第18話 提示された条件
「
美冬は、
「そう。だってさ――」
美冬は、その思惑を話す。
「私にとって面白いと思えて、
確かに、だ。
彼女の言っている内容に、間違いはない。
だが……、
――辻さんと美冬の、面白いと感じるツボは、全然違う。それも、大きくだ。だって、辻さんは俺の小説を面白いと言い、一方で美冬は、それと全く同じ小説をつまらないと言った。二人の
難しい、で
先が見えない。
そんなこんなを思考していたら、辻さんが口を開けた。
「あなたに一つ、聞きたいんだけど……」
「なに?」
「
美冬は、数秒経って答える。
「私は、面白い小説をゴミなんて
「じゃあ、私はその条件は、とても良い条件だと思う。板橋くん――」
「うん?」
「私にも、あの女にも、最高と感じさせる小説を作って……!」
「…………いや、簡単に言うがな」
「航大。私は思うんだけど、ここの二人の読者も満足させられない作家が、最強のライトノベルなんて、作れるのかな?」
「…………」
ぐうの
この状況で断るなんて選択肢は、どこかへ飛んでいく。
「……分かった、努力してみる」
「板橋くん……!」
「俺が目的に合った小説を作れば、美冬は部員になってくれて、辻さんもそれを受け入れてくれるんだよな?」
そう、
「ええ」
「もちろん」
美冬は、
「航大が良い小説を作れば、喜んで……まあ
渋々するのかよ。
「良い小説を作れば――の話だけどね」
「…………」
その言葉は、何を意味しているのか?
――どうせ無理だろう、と言う
――それとも、出来るものならやってみろ、と言う
――あるいは、そのどちらも
…………。
どちらも含んでいそうだった。
俺は、そもそもと考える。
――
ぶっちゃけ、小説の的確な感想を言える人なんて世の中には山ほど
――個人的に、美冬にこのラノベ制作に関わってほしい。
それは、俺個人のわがままに等しいことだった。
だが、幼なじみの俺だからこそ、彼女に思うところがあるわけで。
美冬の過去とかを考えれば、その結論に行き着いた。
これは、チャンスなのだった。
「良い小説を作れるよう、俺もあがいてみる」
「あがいて、何とかなれば良いね」
「ああ、そうだな」
「一週間後に二万文字の短編……で大丈夫?」
「了解だ」
「…………」
美冬は変わらず笑みを浮かべており、感情が読めない。
「私、先に帰るね。
「ああ、分かった」
「じゃ、また」
「ああ、またな」
そして、美冬は立ち去った。
体育館裏に、俺と辻さんが残る。
辻さんは、口を開ける。
「板橋くん。よければ、短編制作。私も手伝うよ」
「手伝う?」
「私にできることがあったら、何でも言ってほしい。私は、渋々とじゃなく、喜んで協力するから」
俺は、言った。
「じゃあ、その時は。よろしくしようかな」
「うん、よろしくして」
辻さんは、続けて言葉を発す。
「これが、最初のラノベ研究部の活動だね」
「まあ、そうだな。まだ
「何がなんでも、仮は
「そのために、俺が一番頑張らないといけないな」
「なら、私は二番目に頑張らないと」
しかし、なのだった。
やはり、どうしたものかだ。
二人が共通して、面白いと言うような小説……か。
それを作るためには、二人の好みを
まずは、隣の
それが、
「あの、辻さん」
「なに?」
「一つ、聞きたいことがあるんだが」
「うん」
「辻さんは、なぜ、いたばしこうの小説が好きなんだ?」
その疑問は、彼女が俺のファンと名乗った時からの疑問だった。
別に俺は、自分の作品に自信がない、という訳ではないのだが。
しかし、小説を
だから、こうして本人に、その理由を聞きだす。
辻さんは、答えを教えてくれた。
「私が、いたばしこう先生の小説が大好きな理由。それは……」
「ああ」
彼女は、言った。
「――感情が、全くこもっていないからだよ」
…………。
なにそれ?
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