第10話 元カノが朝からストーカーしてきたので拒否ったら泣いた




 姫子の作った朝食を食べたあと、僕と彼女は一緒に部屋を出る。

 がちゃ……。



「健太っ! おはようーーーーー!」

「……りょう



 僕の元カノ、なぎさ りょうがそこには立っていた。

 僕が出てくるなり笑顔を浮かべると、近づいてくる。



 だが、その前に姫子が立ち塞がる。



「……なぎさ りょう。なんでここに? まさかさっきからずっと待ってたの?」

「そうだよ、悪い?」

「……気色悪い。ストーカー女」

「うぎ……ぐ……す、ストーカーじゃないよ! 出待ちしてただけじゃあないか……!」



 で、出待ちって……。

 僕はアイドルか何かかよ。



「……わかる。確かに村井君はアイドルみたいにかっこいいけども」

「わかるんだ……」

「……でも、ハッキリ言って迷惑。端から見たらあなた完全に迷惑なストーカーだから」



 姫子の攻撃、ならぬ口撃に、ぐぬぬ……と涼が口ごもる。



「で、でも……」

「……他のマンション住人から、村井君が変な目で見られる。だからやめて」

「う、ぐ……け、健太も迷惑だって思う……?」



 ナンデ僕にパスを渡してくるんだろうか……。

 まあでも、家の前でずっと待機されるのは、ちょっと……。



 いや、だいぶ……。



「うん、迷惑だからやめて」

「……ほらね。村井君も言ってるでしょ、失せろ、二度とそのツラ消えろって」

「そこまで言ってないよ!?」



 どう翻訳したらそうなるの!?



「ま、まあでも迷惑なのは事実だから……部屋の前で待機はやめて……」

「は、はい! わかったよ! 健太の言うとおりにする!」



 あれ……意外とあっさり……。



「今度からは部屋の前じゃなくて、マンションの前で待ってるね!」



 なにも……変わってない……!!!!


 まあでも部屋の前よりは、変な目で見られない……?



 いやいやいや……。



「涼、きみ朝練はどうするんだよ……?」

「そんなのどうだっていいよ! 健太と一緒に登校したいもん!」

「いや……やめてよ。僕のために朝練サボった、なんて噂がたったら、僕が迷惑だから」

「そ、そんなぁ~……」



 半泣きの涼。

 いやでも、まじでそうじゃん。



 僕って学校では、涼より立場が下なんだ。

 涼が朝練をサボるようになったら、僕のせいにされるに決まってる。



「部活の連中にはぼくが自分の意思でサボったって言うから! 健太にはぜったいに迷惑かけないから!」

「……ウザい。必死すぎて気持ち悪いわ。村井君も、引いてる」

「そんな!!!! そんなことないよね!? キモいなんて思ってないよね!? ねえ!?」



 あまりの圧力に……。

 僕は、思わず一歩、引いていた。



「……ほら、気持ち悪い。ストーカー。そのきしょい顔を二度と朝から見せるんじゃねえ、って村井君もいってる」

「言ってないけど……」

「……でもドン引きしてるでしょ?」



 それは……まあ。

 涼の必死さに、そこまで……? と思ってしまうところはある。



「うう……ううう……じゃ、じゃあ……朝練がないときだけ、君をここで待っててもいいかい……?」

「ええー……」



 ここまで拒んでるのに、なおも一緒に登校にこだわるなんて……。

 玄関先で揉めてると……。



「「「…………」」」



 同じフロアの人たちから、注目を浴びていた。

 ああもう!



 泣きわめく涼、それを拒む僕……。

 端から見れば僕が悪者だ。



「わかった! ああもうわかったよ! それでいいから」

「!!!!!」



 ぶわ……と涼が大粒の涙浮かべて、何度も頭を下げる。



「ありがとう! 健太! ぼくを受け入れてくれてありがとう! ありがとう!!!!」



 ……イヤ別に、受け入れたわけじゃないんだけど。

 迷惑だったから……。



「……村井君、あなたって本当に優しいわ。聖人君子ね。こんな最底辺のゴミ以下ストーカークソ女に、同情してあげて、気色の悪いストーカー行為を許してあげるなんて」

「そ、そんなぼろくそ言わなくても……」

「……いいのよ。だって甘くするとこのゲロ以下女、つけあがるもの。ぜったい」



 姫子の、涼の評価がゲロ以下になってる……!

 いやまあ、嫌ってるんだろうなってのは以前よりわかってたけど……。



「さぁ、健太! 学校行こうか! 楽しく登校だ!」

「……あなただけ先に行って。わたしたちはその100m後方から着いてくから」

「イヤに決まってるだろ!?」

「……ストーカーと同じ空気をすいたくねえ、と村井君も言ってるわ」

「そんな……! 言ってないよね!?」



 言ってはないけど……。



「学校近づいたら、離れて歩いてほしいかな」

「そ、そんなぁああああああ! どうして!?」

「いや、普通に考えて無理でしょ……」

「無理だなんて……そんな……うううううううう!」



 ……ギャン泣きする涼。

 いやでもここは譲れない。



「僕らはもう付き合ってないんだから。一緒に歩いてたらおかしいでしょ?」

「おかしくないよぉお……」

「周りはそう思わない」

「うううううう……」



 結局涼はYESともNoともいってこなかった。

 はあ……めんどくさ……と失礼ながら思ってしまったのだった。

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