体育祭③

借り物競争が終わり昼休憩に入った。海結たちと弁当を食べに、校舎裏に移動しようと決める。そこに向かって歩いていると、見知った影を見つけた。


「お母さん!お父さん!」


紗季さんと親父の後ろ姿を見て、すぐに走っていった海結の後を追う。


「あ、いたいた。お父さん。海結と翔太くん居たわよ。」


海結が紗季さんに飛びついた。それを横目に見つつ、親父が振り向いたと同時に碧が話し出した。


「初めまして。翔太と海結さんの友達をしてます。永井 碧と言います。」


「凪砂 鈴です。」


今まで見た事がない優等生モードで挨拶をしている。


「あ、ああ。君たちが。話はよく聞いているよ。」


見た目のチャラい金髪のカップルが頭を下げているのだ。動揺するのも無理は無い。まあ、関われば関わるほど、いい奴らであることは理解るが、それは初対面では難しいだろう。


「こちらこそ、翔太と海結ちゃんがお世話になっているね。海結ちゃんはいい子だけど、翔太はなんというか気難しいでしょ。」


気難しいと言われるのは心外だ。確かに、理性よりも感情に左右され易い正確であると自覚はあるものの、気難しい程じゃなくめんどくさい程度だと思ってる。


「いえいえ、その辺はもう慣れましたよ。翔太は面白い奴なので、強引にでも友達になっておいて良かったです。」


「それは、良かった。立ち話もなんだし、一緒にお昼食べようか。学校での翔太を聞かせてくれ。」


「はい。いくらでも教えてあげますよ。」


「辞めてくれ。」


「断る。母さんもきっと聞きたがってる。」


もちろん俺に拒否権は無い。それに、親父は俺が紗季さんの名前を出せば、断りきれないことを知っている。今回も例には漏れない。諦めて親父たちの後をついて行く。


俺にとって、心休まる昼休みは地獄だった。紗季さんも親父もテンションが高く、それに比例して碧と凪砂さんもテンションを上げていた。

そして、俺の学校での様子を余すこと無く話された。海結も紗季さんも皆、楽しそうに話をしているのに、俺だけ肩身が狭かった。ただ、海結に元気が戻ったのだけは良かった。


時間が迫ってきたので、親父たちは観客席に戻り、俺たちも自分の席に戻った。


「どこ見つめてんだよ。」


「虚空。俺は何も知らないし、何も聞いてない。」


人の気も知らないでゲラゲラ笑う碧を他所に、俺が羞恥のあまり取った手段は現実逃避。


「虚空を見つめるのも大概にしろ。そろそろ鈴が出てくる頃だぞ。」


そう言われて気を取り戻し、ポケットからスマホを取り出して、動画を撮る準備をする。

そして、アナウンスがプログラムを読み上げた。すると、赤組と白組。それぞれが違う服を着て出てきた。赤組はソーラン節のかっこいい衣装。白組は...


「チアガールのコスプレ?なんで?」


男もいるのにチアコスなのが、衝撃すぎて理解が追いつかない。


「ひっ、ひぃ〜。やばいっ!し、死ぬ...」


碧は笑いすぎて死にかけているし、海結は凄いねと、真顔で言っている。その表情からはなにも読み取れない。


「ほら、始まるぞ。」


先行は赤組で、一度は聞いた事のある音楽が流れ出した。かなりの人数が居るため、凪砂さんを見つけ出すのに苦労しそうだが、金髪がよく目立つのですぐに見つかった。良く練習したのだろうか。一際かっこよくキレのいいダンスを踊っていた。

そのかっこいい凪砂さんに、海結も碧も、もれなく俺も見入ってしまった。


「鈴ちゃん。かっこよかったね!」


赤組の応援が終わり、沈黙を破ったのは海結だった。海結は興奮気味に凄かった、かっこよかった。と、連呼している。


「ああ、ほんとにかっこよかった。流石はオレの鈴だな。もっと惚れちまったぜ。」


「そういうのは、要らねえよ。凪砂さんに言ってやりな。」


相変わらず惚気けてくる碧に釘を刺す。実際めちゃくちゃかっこよかったので、気持ちはわからないでも無い。


「おい、白組始まるぞ。面白そうだな。」


碧の言う通り、期待値は高い。いざ始まってみると、男の汚い足が見えるだけで、それはもう面白いのだ。一瞬にして会場が笑い声に包まれた。

応援合戦は投票制。かっこよさの赤組。面白さの白組。どっちが点を取ってもおかしくない。


「碧。生きてるか?」


「なんとかな。」


笑い死にかけていた碧を助けて、凪砂さんを迎える。


「鈴ちゃん。おかえりー!かっこよかったよ!すごかったね!」


そうそうに、捲し立てる海結を宥めつつ凪砂さんと碧が向き合った。


「すげぇ、かっこよかったぜ。オレの彼女は世界一だな!」


グッと親指を立てて凪砂さんを褒める。それに凪砂さんは顔を赤く染めた。一旦言わせて欲しい。学校でイチャつくのは辞めて頂きたい。

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