第16話 警察に連れてかれる【元カノ視点】



りょうSide》



 健太の元カノ、なぎさ りょうは、彼の家の前で大騒ぎした。

 健太が電話をかけた先は、大家だった。


 このマンションのオーナーは、凄い金持ちの老人らしい。

 しかも健太と同い年の孫が居るからか、一人暮らししてる健太からのことを、何かと気にかけてくれる。



 健太はマンションの管理人に連絡。

 そこからオーナーへと情報がいって、すぐさま警察官がかけつけてきた。



 結果、りょうは区の警察署へと連行されていったのだった。

 さて。



 りょうがいるのは、警察署の取調室。

 未成年、しかも直接人をあやめたり、何かを盗んだわけではないので、当然逮捕されるようなことはない。



 しかし……通報が入ったこと、そして近隣住民に迷惑をかけたことは事実。

 りょうは警察官から、こってりとお説教を受けた。



 ……だが。



「どうして……どうして……どうして……」



 お説教されてる間中、りょうはずっとその言葉を繰り返していた。

 どうして、健太が自分を嫌いになったのか、涼にはさっぱり理解できないのである。



「なんで……? どうして急にぼくのこと嫌いになっちゃったの……? わけわからないよ……」



 取調室には、涼と、お説教していた警察官の二人だけがいる。

 警察官は、涼のあまりの人の話を聞かない姿に、お手上げ状態だった。



 そのときである。



「おまたせー」

贄川にえかわ刑事。おつかれさまです」



 贄川にえかわと呼ばれた、白髪の警部が、取調室の中に入ってきた。



「はいおつかれ。あとはぼくが引き継ぐよ」

「わかりました、贄川にえかわ刑事」



 贄川にえかわは警察官といれかわるように、涼の前に座る。

 だが新たな人物が入ってきたというのに、涼は気づいていない。



「あー……なぎさ りょうくん。君の親御さんに連絡したんだけど、まったく繋がらないんだ」

「どうしてどうしてどうして……」

なぎさ りょうくん。へえアルピコ学園の2年生か。私の娘もアルピコに通ってて……まあそれはどうでもよくって」


 

 ごほん、と贄川にえかわが咳払いをする。



「君のお母さんに連絡してみた。元女優さんで、今は有名芸能事務所の女社長さんとは驚いたよ」

「…………」

「あー、で、お母さんに連絡したんだけど、全然電話に出てくれなくってね。携帯は不通だし、事務所に連絡しても社長は忙しいの一点張り。このまま君をここに置いとくわけにもいかない。現状は理解した?」



 理解した、と言われてもそもそも贄川にえかわ刑事の話を、涼は聞いてなかった。

 ため息をついて、話を続ける。



「だから、学校の方に連絡することにしたよ」

「! そ、それはだめだ……!!!!」

「うぉお! びっくりした……話し聞いてたなら相づちくらいうってほしいな……」

「駄目だ! が、学校は駄目なんだ……!!!!!!!!」



 涼が慌てて刑事につかみかかろうとする。

 だが警察官が取り押さえて、座らせる。


「離せ……! 離せぇ……!」

「ふぅ……血の気が多いこと……。で、話を戻すと、学校に連絡するから」

「駄目だ……! どうしてそうなるんだよぉ!」

「いやしょうがないでしょう? ご家族に連絡がいかない以上、学校の人に来てもらわないと。でないと、一生帰れないよ?」



 涼は片親だ。

 母親に連絡がつかないと、他に自分を引き取ってくれるひとはいない。



「家族なら……いるよ!」

「あれ、そうなんだ。だれ?」

「健太だよ! 村井健太! 彼を呼んでくれ! 彼は家族なんだ……! ぼくの……大事な大事な、家族なんだよおぉお!」


 

 しかし贄川にえかわ刑事は首をかしげる。

 ややあって、気づいたように言う。



「もしかして君……村井君に通報されたこと、気づいてないの?」

「………………………………は? け、健太に……通報された……?」



 寝耳に水だった。

 贄川にえかわ刑事は、あきれかえったようにため息をつく。



「村井君が管理人に通報したんだ。家の前で、【知らない女】がわめいてるって」

「?!?!?!?!?!?!??!?」



 ……頭をハンマーでぶん殴られたような衝撃が襲ってくる。

 知らない女。



 つまり……他人扱いされたということ。


「うそ……」

「ほんとだよ。君は村井君に追放されたんだ。で、警察がきて君を捕らえた」

「うそだ……」

「まあ君らの関係は知らないよ。でも通報者が助けてくれるわけないよね?」

「うそうそ……うそうそうそ……!!!」



 健太が自分を知らない女扱いされたこと。

 警察に通報したことが、ショックで仕方なかった。



 嫌われたってだけであそこまで取り乱す女だ。

 知らない女なんて言われて、通報までされたら……。



「うそだ……うそだぁあ……うそだぁあああああああ……! あぁああああああああああああああ!!!!!」



 もう、学校に連絡がいくとか、どうでもよかった。

 健太に、そんな不審者扱いされたことが、悲しくて仕方なかった。



「残念だけど、君の学校にはもう通報したよ。先生が直ぐ来てくれるから、君はその人と一緒に今日は帰りなさい」

「あああああああああ! いやぁああああああああああああああああ!」



 贄川にえかわ警部がため息をつくと、部屋を出て行こうとする。

 警察官はふと、贄川にえかわ警部に尋ねる。



「この子はどうして、学校に連絡しないでといったのでしょうか?」

「話を聞いた限りだと、なぎさくんは学校で四天女よんてんにょっていう、大変な人気者らしい」

「は、はあ……それが?」

「学校に通報が行けば、学内にこの件が広まってしまうだろう? そうすると、有名故に醜聞も素早く広まり、人気者でなくなってしまうからじゃあないかい?」

「……なんです、それ。馬鹿らしい」



 つまり人気者じゃなくなるから、という理由で、通報をやめさせようとしていたのだ。



「彼女の中では人気者であることが、結構重要なことみたいだね」

「人気者にこだわる理由は?」

「さぁ……。まあ、ただたぶんだけど、愛しの村井君に関わることじゃあないのかな。人気者でなくなったら、村井君に嫌われるかも……とか」



 健太から不審者扱いされた、という事実を聞いたあと、涼は学校の話題を聞いても、一切反応しなかった。

 そこから、贄川にえかわ刑事はそう推理したみたいだ。



「なんというか……頭がちょっと弱いのでしょうかね、彼女。人気不人気関係なく、通報されてるんですよね? 嫌われてるじゃあないですか」

「うん、まあ。ただ、ほら……ね? 可哀想だから、事実は言っちゃあいけないよ」



 刑事たちに同情されてる一方、涼は子供のように泣きじゃくった。

 ほどなくして、彼女の学校の先生が、涼を迎えに来たのだった。

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