体育祭⑤

玉入れの開始を宣言する笛がなり、一斉にかごの周りに制度が群がった。玉入れは基本的に運動の苦手な子が出る種目なので、そう簡単にかごには入れられない。

勿論、海結も例外ではなく中々に苦戦している。しかし、時間的にも後半に差し掛かったところで、コツを掴んだらしく一個二個とどんどん入れていく。


そして、タイムアップ。白熱した玉入れは惜しくも白組の勝ちで幕を下ろした。


「ごめんね〜。負けちゃったよ。」


席に戻ってきた海結の表情は、いつも通りで落ち込んだ様子もなくほっとした。


「大丈夫だよ。後は碧と上水流がなんとかしてくれる。」


期待の重さに思わず顔がひくつく。上手く場を回してくれることを願って碧の方を見る。すると、碧も下手くそな苦笑いを浮かべていた。


「あ、ああ。オレたちも頑張って応援したんだけど、聞こえてたか?」


「ちゃんと聞こえてたよ。期待に応えられなくてごめんね。」


「そ、そんなことないって!ね。碧、上水流。」


「そうだぞ。めちゃくちゃ玉入れられてたし、凄かった。」


海結が今度は本当に申し訳なさそうな顔をすると、それに見た凪砂さんが、フォローを入れる。更に同調して碧も海結を褒める。


「ほんと?ありがと!」


褒められて嬉しかったのだろう。海結は満面の笑みを浮かべる。


「翔太もなんか言ってやれよ。」


そう言われ、海結の方を見ると来た意を込めたまなざしで見つめられていた。もう逃げ場は無いとさとった俺は覚悟を決める。


「あー。玉も入ってたし、転けなかったからよかったと思うぞ。」


海結は、顔を真っ赤にしてプルプルしていた。


「し、翔太くんのバカー!」


そっぽを向いてしまった。恐らくだがちゃんと怒ってる。俺だって、わざとじゃない。ちゃんと褒めたつもりだったのに、機嫌を損ねるなんて思ってもまみないことだ。

しかし、やってしまったことは仕方が無い。なら、やることは一つ、海結のご機嫌とりしかない。自分で損ねて、自分で取り戻す。なんと虚しいことか。

少し考えたが、なにも思いつかないので、碧たちに助けてくれと目で訴えた。


「これだから翔太は...」


「これだから上水流は...」


二人してやれやれと首を横に降っていた。やっぱり転けなかったって言ったのが良くなかったのか。もう一回ちゃんと褒めろ。と、訴えかけてくる。


「み、海結。さっきのは冗談だからさ。」


「なんでそんなにオドオドしてるの?ぜんぜん怒ってないよ。それに冗談って何?あれは、翔太くんの本音でしょ?」


怒ってないわけないだろ。と、反論したくてもできないくらい怖い。それに、俺は知っている。感情的にならずに理路整然と詰めて来るタイプが一番怖いし、逃げられない。


「違うよ。本音じゃない。だってほんとは、海結が一番笑顔で楽しそうで、輝いて見えたから。」


「まぁ、いいよ。翔太くんの応援は、ちゃんと聞こえてたよ。」


海結の、その笑顔はおれにだけ見せる表情だと、そう思った。それを嬉しいと、他の人には見せて欲しくないと、感じている自分がいることに気づいた。

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