体育祭④
「じゃあ行ってくるね。」
凪砂さんの応援合戦が終わったと思ったら、次は海結の玉入れがある。午前中は暇だったが午後から自分の種目もあるので忙しい。
「おう。転けたらダメだぞ。」
「だから、それは忘れてって...!」
「ごめんごめん。玉入れ頑張れ。」
ぷんぷん怒る海結を見て、さすがにこれ以上蒸し返すのも可哀想だと思ったので、激励を入れて送り出す。
「海結ちゃんのことちゃんと応援してやりなよ。」
「わかってるよ。」
身内が出るのだ。さすがに応援しない訳にはいかない。ただ、いくら玉入れという簡単な競技でも、海結が活躍している未来が見えない。それを、凪砂さんに言うと怒られそうだったので碧に伝えた。
「確かに上水流さんはお世辞にも運動神経は良くないからな。でも...」
「でもなんだよ。」
碧は少し逡巡した後、続きを話し出した。
「でも、上水流さんは翔太が応援していなかったって知ったら、悲しむんじゃないかな?」
応援はする。わざわざ声を出したりはしないが、できれば活躍して欲しいと願っている。それではダメなんだろうか。
「よく分からないっていう顔をしているな。」
「そうだな。俺が応援しないってだけで、悲しむってのはよく分からん。」
俺が応援しなくとも、海結のクラスの連中は声を出して応援するだろうし、親父と紗季さんも活躍するよう願っているはずだ。
「まぁ、オレはお前がそういう男だって知ってるから、もうなにも言わない。けど、翔太はもうすこし自分の気持ちと、周りの友達気持ちに目を向けてみるべきだ。」
そう言う碧の顔は、いつになく真剣な表情だった。それを見て、少し考えを巡らせる。俺は自分の気持ちに嘘をついたことがないと思ってる。あの時、導き出したそれが答えだ。
それなら、海結の気持ちはどうだろう。海結は俺のことをどう思っている?大切な家族だと言ってくれたが、本心から来た言葉なのか?あの時の喧嘩の原因をもっと考える必要がありそうだ。
「上水流。戻ってきな。海結ちゃん出てくるよ。」
凪砂さんに声をかけられて、意識を元に戻す。この件はまたゆっくり考えるとしよう。
「ほら、声出して応援するよ。」
海結が入場してきた途端、凪砂さんは大きな声で海結を呼んだ。その声に反応して、海結もこっちに振り向いた。
「海結。頑張れー!」
俺は、一旦恥じらいは捨てて海結を応援することにした。手を振れば、振り返してくれた。
どうやら気合いは十分らしい。俺は、その気合いが空回りしないことを祈るばかりだ。
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