第20話 謝罪、和解




《健太Side》



 僕らは贄川にえかわ警部さんの運転する車に載って、自宅のあるマンションへと送ってくれた。



 マンション前へと到着すると……。



「……村井君!」

「涼せんぱい!」



 姫子と、白糸滝しらいとたきさんがマンション前で待っててくれてた。

 結構夜も遅い時間なのに……僕のこと待っててくれたなんて……。



「……村井君、村井君っ」



 姫子はそのまま、僕の胸に飛び込んできた。

 彼女が震えてる。……心配かけちゃったな。



「待っててくれてありがとう。でも全部終わったから」



 白糸滝しらいとたきさんがマンションに来たあと……。

 僕らはりょうの部屋の前までやってきた。



 何度かピンポンしたんだけど返事がなかった。

 そこで、白糸滝しらいとたきさんがラブホテルの前で涼を見掛けたって言ってきた。


 

 顧問の先生と一緒に都内のラブホテルに入っていったのだと。

 彼女は最初見間違いだと思ったらしい。


 だから、りょうの家に来て、見間違いだったと確認しようとしたみたいだ。

 ……さすがにヤバいと思った僕は警察に通報。



 すでにりょうは顧問の先生と帰ったはずだと判明した。

 そこから、贄川にえかわ警部がラブホテルへと急行。



 顧問は捕まり、今に至るという感じだ。


「せんぱい! せんぱい! よかった……!」

黒絵くろえ……」

「無事でよかった、よかったよぉお……」



 白糸滝しらいとたきさんはわんわんと泣いていた。

 それほどまでに、りょうのこと心配してくれてたんだろう。



 しばらく泣いたあと、白糸滝しらいとたきさんがこっちに来て、深く頭を下げる。



「村井せんぱい、すみませんでした」

「?」

「あたしのせいで、せんぱいに誤解を与えてしまって、そのせいで、深く心を傷つけてしまったこと、大変申し訳なく思っております。すみませんでした!」



 まあ……。

 うん、確かに傷付きはしたけど……。



「頭上げてよ。僕も悪かったから。ちゃんとりょうと話して、何があったのか、ちゃんと事情を聞いてあげなかった、信じてあげなかったことも悪いと思ってるし」



 そもそものことを言うなら、僕がりょうとキスしてるときに、ちゃんと逃げずに、確認しておけばよかったんだ。

 何がどうしてこうなってるんだって。



 相手がホテルから出てきたとかならいざしらず、家に前でキスしていただけなのに……ね。



「健太……ありがとう。なんて君は優しいんだ」

「いや……優しくないよ。ほんとに優しいなら、りょうの言葉を信じてあげてたろうし」



 結局のところ、今回の件は僕にも多分に非があったのだ。



「あの、村井せんぱい! りょうせんぱいのことは、許してあげてください! あたしが、キスしたのが悪いんです。無理矢理デートに誘って、キスまでしたのが。だから! りょうせんぱいは浮気してたわけじゃあないんです! 嫌いにならないであげて……! また、元の関係に……」



 すると、りょうがぽん、と白糸滝しらいとたきさんの肩を叩いた。

 そして、ふるふると首を振る。



黒絵くろえ。それは無理だ。ぼくは過ちを犯した」

「せんぱい……」

「それに健太の心には、別の女性ひとがいる」



 りょうが姫子を見やる。

 確かに……僕は姫子のことが……。



「健太。すまない。ぼくは君の前から消えるよ。君を手に入れて浮かれていた。いや……浮かれすぎていた。そのせいで、君にたくさん迷惑かけたから。君の前から姿を消し、君に一切迷惑をかけないようにするよ」

「姿を消すって……転校とか引っ越しとか?」

「…………うん」



 りょうなりのけじめの付け方なんだろう。

 ……それを聞いて、僕は……。



「そこまでしなくて良いよ」

「え……?」

「だから、転校とか引っ越しとかしなくていいよ」

「し、しかし……」

「いいから」



 僕は、りょうに向かって言う。



「悪いけど、りょうとはもう恋人にはなれない」

「…………うん」

「でも君は僕の幼馴染みだ。今回の件でいろんなことが変わったけど、そこは変えないで欲しい」



 りょうはこれからも、幼馴染みのままでいいと、そう言いたかった。

 


「……ぼくを、許してくれるの?」



 ぽたぽた……とりょうが涙を流す。

 


「許すよ。僕も、悪かった。話し聞かなかったり、言葉で君を傷つけたりして。だから……改めて、ごめん」



 りょうが泣きながら、僕に何度も頭を下げる。



「ごめん……健太……許してくれて……ありがとう……」



 そんな僕らの様子を、黙って見ていた贄川にえかわ警部さんが、パンパンと手を叩く。



「さ、夜ももう遅いから家に帰りなさい。あとの【処理】は、私たち大人に任せてね」

「「「処理……?」」」

「うん、処理。大丈夫、君らの健やかな学園生活に支障がでないように、しておくから」



 どういうことだってばよ……?

 じゃ、と言って刑事さんが去って行こうとする。



 あ、そ、そうだ!



「あの、刑事さん! りょうを助けてくれてありがとう!」



 贄川にえかわ刑事はフッ、と笑うと、敬礼ポーズを取る。



「礼は不要さ。善良なる市民を守ることは、我々警察官の当然の義務だからね」



 それじゃ、といって贄川にえかわ警部さんは車に載ると、颯爽と立ち去っていったのだった。

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