第4話 カノジョvsカノジョ、修羅場の始まり

 翌朝。

 僕はゆっくりと目を覚ます。



「朝か……」



 ご飯食べたあと、僕は直ぐに寝てしまったのだ。

 ゆっくり体を起こす。



「…………学校いかないと」



 二日も学校休むわけにはいかない……っていうか。

 昨日、学校休む連絡してなかった……!



「先生に怒られる……気が重いよ……」



 頭痛案件は、もうひとつある。

 別れたばかりのカノジョと、会わないとけないからだ。



「涼……って、ん? なんだこれ……?」



 枕元にスマホが置いてあった。

 ……きちんと充電されていた。それはいい。



 問題は、ケーブルが抜かれていることだ。



「充電しっぱなし……だったような……」



 風邪引いて朦朧としていた僕が、ケーブルからスマホを抜いたんだろうか。

 電源をつける。



「は!? さ、312件!?」



 ラインの通知が、300件以上来ていた。

 なんだこれ……?



「全部、涼からだし……」



 今更何のようだろう?

 でも僕は見たくなかったし、話したくもなかった。



 もう……彼女とは終わったんだから。



「忘れよう、涼のことは」



 僕は未読のまま、ラインをスルーすることにした。

 スマホを枕元において、着替えを探す。



「ええと……着替え着替え……」



 シャツが入っていない。

 たぶん全部洗濯してしまったのだろう。


 どうしよう……。

 ランドリーに今から行くのも面倒だし……。



「しょうがない、洗ってないやつからひっぱりだすか」



 僕は洗面所へと向かう。

 脱衣かごに入ってるシャツを……。



「あれ? シャツが……ない」



 涼は洗濯はしてくれなかった。

 ご飯は作ってくれるんだけど。



 まあそれはいいとして。

 いや、よくない。



「洗濯って……してなかったよね、僕……?」



 おかしい。

 さすがに変だ。



「どうなってんだろう……?」



 そのときだ。

 コトン……という音がした。



「!? だ、誰……? 涼……?」



 やっぱり、卵がゆ作ってくれたの、涼だったのかな?

 それならいちおう説明がつく。



 風邪引いてる僕の代わりにご飯を作って、さらに洗濯までやってくれた。

 それならつじつまが合う。



 ……動機はわからないけど。

 別れた彼氏の家に来て、面倒を見る意味がわからないし……。



 まあ、でも、涼以外にありえない。

 別れたけど、風邪引いてる僕を放置したら、寝覚めが悪い。



 だから、面倒を見た……これだろう。

 いちおう……お礼はしておくか。



 僕はそう思って、リビングに行った……。

 そこに涼が居るだろうって。



 ……だから、驚いたのだ。



「は? え、さ、犀川さん……?」



 犀川 姫子が、そこにいたのだ。

 淡い色の髪の毛、抜群のプロポーション、そして……僕と同じ学園の制服。



「……おはよう、村井くん♡」



 そんな……彼女が。

 雪姫と呼ばれる……クールな彼女が。



 僕を見て……微笑んだのである。



「え、ええ!? さ、犀川さん……な、なんで……?」



 彼女は近づいてきて、僕の顔を優しくてで包み込む。

 そして……額をコツン、と当ててきた……!



「!?」



 か、彼女のすごい綺麗な顔が、す、すぐそこに!

 しかも……なんかイイ匂いがするし……!



「……よかった、熱……下がったんだ」

「あ、え、あ……う、うん? え、な、何が起きて……? なんで犀川さんがここに……?」



 と、そのときだった。

 


 がしゃんっ……!


「け、健太……?」

「え?」



 振り返ると……。

 そこには、幼なじみの涼がいた。



 彼女の足下には鍋が落ちている。

 呆然とした表情で、涼が……僕を見つめていた。



「健太……それに、犀川さん……」

「……何か問題でも?」



 ぎゅっ、と犀川さんが僕の腰を抱く。

 むにゅり、と大きな胸が潰れた!



 で、デカい……じゃなくて!



「健太! ひどいよ! 浮気だよ浮気!」



 ずんずんと、涼が僕に近づいてくる。


 彼女は泣いていた。



「は? う、浮気? 何言ってるんだよ……? 僕らは別れただろ?」

「別れてない……!」

「え……?」



 い、意味わからない……。

 だって昨日、出て行ったし……。



 それに、僕は所詮フェイクだったんじゃあないの……?



「……残念」



 犀川さんは僕を、より強く抱きしめる。


「……私、彼と付き合ってるから」

「「…………」」



 え?

 え?



「「えええええええええええええええええええええええ!?」」



 僕と涼の声が重なる。

 犀川さんはクールな表情のママ抱きついてる状態!



 いやいやいや!



「つ、付き合う!? なんで!?」

「……なんで? 昨日言ってくれたでしょう? ずっと側に居てって」



 あ、あれぇ……!?

 い、言ったそんなこと!?



 いや……待てよ?

 熱でうなされてるとき、そんなことを言ったような……。



「そんなこと言ったの!?」

「た、たぶん……」

「ひどい! ぼくという女がいながら、浮気なんて!」

「いやそれ、君が言うの……? 僕がいながら、女の子と付き合ってたのに……?」

「だからあれは誤解なんだってば! どうして信じてくれないんだい、健太の馬鹿!」



 ひ、ひどい……。

 すると犀川さんが冷たいまなざしを、涼に向けていう。



「……とにかく、私と村井くんは付き合ってるから」

「ふ、ふざけるな! 健太と付き合ってるのはぼくだぞ! 部外者は出て行けよ!」

「……部外者はそっちでしょ? 元カノさん?」

「だからわかられてないから……!」



 ああもう、どうなってんだよこの状況!

 涼は、別れてないっていうし……。



 犀川さんは、付き合ってるって言うし……!



「……だいたい、本当に付き合ってるの? カレシが風邪引いてるのに、ひとりにしておくのって、酷いと思うのだけど」

「う、ぐ……あ、あれは……だって学校があったし……」

「……私は村井くんが風邪って聞いて、学校を早退したわ。そして、つきっきりで看病したの」



 あ、そうなんだ……。

 え?



「犀川さんが……面倒見てくれてたの?」

「……そうよ」

「そ、そうなんだ……ありがとう……」



 じゃあ卵が湯も、洗濯も、犀川さんがやってくれたってことか。



「それに……熱でうなされていた僕のそばにいてくれたのも……?」

「…………」



 少し、間を開けて。



「……そう、私」

「ふざけんな! それはぼくだから!」

「……嘘つき」

「嘘つきは君だろう!」



 ……え、ええと……。

 なんだこの状況?



 学校の三天女のうちふたりが、僕を挟んで、痴話げんかしてる……?



「健太! 付き合ってるのはぼくとだよね!?」

「……村井くん。安心して。こんな酷い元カノより、私、あなたを大事にするから」



 ああもう!

 なんだよこの状況!



 どうして、こうなったーーーーーーーーーー!





 かくして、僕は付き合っていたカノジョに浮気されたその日、学園の美少女と付き合ってることになってしまったのだった……。

 涼と姫子。二人の壮絶な、僕の取り合いが繰り広げられて、学園生活は大変なことになるのだが……。



 それは少し先の話である。

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