第3話 カノジョ?が看病してくれた

 ……ふと目を覚ます。



「あれ……? 僕……」



 気づけば、部屋の中が夕暮れに染まっていた。

 体に感じていただるさは、綺麗さっぱり消えている。



「熱引いた……のかな」



 ふと、僕は気づく。

 ベッドサイドに、水の入った桶がおいてあった。



 あれ? こんなの置いたかな……。



「あれ? これ……薬? なんで……?」



 飲んだ覚えのない、市販の風邪薬が置いてあった。

 封が切られている。



 いつの間に……僕が飲んだ……?



「誰が……? 涼……なわけないか。別れたばっかりだし」



 じゃあ、僕が自分でやったのかな?

 でも熱でダウンしていたのに、そんなことできる……?



 母さんは……帰ってくるわけないし。

 涼もいないし……じゃあ、誰が……?



「…………」



 ぐぅ……とお腹の音が鳴った。

 そういえば、朝から何も食べてなかったな。



「何か食べるか……カップ麺でも……」



 僕は立ち上がってリビングへと向かう。

 キッチンに移動し、冷蔵庫をあけて……気づく。



「これ……は? 土鍋……?」



 鍋なんて入れた覚えなかったんだけど。

 僕は手に取って、蓋を開けてみる。



「た、卵がゆ……?」



 いや、おかしい。

 これ市販品ならともかく、どう見ても手作りのおかゆだ。



 なんで……?

 こんなもの、昨日の段階ではなかったのに……?



「…………」



 誰が用意したのかわからない。

 そんな物を口にするのは、恐くて、できなかった。



 でも……

 ぐぅ……とお腹の音がした。



「…………」



 いったん冷蔵庫に土鍋を戻す。

 他に、食材らしきものは、ない。



 いつも涼が創った物を、隣から持ってきてくれたからか。

 僕んちの冷蔵庫には、何も入っていないのだ。



 冷凍食品もないし、かといって、カップ麺などの備蓄もない。

 病み上がりで外に出る気にもなれない。


 うーばー? を頼んだことないから、やりかたがわかない。

 ……結局。



「……食べるしかない、か」



 ちょっと……いや、かなり怪しいけども。

 他に食べ物のない僕は、その土鍋にひをかけて、食べてみることにした。



 リビングへ移動し、温めた卵かゆを食べる。



「……おいしい」



 優しい味がした。

 ちょっと塩っ気が強いけど、汗をかいて塩分が失った体に、これはちょうどいい……。



「おいしい……おいしいよこれ……」



 誰が創ってくれたのか、わからない。

 でもこの料理からは、作り手の優しさが伝わってきた。



 涼でも、母さんでもない……。

 誰が創ったか不明瞭な料理からは、優しさ……そして、愛情を感じられた。



「う……うう……」



 涼を失ったショックで、胸に空いた穴。

 そこにこの、暖かさが染み渡る。



「誰かしらないけど……ありがとう……」



 僕は作ってくれた誰かさんに対して、お礼を言うのだった。

 ……でも、うん。



 一体誰なんだろう……?

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