋くん。やったね……!」
◇
私――
「私、ちょろいなー……」
なんて、自分で自分に思うのだ。
だって、そうだろう。
あんな、あからさまに私の為だけに書かれたような小説を読んで、彼の小説を認めてしまうなんて。今までアンチを続けてきて、あの短編小説一本だけで首を縦に振るなんて。
……うん。我ながら、本当にちょろいな。
航大が私に見せた短編小説は、明らかに私のお姉ちゃんのもしかしたらのストーリーだった。存在しない
最後に主人公――あるいはお姉ちゃん――あるいは
――私、小説家になって良かった。
と。
そのセリフを読んで、私は願ってしまった。
お姉ちゃんも、こんなふうになれたらな、と。
でも、現実を見ればどうだ?
私のお姉ちゃんは引きこもりであり、フィクションのようには、幸せになれていない。幸福を
私は、現実ってそんなものだ、と考える。
「でも……」
でも、航大……。
あなたが、凡人でも
私に、それを見せて欲しい――と思う。
「凡人が天才と同じ場所までたどり
そう、
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