第17話 部活顧問に脅され、ホテルへ…【元カノ視点】




 通報が入り、警察署へと連行されたなぎさ りょう

 りょうを引き取りに来たのは、彼女の部活の顧問、【権堂ごんどう 夏寿男げすお】。



 すだれ髪に、でっぷりと太った中年の男性教諭だ。

 昔は大層剣道が上手で、全国大会にも出場したことがある。



 その経験からアルピコの剣道部顧問として雇われたのだった……。



なぎさぁ……大変だったなぁ~……」



 夏寿男げすおは自家用車でりょうを迎えに来ていた。

 彼女を助手席にのせ、車を運転してる。


 夏寿男げすおの目がニタニタと笑っており、口元からはよだれが垂れていることに……。

 りょうは、気づいていなかった。


 精神的にかなり落ち込んでいるからだ。

 健太から不審者扱いされ通報されたことが一つ、そしてもう一つ彼女の心に大きなダメージを与えていたことがあった。


なぎさぁ……とんでもないことしちまったなぁ~……。こりゃあさすがに学校に報告しないと……ひひっ、駄目だなぁ」

「! い、いやです! 権堂ごんどう先生! それだけは勘弁してください!」



 学校に報告すれば、当然ながら学校中に、今回の件が広まってしまうだろう。

 警察に連れてかれた理由まで広まるかわからないが、【湖の麗人】が警察に捕まった……。



 そうなれば、悪い噂が学校中に広まり……。

 そうなると、りょうの【格】が下がってしまう。人気が下がってしまう。


 そうなると……イヤだ。



「そうだなぁ。警察に厄介になったとなれば、それは大事だ。四天女よんてんにょ三天女さんてんにょになっちまうかもなぁ……ぐふっ」

「あああああああああああ……」



 四天女から格下げ。

 そうなると……。



「負けちゃう……犀川さいかわ 姫子に……」



 りょうのなかで、自分と犀川さいかわ 姫子は、同じ四天女よんてんにょで同格だと思ってる。

 健太は、同じ四天女よんてんにょであるから、りょうと姫子は【同格】だと、思ってる。



 ……そんなわけはないのだが。

 まあそれはさておき。



 重要なのは、今回の件で学校中に悪い噂が広がり、自分が四天女よんてんにょとしてのステータスを失うこと。

 それにより、女としての格が一段階落ちて、姫子に劣ってしまう……負けてしまう……こと。



 それが、何よりイヤだった。



権堂ごんどう先生! お願いします! 学校にはこのこと、黙ってもらえないでしょうか……!」

「それはぁ~無理だなぁ~」



 にやにや、と夏寿男げすおが勝ち誇った笑みを浮かべてる。

 りょうのスレンダーな、しかし若い肉体を、なめ回すように見ていた。



なぎさ~。それは無理な話だ。警察まで話が言ってしまってることを、【ただじゃ】無かったことにはできないなぁ」

「そんな……! お願いします! どうか、どうかこの件は内密に」

「ん~。無理だなぁ。今のままじゃあ……」

「お願いします!」



 そして、りょうが言ってしまう。


「ぼくにできることなら、何でもしますから!」



 きっ、と車が停車する。

 ハザードランプをつけると……夏寿男げすおがにちゃあ……と邪悪に笑った。



 それは生理的な嫌悪感を覚える、笑み。

 得物が罠にひっかかったような、そんな感じすらする。



「今何でもするっていったかぁ、なぎさぁ?」

「はい! ぼくにできるなら」

「じゃあ……わしに抱かれろ」



 ………………………………は?

 りょうの頭が、一瞬真っ白になる。



 夏寿男げすおが何と言ったのか、頭が理解を拒絶していた。



「今……なんて?」

「抱かれろといったんだ」

「そ、それは……」

「ハグって意味じゃあないぞ。ほれ、あそこを見てみろぉ?」



 そこにはったのは、ラブホテルだった。

 車がどこを目指して走ってると思っていたのだが、まさかラブホだったとは……。



 りょうは落ち込んでて、自分がどこへ運ばれているかに気づかなかったのである。

 砂地獄へと、運ばれているとは知らず……。



「や、やだ……! 何言ってんのあんた!?」



 りょう夏寿男げすおをビンタしようとする。

 だがその手を夏寿男げすおは軽々と受け止めた。



「どうしたなぎさぁ……? 学校にいって欲しくないんだろぉ? なら、言うことを聞け」

「で、でも……! でも……! やだ! あんたなんかに、ぼくの初めてをあげたくない! あげるあいては健太って決めてるんだ!!!!!!」



 りょうが嫌がるそぶりを見せても、しかし夏寿男げすおはそれを楽しんでる様子すらあった。

 べろり……とりょうの二の腕を舌でなめる。



「ひぃ……! や、やめ……やめて! いやぁ!」

「げひひ……イイ声で泣くじゃあないか……わしはおまえみたいな、男勝りな女が、メスに墜ちる様が何より好物でなぁ。AVやエロマンガもそういうものばっかり集めてるんだよおぉ……ぐひひっ」



 ……気持ち悪い。

 ハッキリそう思った。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!!!!



「やだぁ……! 離せぇ……!」



 りょう夏寿男げすおの腹を蹴飛ばそうとする。

 だが軽自動車の車内はせまくて、上手く蹴飛ばせなかった。



「いいのかぁ、なぎさぁ。そんな反抗的な態度をとってぇ。学校にいっちゃうぞぉ?」

「! そ、それは……」



 学校に報告が行けば、どうなるのか。

 りょうが最も恐れる事態になってしまう……。



「おまえが黙ってわしに抱かれれば、全て解決なんだよぉ。なぁ? なぎさぁ……今の地位を失いたくないだろ? んんぅ?」


 

 今の、地位。

 四天女よんてんにょとしての、自分。



 剣道部主将、そして全生徒たちからの、憧れの、王子様。

 今回の件がバレてしまえば、その全てを失う。



 学校での地位を失えば……。

 女としての格が落ちる。



 そうなると、姫子に負けてしまう。

 そうなると、健太を……永久に取り戻せなくなる。



 ただでさえ、【原因不明】で健太を怒らせて、嫌われてしまったばかりなのだ。

 ここから巻き返し、あの女から健太を【取り戻す】ためには……。



 今ある地位を、失うわけにはいかないのである。



「なぁに、悪いようにはせん。さぁ……どうする?」

「………………」



 いやだ、いやだ、いやだ……

 恐い、こんな汚い男に初めてを奪われるなんて、いやでしかたない。



 初めては、健太に捧げるつもりだった。

 でも……今ここで夏寿男げすおを拒めば、もう健太に抱かれる可能性がゼロになってしまう。



 地位のない自分に、価値などないのだから。

 ならば……。



「ごめん、健太……綺麗な体じゃ……なくなっちゃうけど……許してくれるよね……」



 処女でなくなることと、四天女よんてんにょでなくなること。

 二つを天秤にかけて……。



 前者を、選んだのだ。

 おとなしくなったりょうを見て、にちゃあ……と夏寿男げすおが笑う。


 ハザードランプを切ると、夏寿男げすおの運転する車はラブホテルへと入っていった。



「これでいいんだ……今の地位を守るためなんだ……健太を取り戻すために、仕方なく抱かれるんだ……許してくれるよね、健太……」



 うつむきながら、ブツブツとつぶやくりょう

 だから、気づかなかった。



りょう……せんぱい? うそ……だよね?」



 ラブホテルへと入っていく姿を……。


 部活の後輩女子が、見ていたことに。

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