第31話 作家とは?
私は、
でも、検討くらいはついている。
一応、幼なじみだし、心当たりや予想候補くらいはある。
でも、そんなことは、どうでもいい。
別にどこへ向かおうが、歩き過ぎなければ、どこでも構わない。
体力が
「俺が考えるに、なんだが」
「航大が考えるに?」
「たぶん、
「…………」
それは、妹の私が一番理解していることだ。
しかし、その事は口に出さず、彼へその考えに至った理由を聞く。
「なぜ、そう思ったわけ?」
「引きこもっているからだ」
「……つまり?」
「筆を折ってしまえば、
「それは、分からない。人間、
「まあ、分かる。本当に、社会に生きることを諦めた可能性もある。でも、それ以外に、引きこもる理由があるとすれば。それは、不安に押しつぶされながらも、筆をしぶとく握り続けているからなんじゃないのか?」
「……だったら、バカみたいだ。うちのお姉ちゃんは」
「作家は、きっとそういう生き物なんだ」
「そういう生き物?」
「作家はみんな、バカなんだよ」
「……それを言って、他の作家に殺されない?」
「おそらくだ、おそらく」
「保険ばかり、かける人」
「人間は――」
「――そういう生き物?」
「…………ああ、そうなんだ」
航大は、曇り空の下で言う。
「でもきっと、やっぱり作家ってバカの集まりなんだ。たかが文字に魂を売ってるような集団だ。それはバカだ。映像娯楽が普及している世の中に、真面目に文字で対抗しようとしている集団だ。バカみたいな考えだ。別に楽しいわけでもないのに、執筆をしんどいしんどいって
「…………」
だいぶ酷いことを言う、私の幼なじみである。
プライドの高い作家なら怒りそうだ。
いや、プライドが高くない作家に怒られても、当然といえる話だった。
てか、と思う。
「なんで」
「うん?」
「最後の方に、楽しくない執筆をしている的なことを言っていたけど、じゃあなんで筆を握り続けているわけ? しんどいなら、やめればいい。それだけの話じゃない」
そう、それだけの話だ。
私のお姉ちゃんだってそう。
辛い想いをしてまで、小説を書く必要はあるのだろうか?
才能も無ければ、楽しさも無い、小説制作を続ける意味なんて、どこにあると言うんだ?
私には、その意図が全く分からない。
「
「⋯⋯」
「俺はさっきも言ったが、アニメ化の原作が作りたくて、小説を書き始めた。自分の夢を叶えられる媒体が小説だったってだけの話なんだ。だから俺は、夢を叶えたくて小説を書き続けている。他にも、人それぞれに理由や信念があると思う。有名人になってちやほやされたいからであったり、純粋に小説を書きたい人もいたり、小説で生活することに憧れている人もいたり、人生に
「…………確かに、バカだ」
「そうだ、バカなんだ」
航大もお姉ちゃんも、バカだ。
思う。
やっぱり、私は認められない。
夢を持つことは素晴らしいし、小説を書くこと自体も、非常に素晴らしいことだと思う。
でも、人には適正があって。
適正が無いのに、周囲を巻き込んで、しかも本人は楽しいと思えていないことを、ひたすらにやり続けている。
バカに付き合わされる私の身にもなってほしい。
二人いれば、苦労も二倍だ。
不安だって二倍だ。
私は、決めた。
航大の筆を、折ろう。折ってやろう。
筆を折ってお
もしかしたら、才能の無い航大でも……。
なんだ、私。
変な期待をしている自分が、どこかにいた。
バカみたいなことを考えている私が、どこかにいた。
バカがうつったか?
二人のバカにも囲まれれば、うつるかもしれない。
今の気持ちは、ただの気の迷いとでも捉えておこう。
だって、そうじゃないか。
私は、彼の小説を読んで、感じるものが何もなかった。
確かに、小説としての形は、よくできている方だと思ったが。
それしか無かった。
普通、小説を読んでいると、いくら面白くなくても、どこかしらに可能性は感じるものだ。
話は面白くないけど、キャラクターに可能性を感じたり。
題材に魅力を感じたり。
ウケの良くない作風というだけであって、逆にストーリーに可能性を感じたり。
そういう要素が、航大の小説からは、何一つとして感じられない。本当に、執筆の勉強で得た能力しか、反映されていないような作品だ。
そういう意味では、私のお姉ちゃんの書いた小説の方がまだマシだと言える。お姉ちゃんの小説からは、キャラクターを大事にしていることが、よく伝わるからだ。
航大は、そういう意味では、珍しいとさえ思えた。
こんなに、作家に適正がない人もいないのではないか? というレベル。
そんな航大が……。
――そんな航大が、この才能が
そう。
彼は、作家は続けれても、夢は叶えられない。
アニメ化の原作なんて、飛びぬけて人気にならないと、できないことだ。
そんな夢を、航大の小説で叶えられるなんて、絶対にできない。
叶えられない夢で人生を潰すなんて、バカげている。
改めて、決心した。
――私は、彼の筆を絶対に折ってみせよう。
だから、アンチを続ける。
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