第10話 部活設立

 部活を作ろう……?

 俺は、そんな言葉を発したつじさんに、率直そっちょくな疑問を返した。


「なぜに、どんな部活を作りたいと思って、俺を誘ってるんだ?」


「それは」と辻さんが口を開ける。


「まず、私と板橋いたばしくんでラノベを共同制作するうえで、悩みが生まれたの」

「悩み……?」

「そ」


 辻さんは、続ける。


「ラノベ制作を共同で行ううえで、まず話し合いの場を設けないといけない」

「それは、放課後の教室だったり、喫茶店きっさてんだったりで良いんじゃないか? それか、最終手段で俺の家でも」

「それは、ちょっと困るの。創作を邪魔する雑念ざつねんが取り巻いているから」

「俺と二人きりの空間がベストだと?」

「そう」

「放課後の教室はダメなのか? 一昨日おとといこそ、二人きりでいた気がするが」

利便性りべんせいに欠けているのが難点なんてんかな。17時になったら、定時制の人たちが来るから、時間の限りもあるし。だから、部室が欲しいの」

「なるほど。ちなみに何部を作るつもりなんだ?」

「ラノベを作り、面白さを研究し、最強の一冊を作り上げる。ラノベ研究部――という名前で活動したいと思っているところ」

「…………」

「てことで、板橋くんが構わないと言うのであれば、早速さっそく部活設立に向けて動こうと思うけど。板橋くんからは、何か意見とかある?」


 意見の有無を考える。


「いや、今のところは。まあ、できる力は使って、最高の作品を作りたいから、そのプロセスに部活設立が必要であれば、俺は進んで入部をするだけだ」

「じゃあ、まずは行動にうつさないとね。先生にけ合ってみようか」


 俺は、思った。

 彼女の行動力は、すさまじいものだなと。


 そして放課後。俺たちのクラスの担任である男性教師――落合おちあい先生に新部活を設立したいむねを話す。落合先生は、俺と辻さんに言う。


「仮に部活が設立できたら、俺が顧問こもんになってやっても良いぞ。何もしなくても良さそうだし、そしたら楽に顧問の称号を獲得できて、面倒な部活の顧問を担当する運命から逃げれそうだ」


 ほしい回答となんかズレていた。しかも、個人的な思惑おもわくをさらけ出している。別に構わないけども。

 俺は、先生に聞く。


「顧問が誰かも大事ですけど、それよりも――」

「本当に、そのラノベ研究部って部活が設立できるかどうか、気になるのか?」

「その点が一番重要なので」

「まあストレートに言うとだな」

「はい」

「現状では不可能だ」


 俺は、質問する。


「それは、なぜですか?」

「数が足りていない。それだけだ」

「二人じゃ、定員数に達していない、ということですか?」

「そう言っている。ちなみに、最低三人は必要だ」


 これはまた、神様がイタズラで設定したとしか思えない数字なのだった。

 あと一人、入部してもらわなければならないわけか。


「だから、三人集まったらまた俺に声を掛けると良い。数さえそろっていれば部活の設立は約束してやろう」


 そう言葉を残して、落合先生は教室を立ち去った。

 クラスに、俺と辻さんの二人だけが残る。

 俺は、彼女に声をかけた。


「という事だったが、どうする?」

「三人……あと一人……雑念……」


 そう、これはラノベ研究部の部員を三人集めたところで解決できる、簡単な問題ではなかった。


 辻さんの言う雑念――俺以外の他人が部室に増えることは、最高の創作環境からかけ離れることを意味する。要は、くもりえさ先生の力が最大限発揮さいだいげんはっきできないことを意味するのだ。

 非常に面倒な性質だとは感じるものの、これはしょうがない事だと俺はとらえていた。

 クリエイターなんて、そういう生き物なのだから。


 こだわりが強く、面倒な生き物。

 だから、その面倒な性質を非難ひなんする気は別にない。

 そこを受け入れたうえで、対策をるのが最善だろう。俺は、言った。


幽霊部員ゆうれいぶいんでもやとうか?」

「……いや、さすがに私もそこまで都合つごうよく人を動かして良いとは思わない」

「…………」


 へえ、と思った。

 ちょっと見直した、というか。他人への思いやりも持っているんだな、と思うのだった。たいへん失礼にもだが。

 辻さんは、口を開けた。


「私は、板橋くんと最強のラノベを作りたい」

「それは、俺も同感だが」


 今更いまさら何だ? と感じてしまう。


「たぶん、私たちはラノベを制作するうえで足りていない明確な存在がある」

「足りていない存在……?」


 作家にイラストレーターは存在する。

 それと、ラノベを制作するうえで必要な役割……。


「そうか……!」と俺は声を出した。


 確かに、良いラノベを作るうえでは、あってはならない部分が、俺たちには足りていない。

 俺は、それを口に出す。

 辻さんも、同時に言葉を発した。


「編集者か……!」

「デザイナーだよ……!」


 …………あれ?


「…………」

「…………」


 沈黙ちんもくが流れる。

 なんか、意見が食い違ったようだった。

 俺は編集者が必要と言い、辻さんはデザイナーが必要と言った。

 俺からすれば、良いラノベを作るために、作品を客観的な目線で評価できる編集者的な役割が必要なのだと思った。俺と辻さんは、お互いがお互いのファンのため、作品の良いところしか見れない。だから、そこを一般読者の視点から観察することができる人物は非常に重要だと考えていたのだが……。


 確かに、辻さんの口から出たデザイナーも必要な存在なのだった。

 俺と辻さんには、タイトルロゴのデザインや広告のデザインは専門性に欠けているため、良いものが提供できるとは思えない。

 見た目・表紙は、ラノベを手に取ってもらえるか否かの分かれ道になる、とても重要な立ち位置となる。

 内容が完璧だったとしても、読んでもらわなければ意味がないのだ。


 辻さんは、言った。


「編集者って、いらなくない?」


 なんか憎悪ぞうおが声のトーンにこもっていた。

 あまりれたくはないが、過去に何かトラブルがあったのかな?

 明らかに編集者という人間を敵視しているのだった。


「だって、いたばしこう先生の企画をバッサリ切る連中でしょ? きっとラノベ制作がとどこおっておしまいになるよ」


 憎悪の原因は、俺にあったらしい。


 まあ、確かに。好きな作家の作品が一向で出ないことに、編集者が関与かんよしているのであれば、嫌な気持ちにもなるかもしれないが、そこまで嫌悪感をしにしなくてもよくないだろうか?

 あっちも仕事だから、しょうがないところもあるだろう。

 俺は、言った。


「第三者の意見も必要だと思うんだ」

「……板橋くんが必要と思うなら、まあ良いけど」


 断固拒否だんこきょひという感じでは無いので良かった。


「…………」


 俺は、辻さんに言う。


「あの、だがな」

「なに?」

「一人だけ、三人目に適任な人物を知っているんだ」

「ほんと?」

「ああ。デザイン関係の作業ができて、的を得たラノベの感想も言える、ラノベ好きだ。でも……」

「でも?」

「約束があってだな」

「うん」


 俺は、辻さんにお願いをしておいた。


「くれぐれも、彼女とはあまり喧嘩けんかをしないでくれよ」


 俺の想像している人物は、俺の直感が察するに、つじしずくとは相性あいしょうが最悪な女子なのだった。

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