体育祭⑥

玉入れの次の種目は綱引きだったが、これは赤組が圧勝し、現時点での点数はだいたい五分。つまり、学年対抗リレーで勝った方の勝利になる。


「翔太くん。頑張ってね。」


「なるべく頑張る。」


海結の激励に弱々しく言葉を返す。赤組は何故か三年生が前半走って、一年生が後半にはしるという暴挙に出たので、アンカーを任されてしまっている。あまりの責任に自信が無くなるのも仕方ないだろう。


「不安そうだな。」


凪砂さんに応援してもらって、ヤル気マンマンな碧は、いつもと変わらず、平然としている。


「棄権しようかな。」


「ダメに決まってんだろ!」


「大丈夫。冗談だ。」


俺の発言に焦って大きな声をだした碧を宥める。棄権したいのは、半分くらい本気だったけど。すると、碧はニマニマと意地の悪い笑みを浮かべる。


「上水流さんにかっこいいとこ見せないとだもんな。」


「は、はぁ?おまっ、何言って...!あいつは関係ねぇよ!」


名誉挽回のチャンスだと密かに思っていたけど、こいつはなんで知ってる?誰にも話して無いはずだけど...


「そう怒るなよ。翔太は分かりやすいからな。顔に出るし、考え方も単純だしな。きっと、鈴も気づいてるぞ。」


「え?マジで?」


ここまで来ると、俺が分かりやすいとか以前に、こいつら全員エスパーなんじゃないかと、疑いたくなってくる。


「マジマジ。大マジ。そんな悩める翔太に一つアドバイスがある。」


「アドバイス?」


「そう。アドバイスだ。この際、赤組の勝ちとかは全部無視して、上水流さんのためだけに走ってみるといいよ。上水流さんは、翔大のかっこいいところを見たいはずだからな。」


元から、赤組の勝つために走るつもりは無いが、いつも通り、自分のために走るつもりだったから、海結のためだけに走るという考えはなかった。

それに、海結が俺のかっこいいところを見たいと思ってくれてるのなら、頑張ってみるのも悪くない。


「わかった。今回はお前の口車に乗せられてやる。だから、そのにやけ面を辞めろ。」


時間が来て、先生のスタートの合図で一走者目が走り出した。走者を応援しながら、順番を待っていると変な金髪こと、前田くんが話しかけて来た。


「僕の予想ではこの勝負は接戦になる。つまり、僕らのバトンパスが重要になってくる。ここまでは分かるかい?」


相変わらず、鼻につく喋り方をする奴だ。結構俺の事バカにしてない?ムカつくので助けを求めて、碧に背中越しから視線を送る。


「あ、君が噂の変な金髪君?」


「誰が変な金髪だ!僕には前田 果蓮という立派な名前があるんだ!というか、君こそ誰なんだい?」


俺の視線に気づいてくれた碧が、前田くんの相手をしてくれる。この前、俺をバカにした事で碧も結構怒ってたので、喧嘩にならなきゃいいけどな。


「オレは、永井 碧。そこの君がバカにした上水流 翔大の友達だよ。」


「...ッ!」


ほら、碧怒ってるよ。こんなところで喧嘩しないで欲しいんだけど、前田くんは、碧が俺を友達だと言うと、明らかに息を飲んだ。まるで俺に友達が居ないと思ってた見たいだ。


「お前、勝負に負けて二度と関わらないことになったのに、何絡んでんだよ。」


「碧。ストップ。絡んでくるのは今だけだからいいんだよ。今後は無視するから関係ないし。」


興奮気味の碧を宥める。自分で助けを求めておいてなんだが、こんなのところで、ケンカを始めようとしないで欲しい。


「翔太がいいなら別にいいか。」


「そういうことだから、前田くん。バトンはお前が俺に合わせろ。」


前田くんがコクコクと頷いたのを確認して、応援に戻った。

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