第2話 イラストレーターの正体
いたばしこうの小説は、二作目発表の形すらまだ見えない。いつしか俺は、高校二年生になっていた。
四月六日。今日は、高校の始業式だった。
そして、その日にクラス分けも行われた。
俺は、二年A組だった。
午前11時。
新たな担任の挨拶と共に、
顔見知りもいれば、初めましての人もいる。当然の話なのだが。
「じゃあ次、
俺の出席番号は、五十音順の法則に従うと、前方になる。俺は、口を開けた。
「
我ながら、普通過ぎてつまらない自己紹介だった。まあ、俺はこんな感じで良いだろう。
バトンは、後ろへ渡されてゆく。
自己紹介が、進む。
「次は、
「あ、はい……っ」
その瞬間だけ、クラスが少しザワついた。
その
水色のセミロングヘア。
彼女の浮かべる
一学年の時は別クラスだったが、
「
趣味が、アニメに漫画にラノベ……。
俺と一緒じゃん。
だが俺は、彼女と仲良くなる事を、別に期待しなかった。
さすがに、
趣味が同じだろうが、彼女の友達になるような人種ではないと。
俺にも、オタク友達くらいは数人いるし、わざわざ明るい彼女とつるむ必要もあるまい。
辻さんは、
そんな事を思い、辻さんの自己紹介タイムは終わっていた。
その後も
「さようなら」の声と共に、その日の学校は終わった。始業式なので、午前中だけだった。
部活動に所属する者は、帰宅しない人がほとんどだが、俺は部活動に所属していないので、
「おーい、板橋」
「はい?」
あんたが来いや、と内心
担任は、小声で言った。
「黒髪にメガネ。真面目な見た目をしているな」
「それは、俺の事ですか?」
「平凡な見た目をしているキミの事だ」
「あの、バカにしています?」
「
「わざわざ平凡と口に出すのは、悪意があってこそだと思うのですが」
「悪意なんて、八割くらいしか無いけど」
「めちゃくちゃ、あるじゃないですか……」
「しかし……」と担任は言う。
「真面目な優等生に見えて、実は授業中にコソコソ小説を書いていると言う
「それは、本当じゃないです」
「その言葉が
「俺は、ラノベを書いているだけなので」
「確信犯だねー」
俺は、聞く。
「それを確認したくて、ここまで呼び出したんですか?」
「それもあるが……」
「それ以外も、あると?」
「ああ、その通りでね」
担任は、
「書類運びを手伝ってもらいたんだ」
俺は、質問する。
「なぜ、俺なんですか?」
「せっかくだから、帰宅部に仕事を与えてあげようと思ってね」
「いらないので、大丈夫です」
「俺も、楽に仕事を進めたいんだよ」
「本音を隠す気ゼロだな……」
「隠したって、しょうがないものだからね」
「いや、せめて生徒の前では隠すものでしょ」
「先生のプライドが全く無いのが、俺の
それは果たして、取り柄と呼べるものなのだろうか?
人それぞれの、捉え方によるものだと思うが。
しかし、プライドを無くした結果、俺に書類運びが回ってくるのは、意味が分からないのだった。
「どの道、午後は用事があるので、すみませんけど……」
「何の用事かな?」
「人に言えない用事です」
「じゃあ、書類運びの
嘘は、バレていた。
「量は、どれくらいなんですか?」
「教室と職員室を往復二周するくらいだよ」
地味にダルいな……と思った。
「書類運びをして、俺の評価が上がる事を期待しています」
「別に評価を上げる気は無いけど、手伝いを断ったら、評価を下げようとは思ってるよ」
最悪な教師なのだった。
何だかんだで、書類運びを手伝わされる
せめてもの、執筆の
書類運び……。
ならないだろうな。
そんな気持ちを
担任の机の上に、書類の山が二つに分けて置かれてあった。これらを教室まで運べという事らしい。
「じゃあ、よろしく」
俺はまず、右側の書類山を両手に乗せる。
職員室を出て行き、廊下を歩いた。
書類を教室まで運ぶ時間。
執筆について、思考を
勝負どころの二作目。
今のところは、一作目と同様に、異能バトルもので勝負を打とうと思っている。
しかし中々、企画の段階が通らない。
書きたいものを構想としてありのまま出すと、普通だとか、どこかで似たようなものを見た事があるだとか、これといった特徴が見られないだとか言われ。
あらすじや設定に
どのような物語を書くべきなのか……。
科学の発展した、近未来が舞台の世界で繰り広げられる、異能力学園ストーリー?
いや、それはとある有名な作品に影響されている気がする。
隕石の流れは、別の作品に影響されているよな。完全に。
あまりに強い異能力により人生を狂わされた男が、実は正体が宇宙人で、ヒロインは主人公の
うん、たぶん突き返される。
たぶんと言うか、絶対にだ。
そして、売上が悪そう。混ぜ過ぎて。
執筆って、なぜこんなにも難しいのか。
頭の中で
――バン……ッ!
人間と、ぶつかった。
「や……っ!」
女の声が聞こえると共に、俺は書類の山を崩して転倒した。
床に散らばるバラバラの書類に絶望した――はずだった。
絶望など、考える暇も無かった。
それが現実だった。
何があったのかと言うと。
俺の目の前に、見覚えのある画風の、
それが、普通のイラストなら、まだしも。
その画風には、見覚えがあった。
アナログカラー(おそらくコピック)だが、色彩のセンスがずば抜けている、幻想的な絵。
魅力と奥が深い世界観。
空を舞う魔法少女が、男の心臓部に、ステッキを
背景に映り込むビルの中には、様々な人間の姿が描き込まれている。
魔法少女の存在に気づき、驚いている人間。
反対に気づかず、仕事に熱中する人間。
赤いトマトを食べている、状況相まって不吉な画となる人間。
友人と楽しくお
発見が多く、飽きさせないイラスト。
それらの特徴に、
俺は思わず、その名前をつぶやていた。
「
「えっ……」
俺は、真正面を向く。
ぶつかった人間と、目が合わさる。
「
水色のセミロングヘア。可憐な童顔。ネイビーを
辻さんは、顔を赤らめ、俺に言った。
「教室に、行こうか……」
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