第21話 この先

 つじさんと別れて、帰宅する。

 家に着き、手を洗ったら、自分の部屋に入室した。

 言わずもがな、短編小説の制作に取りかかるのだ。

 どういうジャンルで、どのようなテーマの作品を作り上げるか?

 思考をって、アイデア候補を、パソコンに入力していく作業からの始まりだ。


 その日の晩御飯ばんごはんは、夜十時になった。

 キーボードから、なかなか手を離せなかったからである。

 しかし、難点なんてんだったのは、良いアイデアが頭に思い浮かばなかったから、晩御飯が遅くなったということ。キーボードに指がはりついていたのは、キリの良い、自身の納得ができるタイミングが無かったからなのだ。


 やはり、物事ものごとは俺の思い通りに進んでくれない。

 そんな、簡単ななかではない。


 ――先が見えないな……。


 その日は、マイナス思考を抱えながら、布団ふとんに入った。

 次の日が訪れる。

 朝の登校時間も、ひたすら小説のことばかりを考える。


「…………」


 しかし、考えれば考える程ドツボにはまっていく感覚がおそう。

 これだ! という要素が脳内で生成せいせいしてくれない。

 今までと同じやり方で執筆するならば、ふでは進むのだが、美冬みふゆを満足させなければならないと考えればだ。

 いつも通りのやり方では、まず通用しないだろう。


 ――それにしても、猶予ゆうよが一週間か。


 …………。


 いや、一週間か⋯⋯。


 現実は、俺におもりをかけてくる。

 頑張る、だけでは出来ないことだから。

 だから、先が思いやられる。


 ――一旦、頭から執筆しっぴつのことを忘れた方が良いか……。


 脳に負担をかけ続けるのも良くない。

 次は、休み時間の時にでも考えよう。逆にコロッと、良いものが思いつく可能性もある。


 しかし、気を抜いたら小説のことについて考えてしまう。結局、脳に負担をかけ続ける登校時間なのだった。

 それも、進歩となる一手いってすら思い浮かばず、時間が消費されただけという有様ありさま

 学校に到着するまで、ただただ自分を追い込んだだけだった。


 俺は、学校に到着して、教室に入り、自分の席に着席して、淡々たんたんと教材を引き出しに入れていく。


板橋いたばしくん、おはよう」


 そして、辻さんが挨拶あいさつをしにやって来た。

 今日も、その水色のセミロングヘアがサラサラと揺れており、とても綺麗きれいだ。


「おはよう、辻さん」

「板橋くんの執筆の調子は、どんな感じ?」

「……あまり良くないな」

「まあ、始まったばっかりだもんね。まだ、しょうがないよ」

「そうだな。しかし、一週間後も、今みたいな状況の可能性も全然あり得るから、こまったものなんだ」

「それは、確かに困るね」

「でもあきらめるつもりは無いから、その点は安心してくれ」

「それは、はなから心配してないよ」

「……そっか」


 そこまで信頼しんらいを置かれているとは……。

 素直すなおうれしいのだった。


「だが、想像通りに難しい条件を提示ていじされているようで。一歩目すら踏み出せていない状況なんだよな」

「やばいって感じだね」

「そうだ」

「……板橋くん。実は私ね」

「……うん?」

「もうすでに二冊、昨日買った小説、読み終えたんだ」


 ほお、と思う。


「それは、すごいな……」

「睡眠を犠牲ぎせいにしたけどね。でも、睡眠を犠牲にしても良いかなってくらいには、魅力的みりょくてきな作品だった」

「…………」


 まあ、そうだろう。

 面白くない小説を徹夜てつやして読むことは難しい。

 小説が面白いから、徹夜してでも読めたのだろう。


「二冊よりも、いたばしこう先生の小説の方が断然大好きだったけど……普通に好きな作品も増えたかな⋯⋯」

「ちなみに、どの本を読んだんだ?」

単巻完結たんかんかんけつの二冊」

「じゃあ、残りはシリーズものの五冊か」

「そうだね」


 ――あと、と彼女は声を出す。


「その二冊のラノベを読んで、いくつか創作のアイデアがひらめいて。役に立つかは分からないけど、放課後、その案を板橋くんの作品に取り入れられないか、考えない?」

「…………」


 たしかに昨日、辻さんは――私も力になりたい、何かアイデアを出せれば――と言っていたもんな。

 しかし、驚いた。

 まさか、昨日の今日で彼女のアイデアを共有できる事になるとは……。


「じゃあ、放課後……二人で話し合おうか」

「……うん!」


 辻さんの……いや、くもりえさ先生の考えついたアイデアか。

 もちろん、いくら凄いアイデアを紹介されても、そのままを取り込むつもりは無いが(さすがに作家のプライドくらいはある)、参考にしてアレンジするのであれば……。


 ――勝機しょうきは、見えてくるのかもしれない。


 そうだ。辻さんも言っていた。

 一人で出来ないことも、二人いれば何とかなるのかもしれない。

 これは、ラノベ研究部、最初の活動だと。


 ――天才イラストレーターのアイデアが、役に立たないわけが無い。

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